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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

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11話 カトレア問題③~暴露2~

 準備は万端だった。なのに何故この映像がすり替えられているのか。映像が映し出されている映写機の方を見ると、緋刃がニヤッと笑っている。童顔の男は、緋刃なのだ。


(あの野郎……!)


「何て事ですの! 私まで巻き込まれるなんて……!」


 べーと舌を出した緋刃は、映写機を離れ始めた。民衆からはアツキとカツキが自滅したように見え、質問攻めで答えられず、壇上は炎上している。そこへ緋刃がゆっくりと近づいてきた。


「緋刃……!」


 そうだ、まだ打開できる。これを利用するのだとアツキの悪知恵が働く。


「落ち着いてお聞きください、皆様! そこの片桐緋刃がネツキの命令で、こうしてありもしない事をでっち上げ、こうして我々を陥れようとしているのです!」


「僕達が準備した証拠を、適当に作った偽造文書に差し替えたのだー!」


 カツキも便乗し、民衆全員がゆっくり歩む緋刃に目を向ける。だが、彼は少しも動じていない。いつもお調子者である彼だが、静かに怒っているのだ。


「ありもしない事をでっち上げたのは、お前らの方だろ」


「聞きましたか! 王族に対する無礼な言葉遣いを! 態度を! そう、彼も江月からの刺客なのです!」


 報道陣は次々と起こる事の情報を、我先にと外へ漏らしている。民衆の緋刃に対する視線はやはり疑いの眼差しでしかなく、まだ二人の王子の味方だ。


「江月が軍を率いる? そんなバカげた話があるかよ。だってあそこは、江月を護る最低限の頭数しかいねーからよ。それも、片手で数えられるぐらいのな。それで軍って呼べるのかよ」


 緋刃の言葉に、閉鎖された国の江月の情報が入ったと、報道陣がこそこそと言い合っている。


「適当な事を抜かすな! 何を証拠にそんなデタラメを……。証拠を出せ!」


「あん? あんたら、俺の事江月からの刺客って言ってなかったか? 江月のもんだから本当の事言っただけだけど? それにさー、ネツキの命令でって言ってたっけ。あいつが命令した証拠どこにあるの?」


 証拠を出せと言った手前、出すことが出来なければ民衆を納得させることは出来ない。ネツキを叩き落とす為に作った偽の文書は差し替えられてしまい、映写機にいる者はネツキ側の人間だ。どうすればいい、頭をフル回転させるアツキ。カツキは慌て、コロンは冷や汗を流している。


「言っとくが、そこに映っている事は俺が十年以上かけて集めたもんだ。誰の命令でもねぇ、お前らのやり方にムカついて俺自身がやった事だ」


「これが僕らの計画だって? 誰だって書けるんだから証拠でも何でもないだろー」


「……そう言うと思ったぜ。だったらこれはどうだ?」


 バカな王子達だと、呆れた緋刃。その時、ふよふよと何処から飛んできたのか、両手で持てるような大きさの丸い水の玉が会場の中心にやってきた。その水の玉が弾け、気化した時だった。


『王族って楽するもんだろ? 何で俺たちが庶民共の為に働かなきゃならないんだ? なぁ、カツキ』


『ほんと面倒だよね、アツキ兄様』


 聞えてきた声は、紛れもなく二人の王子の物だった。水の玉は、これまでの王子達とコロンの発言を溜めていたのだ。


『庶民共は俺達の為に金出せばいいものを。俺が国王になったら税金を今の倍にしてよ、楽して暮らすんだ』


『それいいね! 所詮庶民は金蔓だって、お母様も言ってたもんね!』


 その瞬間、会場内にどよめきが走った。この会話内容は、スクリーンに映っている緋刃が差し替えて公開したものと一致している。ちらっと緋刃が壇上の袖に隠れているコロンを見た。


『あの女の息子が国王ですって!? 私の可愛いアツキちゃんでなく、あの女の!?』


『はい、おまけに庶民の娘を王妃にすると――』


『おのれ……!』


 何故自分たちの声が会場に響くように流れているのか、王子達は全く理解できず、民衆や報道記者はどういう手品になっているのかと、緋刃に興味深々だ。コロンは自分の発言が知られてしまうと、壇上に飛び出してカツキに何とかするよう命じる。


『つきましては、王妃様には指南役になっていただきたいと国王陛下より――』


『それですわ! その庶民の娘をこの城から追い出すように仕向けるのです。庶民がこの城に足を踏み込むだけでも汚らしい。金を落とせばいいものを、居場所がないと思い知らせてやりますわ』


 このような内容が民衆の耳に入ると、大きなブーイングが起こった。国民を何だと思っているんだ。この国から出て行け、お前らなんか王族じゃない等の暴言もあれば、物を投げつける人間もいた。


「マ、ママぁ」


 弱気になるカツキ。涙目になりながらコロンのドレスをギュッと握っている。


「お、おのれ緋刃! 王室に対する侮辱だぞ!」


「それを決めるのはアンタらじゃねぇ。国王陛下だ。そうでしょう? 陛下」


 緋刃はアツキの更に向こうに視線を移す。この場にネツキがいるはずがない。あいつは国王の仕事に追われて来れるはずがないのだ。反逆者三人はそう思っていたのだった。しかし彼は、四人の護衛の中にいた。



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