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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
4章 歴史の真実

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6話 帰省④~特別師団長とは~

 レイトーマ城の地下には兵士が訓練するための鍛錬上がある。アックスを主軸として鍛え上げられた兵士達は人間の中では強い方だと、後に緋媛はイゼルに報告していた。


 ツヅガの息子の名はオルト。

 緋媛だけではなく、レイトーマ師団長全員に喧嘩を売った彼は、入団当初は真面目に鍛練をしていた。

 だが、いつしか無駄だと考える鍛練には参加せず、自身の考えた訓練を行い始める。

 集団行動も軍の基本だとツヅガに叱責だれても、戻ることはない。アルバール一族は総師団長になるのだから、指揮能力を身につければいいと考え始めたのだ。レイトーマの為に、軍を強くする為に。


(あんな若造、私の策で床に這いつくばらせてくれるわ)


 鍛練用の服に着替えているオルトから離れているツヅガは、木刀を肩にトントンと乗せている機嫌の悪い緋媛に近づいていた。


「緋媛。あのバカ息子は頑固者でのう。ちょっとやそっとじゃ心を曲げんのじゃ。じゃから頼みがある。半殺しにしても構わん。奴のプライドを粉砕してやってくれ」


「いいのかよ。本当に半殺しにして。仮にもアンタの息子だろ?」


「……よい。今のあ奴に、レイトーマ師団長どころか、レイトーマ師団を名乗る資格はない。暴言もそうじゃが、何よりマナ姫様に片割れなどと、言ってはならぬことを……!」


 一瞬の悩み。

 これはツヅガの本心なのだろうか。だが親がそう頼んでいるのだ。その願いを叶えなくては。


 頭を下げるツヅガの横を通り過ぎる緋媛は、鍛練場の中心でオルトと対面する。周りに非番や休憩中の隊士達が集まり、そのビリビリとした空気を感じ取った瞬間――


「おおう!!」


 オルトの声と同時に、緋媛に向かって木刀が振り下ろされた。片手で軽々と受け止める緋媛は、その一瞬でオルトの腹に蹴りを入れる。彼は勢いよく吹き飛び、壁に激突してしまう。


「ひ、卑怯な……。正々堂々、木刀のみで勝負すべきものを……!」


「あ? 戦場に出たら卑怯もクソもねえだろ。てめえ、敵にも台詞吐くのか?」


「おのれ……!」


 何度も何度も頭の中で策を練った。ああいう怒りやすい男には、正面からの攻撃と見せかけて背後から攻撃するといいはずだと。一瞬の隙を見せた時に背後に回れば、勝機はある。


「また直線かよ~。学がねえな。あれじゃあの緋媛に一太刀も入れらんね~よ」


「緋媛の強さは異常だからネ! キリリも目ん玉出して良く見ておくのネ!」


「は、はい」


 と、目玉を出そうと指を入れようとするキリリを慌ててアックスが止めた。キリリには冗談が通じない。その瞬間、緋媛はオルトの木刀を踏みつけてへし折り、彼を床に這いつくばらせる。周りの兵士からは感心する声が上がり、やはり緋媛の下にいたいという声が上がってた。


 意地になったオルトは、折れた木刀の先端部分を緋媛の目に向かって投げつけ、その隙を狙って背後に回る。そしてもう片方の折れた木刀を刺そうとしたその瞬間――


「緋媛! 危ない!」


 気持ちが落ち着いたマナがカレンと共に鍛練上へ駆けつけ、叫ぶ。

 が、それと同時に緋媛はオルトの背後に周り、首を掴むと地面に叩きつけた。そして彼の耳を掠めるように木刀を床に突き刺す。


「……っ」


「この三回。ここが戦場なら、てめえはとっくに死んでた。強さと信頼の特別師団長としていたいなら、常に鍛えろ、常に技を磨け。兵士一人一人のしている事を誰よりも把握しろ。それが出来ねえのならレイトーマ師団総師団長を目指すどころか、レイトーマ師団でもねえ! ……アルバール一族はここで終わりだな」


