10話 カトレア問題②~暴露1~
ネツキがキツクラに王としての指南を受けているように、アツキとカツキが講演を行うこの日も、エルルは王妃としての指南を前王妃コロンから受けている。その度に彼女は落ち込み、涙目になってしまう。
(王妃指南って、こんなに辛いものなのかな)
休憩中の今、彼女は気分転換にピアノを弾き始めた。ゆったりとした曲を弾いたり軽快な曲を弾いたりとまちまちだが、好きな事をしているのが一番いいらしい。数ある譜面を選びながら、少しずつ鍵盤を弾いている彼女に笑みが零れた。
(ネツキ様、いえ、国王陛下に聴かせたい)
するとその時、休憩を早く切り上げたコロンがお付きのメイドを連れて戻ってきた。ビクッと体を震わすエルルは、慌ててピアノから離れる。
「汚い音が聴こえていると思ったら……」
ネツキはエルルが奏でるピアノは美しいと褒めるのだが、コロンは嫌味しか言わない。彼女は何の芸事も出来ない訳ではないというのに――
「私の可愛い息子達の耳が汚れたらどう責任を取ってくれますの?」
エルルは答えられなかった。奏者の評価をするのは、観客であったりと他人なのだから。
「まったく、庶民上がりがよくもまぁ……」
ピアノに置いていた譜面を手に取ったコロンは、ビリビリッと破り捨てた。捨てられた譜面をささっと拾い、ぎゅっと抱きしめる。いつも弾いていた大切な譜面なのだ。
「ゴミを拾うなんて、何て汚らしいのかしら。王妃がする事ではありませんことよ。さ、可愛い息子達の演説を観に行きましょう」
「はい、コロン様」
コロンとメイドは、クスクスと笑いながら去って行った。
極度の人見知りでまだまだ城に慣れないエルル。ネツキに虐められている事は言えず、唯一の救いはピアノを弾く事だけだった。しかし、大切な譜面を破かれては、エルルの心も引き裂かれたのと同じ。彼女は泣いた。
数時間後、第一王子のアツキと第二王子のカツキは、多くの護衛を連れてある会場にやってきた。ネツキとミッテ大陸、江月の関係に関する重大な証拠を公開すると、多くの記者達を集めていた。その中にはこの件に興味を持つ民も多い。
「いよいよだな、カツキ」
「そーだね、カツキ兄様」
椅子に座り、肘掛に顎をあげて心を高鳴らせている。いよいよネツキから王の座を降ろせるのだ。短い運命だったと、笑いが込み上げそうだ。
「国を売り飛ばす男は先代国王のお父様をも騙した大罪人」
「そしてその男は……ぷぷぷっ」
下品な笑い方をするカツキは、兄のアツキが国王になる事を望んでいる。楽な生活をするために。
「これは俺達の未来がかかっているんだ。今まではお父様に言われて仕方なく政治をしてたが……」
「アツキ兄様が国王になったらそんな面倒な事しなくて済むもんね」
彼らに付いてる護衛は、アツキが国王になった際に身分を約束された者達。その為、彼らの問題発言を聴いても黙認し、都合の悪い事はもみ消すのだ。
「アツキ王子、カツキ王子、お時間です」
護衛の一人が言うと、二人は国民向けの顔になった。王子としての顔だ。壇上に姿を見せると、盛大な拍手が鳴り響く。手を挙げて応える二人の王子。壇上には護衛が四人いる。マイク前に立つと、アツキがゆっくりと口を開いた。
「この度は、お集まり頂き、誠にありがとうございます。先日お伝えしました通り、現国王のネツキは江月と繋がり、国家転覆を計っているのです! 我らの父である先代国王を騙し、我が国に江月軍を進軍させようとしている!」
真剣に聞く民衆。報道陣はひたすらメモを取るが、これは新しいネタではない。
「……歴代王妃は、貴族から選ばれました。しかし一般国民を、礼儀も何もなっていない娘を王妃に迎え入れたのは何故か!? そう! 江月の人間だからです!」
その瞬間、会場にどよめきが走った。国を売るために他国の人間を嫁に迎えたのか、政略結婚ではないか、
様々が声が会場内に響く。
「さらにはその王妃となったエルル・マタータは、国庫を食い尽くそうとしている! この国の財産を売り飛ばしているのです! 我ら兄弟は! 先代を救い! この国を救う為に立ち上がるのです!」
記者達の動きが、速報だ、一大事件だと慌ただしくなってきた。会場の国民からは大きな拍手が上がる。
(バカな奴らだな。ころっと騙されやがって。なあ、アツキ)
(そうだね、兄様)
そんな心の会話をしていると、先代王妃の母、コロンの姿が見えた。壇上の袖で微笑んでいる。
「いいですか! 騙されてはなりません! 我が弟ネツキは売国奴です! 側室の女から生まれ、正室の王子である我々を陥れる悪魔のような男です! 今からその証拠をお見せしましょう!」
壇上にスクリーンが現れた。ネツキを叩き落とす準備は出来ている。いよいよだ。二人の王子とコロンは笑いが込み上げそうになる。ここまで上手くいくのだから。パッと後ろに映像が移ったとき、アツキは堂々と発した。
「どうです! これが! ネツキです!」
会場がどよめいている。成功だ。我々の勝利だと確信したアツキから思わず笑みが零れそうになる。しかし――
「ア、アア、ア、アツキ兄様」
「どうしたカツキ」
何を青くなって動揺しているのか。お前も喜ぶがいいと思っていたが、会場の様子もおかしい。二人の王子を見る視線が、疑いへと変わっていた。何事かと後ろの映像を見ると、そこには二人の王子の企みとその母コロンがエルルを虐めているという事が綴られた文書が公開されている。
「アツキ様! これはどういう事でしょうか!」
「ネツキ陛下を失脚を企んでいると!?」
「説明してください、カツキ様!」
何故用意された物が映されていないのか。映写機のある方向を見ると、見覚えのある童顔の男がアツキ達の方を見てニヤリと笑っていた。





