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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

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22話 龍の神殿④~破王の過去 ケリン・アグザート~

 約三百年前、カトレア王国に一人の男児が生まれた。名を、ケリン・アグザートという。すくすくと成長した彼がやがて十五歳になると、ある能力に目覚める。それは触れた者の未来を見る力――。恋人と手を繋いだ時に知ったのだ。


「ねえ、目の色が銀色よ? どうしたの?」


 講演の噴水に腰を掛けていたケリンは、水面を覗きこんだ。確かに銀色になっている。ぱっと彼女の手を放すと、瞳の色は元に戻った。そして手を繋いでいる間、はっきりと脳内に映っていたのだ。彼女の今後の人生が。二年後には別れるのだ、ならば今別れてもいい。そう思った。


「ごめん、君とは付き合えない」


 これが、未来を見る力を知ったきっかけである。


 それからケリンは様々な人々の未来を見てきた。親、友人、その辺で知り合った人達。見れば見る程力が安定してきて、やがて見たい人と見たくない人で判別できるようになった。人の死まで見えてしまうので、あまりこの能力は使わない方がいいと察した結果だ。しかし、周りはケリンを頼るようになってくる。


「なあケリン。そんなすげえ力があるんだからさ、預言者になれよ」


「預言者かあ……。気が乗んねーなぁ」


「的中率100%だぜ? 商売繁盛間違いなしだって! 最初は占い師ってことにしてよ。俺が全面的にバックアップするし、このカトレアに一風新しいもん入れようぜ!」


 悪い話ではない。この商売が当たればぼろ儲けだし、何よりこの能力がある。もし危険を回避する事が出来たら、それはケリンの功績で商売が認められるのだ。何故なら占い師や預言者という者は、この国ではまだない職業なのだから。ケリンは友人の話に乗り、大通りでこじんまりとした一室で預言者として商売を始めると、瞬く間に噂が流れた。


「聞いた? 絶対当たる占いの店」


「知ってるー! 預言者でしょ!? お母さんが行ったら病院に行った方がいいって言われて、そしたら初期のガンだったの。怖いけどそれも当たったの。すごくない?」


「ずっと行列出来てるって。早く行こうよ」


 特に女性に人気で、フードを深く被った中から覗く銀の瞳が素敵だと言われている。ケリン自身はそんな事気にしておらず、ただ淡々と手を握った相手の未来を見ていた。そんなある時――


「ね~え、未来が見えるって本当?」


「……はい」


 随分と色っぽい女が入ってきた。胸元をちらつかせている。でもどこか胡散臭い。女の手をぎゅっと握り、未来を見る。


「さっき、貴族の方とすれ違ったけど、明日の貴族の集会ってどれぐらい集まるのかしら」


「……誰もいませんよ。テロリストに警戒して、延期となったそうで――」


 その瞬間、女は素早く手を引っ込めた。額には汗が浮かび、どこか焦っている。ケリンには見えていたのだ。彼女がそのテロリストの一人だと。聞きたいのは、テロが成功するかどうかだったろうが、白を切った方がよさそうだ。


「どうしました? 私が見た未来は、来年、素敵な恋人が見つかるといったものですが……」


「こ、恋人? 本当にそれだけ?」


「はい。ですから他の恋人達とは、今のうちに別れたおいた方が賢明かと。ご安心ください。お客様の秘密は徹底的に守りますから」


 にっこりと笑うケリンに、女は上機嫌で去って行った。未来は変わるだろうか。貴族の集会にテロリストが突入し、貴族を虐殺する事件があってはならない。たかが予言、たかが占いだと言われるだろうか。ケリンは友人に頼み、見回りの兵士に事情を話してもらう事にした。


 するとその翌々日、テロリストが一網打尽にされるという報道が流れ、ケリンの名は王室まで届く事になる。そこから王室に呼び出されるまでは、そう長くはなかった。


「ケリン・アグザートだな。国王陛下がお呼びだ。付いて来い」


 彼自身、何か悪い事をしたのかと不安に思ったが、そんなはずはないと思っていた。まるで連行されるような形で王室の兵士に連れて行かれたため、友人は黙って見送るしかない。テロリストの件が絡んでいるのだろうか。


 城に連れて行かれたケリンは、謁見の間で国王と対面した。他にいたのは腕組みをしている男性と王妃しかいない。兵士すらいない事が気になっていた。ともかく国王の前だ、跪かなければならない。


「表を上げよ。まずは礼を言おう。先日の件は感謝する。お前のお蔭で命が救われた」


 国王からの言葉で、自分は正しい事をしたのだと自覚する。ところが、それを否定する男がいた。腕組みをしている男性だ。


「しかしその能力を使っての事。ワシは素直に良いとは言えんの。本来、生物が歩むのは自然の流れでなくてはならん。主は数多の人間に干渉しすぎておる。これからは、役目を終えるまでそうはいかん」


 二十代後半ぐらいだろうか。若く見えて随分年老いた喋り方をしているその男の瞳は、まるで獣のようだった。


「そうは言ってもだな、今回ばかりは大目に見てくれないか? 龍族の長よ」


「……まあいい。ワシから龍神様に説明しておくとしよう」


 長はイゼルの先代であり、司の父、緋媛達の祖父にあたる。厳格で厳しい表情が印象的だが、性別が雌なら何でもいいという悪癖を持ち、度々イゼルや薬華に迷惑を掛けていたのだ。ところがそれは、各国の国王たちは知らない。


 話の見えないケリンに、国王は世界の理について話始めた。彼は自分が人柱に選ばれたとは思いもしないが、この未来を見る力は天から授かりし神の力なのだと思い込むようになる。今後は未来を見ても誰にも話さないようにと釘を刺され、その時は承諾したが、腹の中では「そんな口約束守れるか」と考えいた。


 そんな様子がわずかでも見えたのだろう。当時の龍族の長はケリンを信用していなかったという。そして、族長の予感は的中したのだった。



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