 突き刺した木刀を引き抜いた緋媛に歓声が上がる。その声が非情に鬱陶しく感じる緋媛の下に、マナが駆けつけ、抱きついた。


「緋媛! よかった、刺されてしまうのかと……!」


「馬鹿、離れ――」


 過去を覗かれてしまうと引き剥がそうとした緋媛だが、彼女の瞳に変化がない。能力を調整出来るようになったらしく、大人しく抱きしめられる事にした。

 彼女から微かに香る桃のような甘い香りをに酔いそうになりながら。


「さっすが緋媛なのネ! すーっとしたのネ!」


「てめえがこんぐらいやれよ」


「次俺~。オルトより退屈させねえ自信あるぜ~」


「いや、もういい加減城出ねえといけねえから無理だ」


 やはり緋媛は強くて信頼があるのだと、改めて知るマナ。しかしよく考えれば、龍族の緋媛が人間のオルトに勝つのは当然ではないだろうか。しかも毎朝イゼルの鍛錬に付き合っているのだから。


 この勝敗に納得の出来ないオルトは、悔しさに身を震わせる。ツヅガはそんな彼の横に腰を下ろした。


「父上……」


「オルトよ。いかに未熟なまま歳を取ったか痛感したじゃろう。わしが彼らを師団長に任命したのはな、理由があるのじゃ。アックスは兵士に必要な基本的な体力作りに長けておる。カレンはあの陽気な性格で気さくに情報収集出来るのじゃ。ユウは例外じゃがあれでも負けず嫌いの努力家での、キリリは慎重な男なんじゃよ。特別師団はそんな彼らを一纏めにする存在でもある。引いてはレイトーマ師団を纏める事に繋がる。……あれを見よ」


 ツヅガが視線を緋媛の方へ移すと、オルトも視線を追いかける。


「見せもんは終わったんだよ! さっさと仕事に戻れてめえら!」


 その声を合図に、兵士達は各々いた場所へ走って戻り始めた。特別師団だけではなく、他の師団の兵士も、全員が緋媛の指示に従ったのだ。自分は特別師団を纏めるのに手いっぱいだというのに、何が違うのだろう。その答えを探さなくては。だがその前に、やる事がある。


「姫様」


 立ち上がったオルトがマナの前に行き、深々と頭を下げる。


「大変失礼な暴言を吐いてしまい、申し訳ございません。何なりと罰をお与えください」


 謝ってくれればそれでいいのだが、罰となると困ってしまうマナ。緋媛に助け舟を求めようにも、ソッポを向かれてしまう。


「罰だなんて、私にはそんな残酷な事できません」


「ならば、姉上を愚弄した罰は私から与えよう」


 そこへ姿を現したのはマト。マナ同様、空気の悪い地下の鍛錬上へやってきたのだ。


「その腐りきった性根を入れ替え、レイトーマ師団総師団長候補として国民と国に生涯を掛けて尽くす事。それがお前に与える罰だ」


 今までレイトーマ師団を甘く見ていたオルトにとって、それが何よりの苦痛だろう。今回の一件で緋媛との実力を天秤にかけた兵士は間違いなく緋媛がいいと言い出す。信用を取り戻すのは長い時間が必要だ。


「そ、それでは甘すぎますよ~、陛下ぁ!」


「いいや、これでいい。もし改善されなければ、レイトーマ師団を辞めてもらう」


 歴代続くレイトーマ師団総師団長となり、国を守り続けるには並々ならぬ努力が必要。ツヅガを越え、マトの右腕となるべく、機会を与えてくれたマトにオルトは感謝する。


「愚息の為に寛大な罰を与えて下さった事、このツヅガ――あ゛あ゛っ!」


 父親としてマトに深々と頭を下げようとした時、ツヅガの腰からグキリと大きな音が鳴った。

 そう、ぎっくり腰である。


「どどど、どうしよう。アックス、医務室に運ばなきゃ!」


「任せるのネ!」


 一刻も早く総師団長にならなくてはと決意を固めるオルトであった。



 その頃、江月では――


「フィリス可愛いーなー。いーなー、リーリも弟か妹欲しいなー」


 台所で独り言を言いながら皿洗いをしていたリーリの耳に、玄関の扉が開く音が聞こえる。誰かと思い駆けつけると、緋媛と緋倉に良く似た男が入ってきていた。


「可愛らしいお嬢さん、イゼルはいるか?」





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