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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

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番外編1 おじいちゃんと呼ばれたい

「ふぅ……」


 城のバルコニーから庭を見下ろしてため息をつく一人の年寄りがいた。レイトーマ師団総師団長ツヅガ・アルバールだ。その様子をこっそり覗いてる情報部隊の第三師団長カレン・コリータは、ツヅガがこうなったのは今ではないと語る。

 そんなある日の昼休み、中庭の木の上でだらけていた第四師団長ユウ・レンダラーの元に、師団長達は集まっていた。


「総師団長、どこか悪いのネ?」


「えっ、そうなんですか!? 食欲は普通にあるようですけど……」


「私は聞いたことがないぞ。父上が病気だと。厳しい父上だ、病気など吹き飛ばしてしまいそうな男なのだが」


 心配をしている第一師団長アックス・レックス、第二師団長キリリ・クリリ、特別師団長オルト・アルバール。それに対し、木の上で寝ているユウは大きなあくびをし、ぼそっと呟いた。


「くっだらね~」


「くだらぬとは何だ! レンダラー、貴様は父上がどうなってもいいというのか! このレイトーマ師団は父上で持っているというのに!」


「バカ息子にはあのじいさんの本性が見えね~んだよ」


「父上の真の姿は家族である私がよく知っているわ! 本性など知っている!」


「本当かよ。カレ~ン、あのじいさんが普段何してるか教えてやれよ」


「えーっ! あたしが!? 仕方ないなぁ。オルトのおじいちゃん像崩れなきゃいいけど……」


 ぶーぶー言いながら、カレンは持っている手帳を取り出し、ツヅガの行動を語り始めた。それは、いくつか抜粋しての事である。


「えーと、姫様の誕生日パーティ企画、姫様と談話する会を開いてー、腰が悪くなってきたから女の子にマッサージして貰ってデレデレしてるおじいちゃん」


 ここ暫く、ツヅガは間違いなくゆるりとした行動を取っているのだが、ここぞという時はしっかり働いているのだ。先のクーデターもそうだが、それまでのレイトーマ王国への貢献度は高い。それを知っているオルトだからこそ、カレンのこの情報には怒りが沸いた。


「コリータ貴様! 父上を侮辱しているだろう!」


「してないよ! いつもこんな事ばかりだよ、おじいちゃんは!」


「貴様の祖父でもあるまいし、おじいちゃん等と言うな!」


「いいって言ったもーん♪」


「ええい! いちいち音符や星マークを付けるな、イライラする!」


 と、腰の剣に手をかけて引き抜くと、カレンに向かって振り下ろした。ひょいと避けるカレンを追いかけていくオルト。


「け、喧嘩しないで下さいよー。レックス隊長も止めてくださーい!」


「面白いからいいのネ!」


 キーキーキーキー騒いでいるこの師団長たち。それまで馴染まなかったオルトもすっかりカレン達のペースに巻き込まれている。これこそレイトーマが平和である証でもあるのだ。平和ではあるが、民はまだ不幸なままである。マトがいろいろと画策し、兵士や民に銘じてかつての賑わいは取り戻しつつあるが、まだまだ時間がかかりそうだ。

 そのマトとツヅガは、医務室でその話をしていた。


「カトレアとの交流出来たのは大きいな。人の行き来があって、我が国の食料を買ってくれる。そしてカトレアの文化も流れてきて芝居や演奏などの公演をしているのだから、間は極めて良好だって事だな」


「外の世界を見てきた陛下だからこそ、実現したことでありまする。……おおお、もう少し下、左、そこじゃそこじゃ」


 ふー、とリラックスした顔をしているツヅガは、腰のマッサージを受けていた。城の他の人に聞かれて困る話ではないので、ツヅガを見舞いながらこの話をしていたのだ。


「それにしてもじいさん、だいぶ腰が悪いようだが……」


「ご心配には及びません。ちと鍛えすぎただけでございまする。この程度で倒れるわけには参りますまい。わしが陛下と師団を支えなければ……。もう少し、もう少しだけ、わしに総師団長をさせて下さい」


「分かっている。ただ、姉上の耳に入ると、飛んで帰ってきそうだと思ってな」


「姫様は心お優しい方ですからな。いや~、わしにも姫様のような娘や孫娘がおったら……」


 ニタニタ笑うツヅガ・アルバールは男一族なのだ。生まれても息子、孫も男、女はしばらく生まれていないという。それ故に、なんと呼んで貰おうか、何を買ってあげようか、どんなに可愛らしい子に育つのだろう、等と妄想ばかりしている。カレンにおじいちゃんと呼ばれているのは、孫娘がいる気分を味わうためなのだ。


「はぁ、姫様にもじいじと呼ばれたかった……。緋媛に阻止されなければ、今頃姫様にお爺様と言われていたかもしれん。少し上目遣いで、照れくさそうにおっしゃるんじゃ。たまらん……!」


 娘がいないのだから仕方ないが、姉で変な妄想をしないで欲しい。マトは心に留めておく事にした。だが、ツヅガの施術をしている医者が、こんなことを聞いたことがある、と言い出した。


「カレン隊長が姫様とここで対話をされた事がありまして、その時に姫様も爺と呼んだ方がいいのかとご相談されてましたよ」


「爺! それでも良い! で、カレンは何と!?」


「カレン隊長は喜ぶだろうとおっしゃってましたが、緋媛元隊長が止めてましたな。王族が軍人を呼ぶのに爺はない、従者でもあるまいしと。今までどおり名前呼び捨てで十分だと」


「緋媛がわしの邪魔をしおったか! あやつに相談することの八割はダメじゃと言われるんじゃ! うぅ……! おじいちゃんと言われても良いではないか!」


「俺が言ってやろうか? おじいちゃん」


「男に言われても嬉しくないわ……いいいいい!」


 マトの嫌味にガバッと起き上がったツヅガは、急激に腰を悪くしてしまった。歯を食いしばっている姿を哀れに思うマト。ツヅガは苦しみながらこう言った。


「わ、わし……何かあった時の遺言に、姫様におじいちゃんと呼んでほしいと書くんじゃ……」


「いいから寝てろ、じいさん」


 この日、老兵は一日中医務室に缶詰めになっていたのだった。



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