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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
4章 歴史の真実

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16話 黒龍

 イゼル達が里の異変を感知する少し前の事。ゼネリアと司が屋敷の庭で何やら意味深な話をしていた。


「どうしてもやるのか?」


「ああ」


 司の覚悟が本気だと分かったゼネリアは苦笑している。


「増々緋媛に恨まれるな」


「構わん。あいつらには俺を越えて貰わねば困る。奴の力が増した以上、俺だけでは止めらんねぇ。頼みの綱の緋倉はあんなんで回復するまで時間かかるし、お前もイゼルも動かす訳にはいかねぇ。緋媛と緋刃を動かした方がはえーんだよ。……緋紙に怒られちまうかもしんねえけど」


 首にかけているロケットには緋紙の写真が入っている。亡くなった今でも妻の事を愛している司は、哀しい表情で写真を見ていた。


「それよりお前、何考えてんだ? ここ最近様子がおかしいぞ。瞳が銀色に変わる事が多い。緋倉を生かす道を探してんのか? あいつ、俺のやった薬飲んだんだろ?」


 司は薬の効果が遅いのだと思っていた。本当の事は知らない。ゼネリアが、緋倉は飲んでいないと教えようとしたその時だった。里の結界に触れた侵入者を感知したのは。


「……やけに多いな。ダリスか? 司、あんたも来るだろ」


「……そうするか」


 彼の気が乗らない理由は分かっているが、動かなければ事情を知らない者達に説明ができない。彼の本来の役目は里を護る事なのだから。



 里の入口では、武装した多くのダリス人がフォルトアと戦っていた。次々と敵を倒し気絶させるフォルトアに、多くの人間は怯えている。


「まだ来ますか? これ以上は僕も容赦しませんよ」


 静かな口調だが鋭い視線をするフォルトア。そこへやってきたのは、武装軍を率いたリーダーだ。


「情けねーなぁ! てめーらそれでも天下のダリス帝国の人間かぁ!?」


 気絶した人間を蹴り飛ばし、道を作るその男はダリス六華天四番目ジョー・アクレラン。武器のナイフを舐め、イカれた笑みを浮かべている。フォルトアは彼の姿に見覚えがあった。何年か前に司が持ってきた似顔絵を思い出したのだ。


「あなたは六華天のアクレランですね。何故ここに?」


「決まってんだろ!? マナを手に入れるついでに、家畜狩りをするためだぁ……ひゃはは!」


「狩りだあ!?」


 そこへ駆けつけたのは、緋倉だ。ジョーの高笑いが止まる。里の結界の中から飛んで出てくると、フォルトアの横に立った。


「まだそんな事やってんのか。何百年も同じ事しやがって……」


「ああ? 何でまだ生きてんだテメー。レーラの毒で死にかけてんじゃねーの?」


「あんなモン、俺には効かねえよ」


 ここでフォルトアが動揺しては、緋倉の体調の事がばれてしまう。事情を知っている彼だが、冷静を装った。緋倉も問題ないように見せているのだから。


「けっ、クソじゃねーか、あのアマ。……まーいーや。オメーら! こいつらぶっ殺して中入るぞ! 家畜狩りだぁ……!」


 ジョーはゆっくりと手を前に出すと、ゴオッと炎を出した。緋倉達は難なくかわす。


(人間が術を? あれが前に緋倉様が言ってた事か)


 冷静なフォルトアは、先にジョーを仕留める事が先決だと判断する。それは緋倉も同じで、頭を潰せば残りの人間が逃げるだろうと考えたのだ。二人がジョーに向かおうとしたその瞬間、上から落ちてきた氷の刃が彼の鼻の頭を掠める。何事かと上を見ると、逆光で良く見えないが小柄の女が落ちてきた。


「ゼネリアあああああ!!」


 氷の刃を大量に降らせ、人間の脚に突き刺す。殺さないように加減して。地に足を付けた彼女は、ジョーを鋭い視線で睨みつけている。彼女の力を目の当たりにしたダリス人は臆して逃げてしまった。


「よくも、俺の奴隷を……!」


 怒りに満ちているジョーは、今にも襲いかかろうとしている。腕組みをしたゼネリアは見下しながら、その声には怒りがあった。


「こっちはお前らに異種族を何千体も殺されてんだ。死んでないだけマシだと思え」


「てめえええええ!!」


 ゼネリアに向かうジョーだが、その上から落ちてきた司に頭を掴まれ、地面に叩きつけられた。司の顔は見えていない。


「消えろ。俺に殺される前にな」


「く、ぐぅ……! この、声……」


 ジョーの頭を掴んで持ち上げた司は、ブンと投げつける。木に衝撃を受けたジョーは司を見据え、少し考えると周りを見渡した。


「……ちっ。全員無様に寝転がりやがって。一対四じゃ俺が不利じゃねーか」


 大人しく去るのかと踵を返したジョー。しかし彼は去ると見せかけて、炎を出した。一体でも龍族を捕えるため、最も狙いやすい位置にいる緋倉を狙って。


「ったく、この程度のモン――」


 炎を避けたり防御するのはどうという事のない緋倉。人間が作り出したものなら跳ね返す事など容易い。跳ね返して防御をした彼だが、その瞬間に腹から込み上げるものを感じ、吐血した。そして炎に隠れて短刀と数本の矢が飛んできた。


