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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
4章 歴史の真実

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11話 歴史の真実①~書物の修正~

 カトレア城の中は美しい装飾が施されている。芸術の国と呼ばれるだけあり、柱や壁、至る所に美術品が展示されていたのだ。マナが目を付けたのはガラスで作った薔薇。一点の曇りもない透き通ったガラスに目を奪われる。


「これをお作りになった方は、心の美しい方なのですね」


(姫といいカレンといい、なんだって人間の雌は光もんが好きなんだ)


 心がひん曲がっている緋媛は、どんなに良いものでも同じに見えてしまう。飾っても手入れをしなければ同じ。モノはモノでしかないのだ。


 そんなカトレア城を緋刃の案内で進み、ある一室に辿り着いた。カトレア王室大会議室。中に入ると、イゼルと共に先に着いた扉の横に寄りかかっているルティスと緋媛が顔を合わせる。互いに舌打ちをするなり、先に向かった。


 遅れて着いたマナ達。席には既にイゼル、キツクラ、ネツキが座っていた。マナ達は椅子に座っているが、緋媛はマナの斜め後ろに立っている。それぞれの席には飲み物と軽食が用意されていた。まずは自己紹介をしようとしたが、それは今は不要のようだ。


「イゼル殿、レイトーマ国王、そしてネツキ。会合の場を設けて頂き、感謝致します。私は先代カトレア国王であり、現国王のネツキの指導役、キツクラ・エレ・カトレアと申します。よろしくお願い致します」


 立ち上がって深々と挨拶をしたキツクラは、引退するには余りにも若く見える。


「新たな王が誕生する度に、我々はこうして会合を開き、歴史の真実を共有するのです。しかし、それを語るのは私ではない。この世界の事をよくご存知のイゼル様だ」


 キツクラが座ると、今度はイゼルが立ち上がった。


「マト、ネツキとは久しく会うな。で、そちらのご老人とは初対面だが、緋媛から話は聞いている。ツヅガ・アルバール殿でしたな?」


「は。ご挨拶もなく、申し訳ございません」


「構わん。それより、あまり堅いのは好かなくてね。気になる事があれば自由に発言して欲しい」


 早々に座るイゼルは、目の前の飲み物を一口飲んだ。すると早速ネツキが、待ちわびたとばかりに口を開く。


「今流通している歴史の書物は、どこまでが真実なのですか?」


「二割ぐらいだろうな。いつもどこから話せばいいか悩むのだが、まずは歴史の書物の修正からしようか」


 キツクラが用意していた歴史の年表をテーブルの上に広げた。イゼルは指を指して順に答えていった。


  US2013年

  世界には三つの国と一つの種族があった。

  ダリス、カトレア、レイトーマ、龍族


「これに加わる事は、エルフやドワーフ、妖精といった種族も多く存在していた。ここまではな」


  US2047年

  龍族の五分の三が減る。


「龍族の他に、先ほどの他種族も激減した。今はもう数が少なく、ひっそりと暮らしている」


  US2051年

  ダリスから独立し、江月が建国される。


「正確には、ダリスの手を逃れるために、今のナン大陸に龍の里を作った。我々の概念は国ではないが、表向きは江月という名の国としている」


  US2103年

  一人の龍族の手によって龍族が滅びる。

  また、人間の犠牲者も少なくはない。


「まず、俺達は人間ではないので、数え方は何体となる。ここは一体の龍族の手によって新たな地へ移住が完了。二体の龍族の手によって滅びたと偽装した。人間の犠牲者など、いないに等しい」


「滅茶苦茶ではありませんか! なぜこんな事になったのです!?」


 修正が終わると、ガタンと立ち上がり真っ先に声を上げたのはネツキだった。マトはこの事を聞いているため驚くことはなかったが、マナとツヅガはネツキと同じ考えである。


「落ち着かんかネツキ。この国の王ならば常に冷静でなくてはならん。いつも申しておるだろう」


「ええ、そうでしたね」


 国王としての立ち振る舞いや考え方を学んでいるネツキは、父であるキツクラに言われて座る。マトは国王という者の考え方を、この機に学べると感じた。イゼルは話を続ける。


「今の歴史書になったのには、順を追って説明しなくてはね。US2013年……。その前までは我らも穏やかに暮らせたんだ」


「とても信じられませんが、エルフやドワーフ、あと妖精もいたんですよね。彼らはどこに住んでいて、どんな世界だったんですか?」


 今度はマナが問う。


「世界各地に散っていたよ。人間同様、その地に住みたがる者もいたが……。エルフはこのカトレアのあるトウ大陸、ドワーフはレイトーマのあるセイ大陸、そして妖精は我々と共にミッテ大陸で暮していた。その頃はまだ、我々のような異種族と人間が共存していたんだ」


「お待ちください、イゼル様。我々のような異種族って、あなたは何者なのですか? まさか……」


 ネツキの勘の良さはイゼルも分かっている。この中で江月が龍族の里だと知らないのは、ネツキだけなのだ。


「気付いただろう? 俺は龍族だ。俺だけではない、そこの緋媛とルティスもな」


 これで合点がいった。鍛錬の際に見た身体能力や重い木刀、術が使えるというのも、人間ではないからだ。ネツキの頭が少しスッキリした事で、次から次へと疑問が生まれる。それはマナも同じだった。


「あの、まるで経験されたような話し方をされてますけど、イゼル様はお幾つなのですか? 二百年は生きてらっしゃいますよね」


「八百六十七歳だ」


 微笑んでさらっと言うイゼルの年齢に、ルティスを除く全員が耳を疑った。


「緋媛も知らなかったのですか?」


 緋媛が知らなかった事が意外だったマナが問うと、彼はまだ目を見開いていた。


「あ、ああ……」


「緋刃、お前もか」


 ネツキも聞くと、緋刃は知らなくても気にしない態度で答えた。


「うん。だって聞く必要なかったし」


「情けねえな」


 扉で外の気配に耳を傾けているルティスが言葉を吐き捨てる。


「おめーらイゼル様の年齢ぐらい知っとけや、バーカ」


 これに緋媛と緋刃は何も言い返せない。龍族の場合、そろそろ寿命だという時になると、目に見えて分かるため知る必要がなかったのだ。


「そう言うなルティス。二人はまだ若いから、知らなくても仕方がない。俺もあと五十年や百年経つと分からんがな」


「寿命の関係でですか?」


 龍族の寿命は千年だと聞いているマナ。年齢から計算した彼女の問いに、イゼルは微笑んで答える。


「ああ。龍族の成長は、一定の年齢に達すると成長が止まる。寿命を迎える約五十年から百年の間に緩やかに老化していくんだよ。もちろん個体差はあるがね」


「例えばそこのアホ兄弟だと、屑緋媛は二十六歳、お気楽緋刃は十五歳で成長が止まってんすよ。肉体的な成長速度がかなり違うんす。あー、精神的にもな。あははは!」


 嫌味を込めた大笑いをするルティスの補足に、片桐兄弟は苛立ちを見せた。マナとネツキ、キツクラは大いに納得する。この兄弟の精神面が違い過ぎるからだ。ルティスの息子フィリスも、人間であるユズの血が濃いにもかかわらず、成長速度は速い。


「少し話が脱線したな。続きを話そうか」


 明らかになりゆく歴史の真実。隠された歴史の裏には何があるのか。マナ達はイゼルの口から語られる事実を真剣に聞くのだった。



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