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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

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9話 カトレア問題①~二人の兄の嘘~

 マナが捕らわれているダリス側には司がいる。緋媛とフォルトアだけでは心元ないため、片桐家末っ子の緋刃を連れ戻す事になった。とはいえ彼の実力を考えると、毛が生えた程度の戦力でしかない。


 カトレアにいる緋刃を連れ戻す為の書状を、イゼルが鷹に運ばせるところだった――


「イゼル様ー! イゼル様イゼル様ー!」


 バタバタと焦りながらも活発のある声が耳に入った。呼ぶ前に緋刃から里に戻って来たらしい。廊下の角を曲がった緋刃と目が合うと、ぴょんと跳ねて庭にいるイゼルに攻め寄る。


「どういう事!? ミッテ大陸の柱が消えたと思ったら、里の結界も消えてるし、ゼネリア姉さんに何かあったと思って飛んで帰ってきたら、姉さん死んで倉兄も倒れて、姫様は父さんと消えたとか何とかってルティス兄さんが……つーか、父さん帰ってたなら教えてよ!」


「……まず落ち着いて、一つ一つ話してくれないか? 答えてやるから」


 緋刃は三兄弟の中でも一番自由な性格をして頭も柔軟なのだが、様々な情報が入って混乱しているようだ。鷹も落ち着けと言わんばかりに、緋刃の頭をがじがじと齧っている。彼らは中庭からイゼルの私室へと場所を移し、あった事全てを話した。


「――という事だ。これが会合の途中で抜けた後に起きた事の全てだ」


「うっへぇー、そんなんあったんだ。そりゃ倉兄もショックだし、媛兄も慌てる……かな?」


「緋媛なら意外と落ち着いてるよ」


 緋刃は胡座をかいて足のつま先を掴み、前後に身体を揺すってる。


「うっそだー。二十年も護衛してたんなら気にしてんじゃないの? そういうイゼル様もやけに落ち着いてるけどさ、ホントは焦ってるっしょ」


 からかうようにニヤニヤと話す緋刃に、イゼルは若干呆れている。この若者はカトレアで何を学んでいるのかと。


「俺は一族の長だからな。慌てると皆が不安がる」


「へー、カトレアの前の王様とネツキも同じ事言ってたなー。里に帰る直前までさ、カトレア国内がゴタゴタしててさ、ほら、例の件で……」


「ああ、コロンとアツキとカツキの件か。キツクラが頭を悩ませていたな」


 これは会合が途中で終わり、レイトーマにマトとツヅガを送り届けた後である。


 ミッテ大陸の炎と氷の柱が消え、カトレア王国内では天変地異の前触れではないかと、騒然となったのだ。そんな国民の心が揺れている中、第一王子アツキ・トッド・カトレアと第二王子カツキ・コッド・カトレアが動き出したのだが――


「我らを陥れ、新たな国王となったネツキは! 閉鎖された国江月の国王と共謀し、かつて龍族がいたというミッテ大陸を侵略した!」


「それでミッテ大陸の炎と氷の柱が消えたんだー!」


 広場で堂々と発言するそれは嘘八百。そんなはずない、ネツキに限ってそれはないと信じない国民は多い。しかし、ネツキは庶民の恋人と国外に駆け落ちをしたという、半分事実の噂が流れ、国民を不安にさせた事もある人物。それ故、その期間に江月と繋がったのではないかと推測する国民も少なくない。


「でも、カトレア軍は出ていないわよね」


「じゃあどうして柱が消えたの?」


「まさか江月がやったんじゃ……!」


 これにアツキとカツキは目を合わせて口元に笑みを浮かべた。


「そう、ネツキが江月に頼み、ミッテ大陸の柱を消した! その見返りに!」


「江月の国王との密約で、我が国を売ろうとしているのだー!!」


 国民は困惑した。アツキとカツキは国王としてどうかと思う民は多いが、もしそれが本当だとしたらこの国の平和は終わってしまう。そもそも江月という国の実態が掴めない以上、戦争になってしまうのではと、

 最悪の事を考えてしまっていた。


「それも我らの父であり先代国王をも騙して!!」


「王の座をもぎ取ったのだー! 何の芸事も出来ない庶民の娘を迎えて!!」


 芸術の国カトレアでは芸事が出来る人は尊敬され、優遇される事も少なくない。逆に芸事が出来ない人は、それぐらいも出来ないのかと笑われてしまう。その国の人間だからこそ、庶民から王妃になったエルルが何の芸も出来ないという情報に厳しく、驚きと怒りの声が上がった。


「芸事が出来ないなんて信じられない!」


「国王陛下に事実を問うんだ!」


「この国を得体のしれない国に売るのかー!」


「アツキ様、カツキ様、真実を! 明るみにして下さい!」


 その直後、カトレア城に真実を国民に話すよう、民が城門に押し寄せたという。騒ぎはすぐネツキとキツクラ、そして緋刃の耳に入り、後日事実を話す事でその場は何とか治めた。


「あのガキ共! 俺に殺されてーのか!」


 ネツキの私室で珍しく激昂している緋刃は、興奮して龍の角が生えている。イゼルが絶対にする事のない事を言い触らされ、怒っているのだ。


「落ち着け、緋刃。馬鹿兄二人が迷惑かけた事は謝る。まさかイゼル様まで利用するとは」


「おそらく、先の会合が原因だろう。あの二人がネツキと私との立ち聞きをしていたようでな、無理矢理会合に出ようとしたのだ。私が一喝し、ネツキが仕事を与えて当日中にやるよう命令した事で我儘は言わなくなったが、まさか柱が消えた時を利用するとは……」


「お父様、何故あの柱が消えたのでしょう。視界は良くなったのですが……」


 キツクラはイゼルにあの柱が誰が作ったか聞いておらず、詳しくは答えられないが江月が関わっているという事だけは言おうする。だが、落ち着きを取り戻そうと、角を引っ込ませた緋刃が震える声で口を開いた。


「……ゼネリア姉さんに何かあったんだよ。あれも里の結界も、姉さんが張ってたから。だから俺、里に帰んなきゃなんねーんだけど、イゼル様を侮辱されたまま帰れるかよ!」


「協力してくれるか、緋刃」


 期待の視線を寄せるキツクラに、緋刃は一息ついて言った。


「いいよ。人間同士のいざこざは関係ねーし、口出すつもりはなかったけど、イゼル様まで巻き込もうとしてんなら話は別だ」


「感謝する。これが終わったら江月に帰るといい」


「嫌な予感するから無期休暇でね。それと前の王様、コロンはあんたの嫁だろ? そっちの問題は旦那が片付けろよ。あの女はエルルを毛嫌いしてるから。多分、国民への吹聴はコロンの差し金だと思うんだ」


 国民は一刻も早く事実を知りたがっている。すぐに事実関係を公表しなければならず、明日にでも、と考えていた。

 ところが、この時兵士の一人から三日後にアツキとカツキが公演を行うという情報が入ってきたのだった。




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