「緋倉ぁ!」


 司の声と目の前の短刀と矢に気付いているが、避けられない。体が痺れて動けず、地面に膝をつく。その時、緋倉は誰かに殴り飛ばされ、フォルトアに衝突した。

 何が起こったのか目を向けると、ゼネリアの体を矢が貫いていた。脇の下から心臓を貫くように。


「ゼネええ!」


「ゼネリア様!」


「…………」


 この時、司は気づいた。過去や未来において失う命を救うという事は、別の命が犠牲になる。もしかすると緋倉はこの時死ぬはずだったのではないか。それを知ったゼネリアは自らを犠牲にしたのだろう。


「お前何で! 俺なんかを庇って……!」


 彼女の体をぎゅっと抱きしめる緋倉。矢を抜いては血を吹き出してしまう。だが、体温がどんどん下がっていく。純血の龍族ではないから、傷の治りは人間より早いが純血の龍族より遅い。心臓を貫かれたのだ。死ぬのだと、緋倉は理解した。彼の目には涙が浮かんでいる。


「……………」


 ゼネリアは彼の涙を拭って微笑むと、緋倉にしか聞こえない声で、彼女はある言葉を囁いた。


「討てええええ! 家畜を捕えろ! 住処を滅ぼせえええええ!!」


「フォルトア!」


「はい!」


 ジョーの合図で矢を放ち、武器を持って突進してくるダリス人。まだ多くのダリス人が潜んでいたのだ。司とフォルトアは戦いに駆け出す。――その時。


「グオオオオオオ!」


 彼らの後ろから黒き龍が現れ、ダリス人を踏み潰した。フォルトアは見た事がない黒龍に目を奪われる。司はそれより息子・緋倉の様子が気になった。緋倉が抱いているはずのゼネリアがいない。彼は立ち上がると()()()()の方を向いた。


「……やめろ」


 仕留めようと人間はその黒龍に矢を向ける。


「やめてくれ」


 だがその人間は、口から吐かれる黒い炎で塵も残さず焼き殺され、ある人間は氷に閉じ込められた。


「ゼネリアあああああ!」


 叫ぶ緋倉の声は届かない。彼がまた血を吐いても届かない。怯えるて逃げるダリス人も逃さず、雷雲を呼び出すと雷で黒焦げにした。


「ゼネリア!? 何をしているんだ、あいつは!」


 そこへやってきたのはカトレアから駆けつけたイゼル。彼は空を飛んでやってきたのだ。緋媛とルティスも空を飛んで向かっているが、イゼルの速さには追いつけない。だが、間もなく戦場に着く。緋媛の背中に乗っているマナと共に。


「やっと来たか、イゼル」


「司! 説明しろ!」


 司の説明で、イゼルは状況を理解した。感情の制御が上手くできない彼女は、家畜、住処、人間の余計な言葉のせいで怒りの感情が沸いたのだろう。


(これでは手が出せん。唯一止められるのは緋倉だけだが、こいつはもう限界だ)


 彼の体は予想以上に蝕まれ、もう長くはないだろう。この事はダリスに()()()伝わる。戦争となるだろう。先に手を出したのはダリス人とはいえ、この状況は最悪だ。


「くそっ、畜生! こんなはずじゃ……!」


 短刀を投げつけるジョーが最後の一人となる。ゼネリアが尻尾をジョーに向かって叩きつけると、骨の砕ける音が聞こえた。


「ぎゃああああ!」


 ようやく追いついたマナ達。焼野原となり、焦げている人間の死体を見てしまったマナは、吐き気がこみ上げた。


「見るな!」


 緋媛がマナを抱きしめ、彼女の視界に入らないようにする。黒龍となったゼネリアはジョーを噛み殺す瞬間を見ないように。だが、音は聞こえる。バキボキと何かが折れる音と、男の悲鳴が。緋媛の腕の中で震えるマナは、これ程ではないが、以前似たような事があったような気がしていたが、思い出せない。思い出してはいけない気がする。


「緋媛、姫をヤッカの所へ連れて行け」


 父親の命令に従いたくはないが、それが賢明だろう。死んだ人間の血の匂いが充満したこの場は、温室育ちのマナには辛いものだ。マナを連れて踵を返した時、後ろからズン……という音が聞こえた。視線をやると、力尽きたゼネリアが倒れている。


「ゼネ、ゼネリア!」


 呼吸が消えかかっている。触れた彼女の鼻と口が先程より冷たい。体と鬣が灰色へと変わり、徐々に白くなていく。彼女は目の前の緋倉をペロッと一舐めすると、どこかへ移動した。死力を振り絞り、ミッテ大陸の再生されていない大地の中央へ。彼女に触れていた緋倉と共に。


「クルルルル……」


「! 何だよ、それ……。嘘だろ? なぁ、目ぇ開けろよ!」


 頭で分かっていても、心が追いつかない。ゆっくり目を閉じた彼女の肉体が崩れてゆき、ミッテ大陸の周りにある炎と氷の柱が消えた。そしてその血肉は地面に浸み込んでいき、草木や花が生え始める。まるでそこを墓場とするように。


「嫌だ、ダメだゼネ……っ」


 残った彼女の骨は風化してゆく。彼女と初めて会った時の事、これまで過ごした日々が頭を過る。脱力した緋倉は、その日初めて大声で泣いた。


「生きて」


 緋倉は無意識のうちに手にしていた彼女の牙を抱きしめながらも、最後の言葉が頭を過る。彼の周りには二百年前のミッテ大陸が蘇り、力強い生命力に溢れていた。


「ずっと傍に居てくれて、ありがとう」


 その日ナン大陸では、朝まで大雨が降ったという――。



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