しなさだめ
少しだけ和風ホラー要素を含みます。
念のため注意してください。
すたれた小さないわくつきの、うちの家が昔経営してた神社は森の奥にあった。
近所の学校や小さな子ども達は、あそこには神様はもういなくて今は別のものがいて、そこへ行って気に入られたら連れ去られてしまうらしい。と昔から皆口々に噂している。
実際少し前に、ふざけて肝試しに向かった男女グループが行方不明になり、見つかった一人は精神病院にいて、隔離病棟で今もムカデがバケモノがと喚き散らしているらしい。噂で聞いたから確かとは言えないけれど。
地元の新聞記事に載った記事はまたたく間に学校中に広まって、無礼を働いた呪いだと噂された。そんな噂も暇つぶしの道具でしかなくて、お気楽な彼らの娯楽に消費されていった。
うだるような暑い夏の夕方。
赤い陽がどろりと石造りの階段と紅い塗装の禿げた鳥居にまとわりついて私の背中を燃やし、ぬるい風が頬をなでて下着を肌に密着させた。
後ろでクラスメイトの有名な女子グループの耳障りな嘲笑がまとわりついてくる。
私が昔この神社を経営してた家系だと知るやいなや、すぐに神社の話を持ち出しては貶して私のものを隠したり壊したり、典型的で陰湿ないじめを繰り返していた。そのたびに私はあいつらの単なる暇つぶしでしかないことを悟りつつも、自分の家系を呪っては罪悪感に苛まれるそんな日々をおくった。
放課後、私はあいつらに肝試しだと連れられて噂の神社へやって来た。
「なにしてんの、早く入ってよ」
渋る私に、あいつらのひとりがいらだたしげに言う。
あいつらは何も感じないの?さっきから凄く嫌な気配が鳥居の奥から流れてくるのに……
私はポケットにしまっていた幼い頃に両親にもらったお守りの赤い袋を取り出してぎゅうっと握りこんだ。
大丈夫。私は帰れる。ただ賽銭箱に触れて帰ってくればいいだけだ。大丈夫、大丈夫……
私は自分に脳内で言い聞かせ、意を決して不気味な鳥居を恐る恐るくぐった。
何も起きないかと気を尖らせて石畳の道を奥の本殿まで歩く。薄汚れた賽銭箱のはしを指先ではじく様に触れて踵を返した。
早く帰りたい。
その一心でそそくさと歩を早め、最後は小走りで鳥居まで行く。
あと数歩で出られる、内心ほっとして片足を踏み出した。
その瞬間
先程までの鬱陶しいほど気持ちの悪かった生ぬるい風がピタリとやんだ。
次に後ろから何かに見られているような気配と圧迫感。
それを感じたと同時にいじめっ子達が狂ったように叫び声を上げて逃げていくのが見えた。
待って、と声を上げようとした時、何かがすぐ後ろにいる気配を感じた。
耳にかかるほど近く、生暖かい息遣いに喉が息をヒュウッと音を立てて吸い込む。
体に何か硬くて細い何かが触れるような、撫で回すような感覚に体が跳ねて目をきつく閉じる。
まるで品定めされているみたいだ。
そんな時間がいつまで続いたんだろう。
急に撫で回される感覚がピタリとやみ、私の首と左手首にひんやりとした何かが巻かれる。
「キニ……タ、ゾ……ワタ…ノヨ……ニヤル……」
耳元で何かが唸るように言葉を発しながらカチカチと何かを叩き合わせるような音が聞こえて、何を言っているのか聞き取れない。
ただ一つわかった事は、私はもう逃げられないということだけ。