序章 第六話
昨日の事を思い出していた。なぜ命まで狙われたのだろうか。
考えられる事はタイムマシン。ライバルの仕業じゃないだろうか。
発明なんて、似たような時期に、違う場所で同じような事をやってるものだ。
電話しかり、自動車しかり。
タイムマシンを研究中のどこかの誰かが、研究の邪魔をするために、俺たちの命を狙ったとしても不思議じゃない。
電話が鳴る。受話器を取ると今日子であった。
「暇有る?」「別にいいけど」
「実は下でもう待ってるの」
アパートの2階の窓を開ける。階下に黒いスポーツカーと手を振る今日子が見える。
相変わらず強引である。
この世に私の誘いを断る男性がいるはずないわ。というような強引さである。
「十分待ってくれ」で受話器を置いて、鏡をみつめた。
昨日殴られた左頬は、まだいくらか腫れている。
階段を降りて右手を挙げると、今日子が車のキーを差し出した。
「どこか連れてってよ」「ホテル以外だろ」
「今日はどこでもいいわ」
スタートボタンを押すとナビが聞いてきた。「どちらへ行きますか」
俺は「千葉グランドホテル」と告げた。
今日子があせって「どこに連れて行くのよ。冗談じゃないわ」とか
「私を安く見ないで」なんて言うのを期待したんだが、なんの変化もない。
それより車の窓の外を見ながら楽しそうである。
「どういうつもりだ。これからホテルに行くんだぞ」
「まぁ、いいんじゃないでしょうか。昨日は私の為に命がけで闘ってくれたしね」
「そんなつもりは無かったね。男として当然の事をしただけだ」「そして俺は恥をかいた。君があんなに強いとは。自信を無くすよ」
昨日は散々だった。今日子には車で負け、喧嘩で助けられ、何をやっても勝てない気がした。
車が千葉グランドホテルに到着する。チェックイン。
今日子が付いてくるはずがない。それでもいい。
俺は構わずエレベーターに乗る。今日子がなんと付いてくる。
とまどいを今日子に気づかれないようにして、部屋の鍵を開ける。
今日子がついてくる。ドアが閉まる。
俺は当然のように今日子の腰に手を廻し、抱きしめ、唇を奪った。
こんな事が有るはずが無いと思いながら。