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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
4章 歴史の真実

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9話 トウ大陸

 二週間が経過し、約束の会合の日となった。もちろん、軍事大国のダリスを除く三ヶ国会合である。

 レイトーマと繋がりのあるマナと緋媛も参加するのだが、この日はレイトーマに寄ってからカトレアのあるトウ大陸に向かうのだった。

 そして、空の上。龍の姿をした緋媛の背中に、人間が三人乗っている。


「これが緋媛とは……。七十一年生きて龍の背中に乗り、空を飛べるとは思わなかったのう」


 レイトーマでの仕事も多く、船旅で城を空けるわけにはいかないため、緋媛を通じてマトがイゼルに頼んでいたのだ。緋媛に送り迎えをして欲しいと。


「ツヅガは緋媛が龍族だと知っていたのですか?」


「実は、陛下が城にお戻りになってから知ったのです。ですが、人間に化けている事までは存じませんでした」


 ずっと緋媛を部下として接していたツヅガは、老いた自分をなぜおっさんと呼ぶのか違和感があった。龍族の寿命は約千年のため、ツヅガが年下である可能性が高い。


「時に緋媛、お前は幾つじゃ?」


「何でそんな事聞くんだよ」


 元の姿で人間を乗せているだけで機嫌の悪い緋媛の返事は冷たい。


「私も興味あります!」


「教えろよ」


 マナもマトも興味があるらしく、瞳を輝かせていた。老いたツヅガまで、瞳が子供に戻っている。面倒臭そうに舌打ちする緋媛は、ぼそっと呟く。


「……百だよ」


「ひゃく!?」


 三人が口を揃える。マナとマトは目を見開いて、ツヅガと緋媛を見比べている。やはりツヅガの年齢を上回っていたのだ。しかし年齢だけで考えると、若く見える緋媛に対し老いたツヅガが哀れに思える。


「あのな、そもそも龍族と人間じゃ体の仕組みも違うんだよ。俺は同族の中じゃ若いんだ。俺から言えばおっさんは、他の七十の人間より若く見えんだけどな」


「緋媛……」


 何ていい部下を持ったのだろう。ツヅガは涙目になる。歳をとって涙腺が緩んでいるらしい。すると、緋媛は何かを見つけた。


「降りるぞ。しっかり掴まってろよ」


「待ってください、まさか……」


 空へ昇る時は急上昇。今度は降りるのでその逆だろう。マナの予感は当たり、緋媛は急降下をし始めた。悲鳴を上げるマナとツヅガに対し、マトはこの急降下が楽しいらしい。降りた先は広い野原で、そこには緋刃がいた。


「媛兄、やっほー」


 緋媛の鬣を伝ってマトとツヅガが降りる。しかしマナは高さがある事で、怖くて降りられないらしい。緋媛が人間の姿になると、足場を失ったマナは上から降ってきた。もちろん、受け止めるのは緋媛だ。


「ったく、何やってもキャーキャー言いやがって……」


「急に人間に戻るからじゃないですか!」


「戻った訳じゃねーけど……」


 マナをすとんと地面に下ろした緋媛は、緋刃の方を向く。


「それよりさっさと行こうぜ。カトレアの城までどれぐらいあんだよ」


「歩くと三時間ぐらいかな」


 そんなに歩くのかと、マナとマトは驚いた。さすがにツヅガは軍人だけあってその程度は問題ないらしい。しかし、国王を歩かせるのは如何なものか。


「レイトーマの国王とお姫様がいるから、馬車用意したよ」


 用意のいい緋刃にホッとしたマナは、思わず緋媛を見た。彼は以前、ナン大陸の港から江月までマナを歩かせたのだから。


「何だよ。フォルトアさんが良かったってのか?」


「そんな事一言も言ってません」


 緋媛はマナの気持ちに気づかない。やや不機嫌に馬車へ向かうマナを見て、首を傾げるのだ。その様子を見た弟の緋刃は、彼らを交互に見てため息をつく。


(ほんっと媛兄って素直じゃないなぁ)


 マト、マナ、ツヅガ順に馬車に乗ると、マトは馬を動かし始めた。緋媛は馬車の上に乗り、辺りを警戒している。しばらく経った頃――


「トウ大陸は野原が多いのですね。小さいお花も咲いていて、ここでティータイムをしたくなります」


「こういう所での紅茶は美味しそうですね。クッキーを作りましょうか?」


「マト、あなたクッキーを作れるんですか?」


 マナが驚くと、ツヅガは微笑みながら言った。


「陛下は何でもお作りになられます。シェフにも劣らぬ腕前で、わしも前日頂きました」


「ずっと江月と城下にいましたから。一通りは作れますよ」


 本来、王族が厨房に立つことは許されないのだが、城外にいた期間が長いため、時々家庭で作るような味が恋しくなるのだ。


「ツヅガだけズルいです。何を作ったのですか」


「ミートソースパスタです。今度レイトーマに戻った時に、姉上にも作ります」


「楽しみにしてます」


 それからカトレアに着くまで、三人は料理の話で盛り上がった。特に周りにはダリスの刺客の気配はなく、緋媛は馬車の上で昼寝をしている。


「……トウ大陸って寝心地いいな」


「だろー? 風が気持ちいいんだ。疲れたらよく街の外に出て寝てるんだ」


 こんなに心地のいい昼寝はいつ振りだろう。マナの世話を始めて以来落ち着いた事など無かったので、二十年近く経つのだと考えた。呑気に馬を走らせながら誇らしげ話している緋刃が羨ましい。


「仕事してんのかよ」


「してるよ! 媛兄と違ってこっちはそこまで忙しくないし、休みだってちゃんとあるもんねー」


「だから腕鈍ってたのか」


「そ、それは……」


 緋刃が江月に戻った際にイゼルと鍛錬した時に感じていた事だった。彼は戦う時も遊び感覚である事が多い。それは余裕がある為だが、その余裕が無くなる日が来る時が心配だった。


「あ、着いたよ、カトレア!」


 緋刃がマナ達に声をかけると、マナはひょっこり顔を出した。街の外からも分かる大きな建物や、入口から見える音楽隊の演奏が聴こえてきた。


 芸術の国カトレア。会合はこの中心の高岡にある城で行われる。



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