表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/240

17話 何も聞かずに

 ナン大陸の里に戻った緋媛は、救い出したマナを彼女の部屋で寝かせた。屋敷の玄関で待っていたリーリが、布団を準備してくれていたのだ。今はマナが目覚めるまで傍に居ようとしている。


「リーリ、少しの間姫を見てくれ。俺、イゼル様の所に行か――」


「戻ったか緋媛。姫は?」


「フォルトアと緋刃はまだかよ」


 彼らの帰宅に気付いたイゼルと緋倉がマナの部屋に入ると、緋倉はすぐマナに暗示がかけられている事に気付いた。緋媛は報告をしなくてはいけないのだが、いろいろあった為頭の整理がつかない。ついマナの唇に視線が行く緋媛だが、やるべき事をやらねばとリーリに視線を向ける。


「……リーリ、外してくれ」


「お姫様を見てって言ったり、外せって言ったり、何なの緋媛! バカバカバカ!」


 プリプリしながらリーリは出て行った。イゼル曰く、リーリはずっとマナの安否が気になっていたのだという。彼女が無事に戻ってきたらマナの好きな料理を沢山作ろう、自分にはそれしか出来ないと言っていたのだ。


「リーリの事だ。姫が起きたらすぐ飛んで来るだろう。先に姫だな。どうだ緋倉」


 マナの頭に触れて様子を探っている緋倉は、難しい表情を浮かべた。


「……親父が暗示かけてるみたいなんですけど、強力なんですよ。俺でも解けなくはないけど、下手すりゃかけた相手の心を壊しかねない時があるんです。稀に自分の殻に閉じ籠ったり、感情の制御が出来なくなったり、いろいろありますけど……。全部解けないかもしれませんが、やってみます」


 もしマナが殻に閉じ籠ってしまったら、恐らく司の口付けが原因だろう。だがそんな事は思い出したくもない。母の緋紙を裏切った行為なのだから。それにこれをイゼルに報告してはマナが傷ついてしまう。


「さて、緋媛。ダリスであった事を報告してくれ」


 緋媛は破王達三名が過去US2047へ行ってしまった事、その為にマナに無理矢理扉を開かせた事、破滅の未来を救う為という目的を話した。


「それと、これはフォルトアさんでないとはっきりしないのですが、おそらく破王は俺達が使うような術を使えるようです」


「人間が術を? そういえば前に、緋倉から同じ報告があったな。ダリス六華天の一人が術を使っていたと」


「覇王は俺達同族の……同族を喰っていたと……。これは俺の推測ですが、もしかするとそれで術を使えるようになったのではと……」


 これを言った緋媛の声は震えていた。聞いたイゼルと緋倉も耳を疑い、顔が青ざめる。予想していなかった事だったのだ。これが本当ならば、捕えられたままの他の同族の命はないものと思っていいだろう。


「イゼル様、報告が――」


 そこへ戻ってきたフォルトアと緋刃は、重々しい空気に立ち止った。しかし緋刃は空気を読まない。


「あれ、何かこの世の終わりみたいな顔してどうしたの?」


 はっと気づいたイゼルは、長として動揺してはいけないと一息つく。その様子に、やはり彼は凄いと緋倉は尊敬するが、表情に出さずにマナの暗示を解き始めた。


「何でもない。それより報告を聞こうか」


「ダリス城の地下から同族の匂いがしたので緋刃と行ってみたのですが……」


 自分の口からはやはり言えない。フォルトアは横目で緋刃を見る。


「酷いもんだよ。バラされてたみたいで、血しか残ってなかったんだ。助け出せたのは広場で繋がれてた一体だけなんだけど、血を抜かれて相当弱っててさ、ヤッカ姐さんところに預けてるよ」


「そう、か……。助け出せたのは彼だけか」


 他の者達は何処へ行ったのだろう。血だけ残ったのなら、どこかへいるはずだとイゼルは思う。その中にはおそらく紙音とゼンもいると推測するが、それはあくまで推測でしかない。考え込むイゼルに、緋媛が険しい表情で口を開いた。


「イゼル様。俺はあんたを信用しています。俺だけじゃない。里の連中もです。だからこれだけは教えてください。親父がダリスに付いていた事を知っていましたか?」


 答えるまで逃さないという瞳をしている。だがこれは、()()()()()()()()()答える事はできない。いつもならばすぐに答えるのだが、この間が何かを知っていると物語っていた。マナの暗示を解除している緋倉の手が止まり、緋媛達の方へ歩み寄っていく。


「もしかして知ってたの? 父さんの事。倉兄は?」


 緋刃の問いに、緋倉は薄く微笑みながら弟達の頭にポンと手を乗せる。そして彼の瞳が赤くなった。


「この事は一切聞くな」


「クソ兄貴……!」


「何で、俺達に暗、示……」


 緋倉は父親がやっている事の一切を問わないよう強めの暗示を掛けてしまい、緋媛と緋刃はその場にばたりと倒れてしまった。何故こんな事をするのかと、フォルトアは目を見開いている。


「フォルトア」


 イゼルの真剣な低い声にビクっと体を震わせるフォルトアは、彼と緋倉に交互に視線をやる。


「何も聞かず、司の事は信用してやってくれ。頼む」


「親父はいつも里の事だけを考えてんだ。察して欲しい」


 彼らはフォルトアに頭を下げ、頼み込んだ。少なくとも、イゼルと緋媛にしか知りえない事象なのだろう。だが幹部であるフォルトアの耳に入っていないという事は、余程危険な事なのだろうと推測した。


「頭を上げてください。一族の長であるイゼル様と、俺とルティスを救ってくれた緋倉様にそんな事、されたくありません。司様が誰よりも里想いだって事は、僕も良く知っているつもりです。その方法が良くないものだとしても、貴方方が信頼する以上、僕も信用します」


「……すまない」


 これがルティスならば緋媛同様、感情的になっていただろう。冷静なフォルトアで助かったと、イゼル達は安堵した。

 その時、マナ目が覚めたらしいのだが、何かに苦しんでいるようだ。まさか暗示の解除が失敗したのか。それはない。()()()()()()()()()()()()解除したのだから。


「あっ……何、これ、嫌……っ! 見たくない!」


 顔を手で覆うマナは呼吸も苦しそうにしている。緋倉はすぐに様子を見るが、指の隙間から見える瞳は通常の灰色ではない。


「触れてもないのに瞳が金に? イゼル様、これは!」


「力を完全に使えていないのに、無理矢理扉を開けさせられた事で暴走しているらしい。俺ではどうしようもない」


 ――パキン、という枝が折れる音が庭から聞こえた。誰かと思い振り向くと、そこには長い黒髪の女性が立っていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