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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
4章 歴史の真実

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4話 帰省②~十一年前~

 十一年前 レイトーマ城


 その事件の日、マトは父であり国王のマクトル・キール・レイトーマと王妃である母ハンナ・フォール・レイトーマの元にいた。国王の私室で勉学に励んでいたのだ。しかし、マナと緋媛の姿がない。


「父上、姉上と緋媛は?」


「マナと城下へ行っておる」


「えー? 剣の稽古つけて欲しかったのに」


「ふふ、マトは緋媛が大好きなのね」


 不貞腐れたマトは、マクトルに渡された書物を隣の書斎で渋々読む事に。


「姉上ばっかりずるいよ」


 マナには緋媛が常に付いており、マトの剣の稽古の時はマナが見学している。マナから常に離れないようになっていた緋媛だが、二人で取り合いをしていたのだ。

 書斎で勉学をして暫く経った頃だった。隣の父の部屋から兄マライアの声がする。


「父上、母上、失礼します」


「あらマライア、どうしたの? シドロを連れて」


「お願いがございます」


 シドロまで部屋に入ってくる事は珍しい。怪しく思うマトは、聞き耳を立てる。


「お前は無茶な要求が多すぎる。少しは控えたらどうだ」


 まだ幼いマトでもマライアのする事、考える事には疑問を持っていた。メイドと兵士を自身のはけ口のように、暴力を振るっていた所を見た事があるのだ。それはマナも同じである。


「陛下、まずは聞いてみましょう。いつもマトに仰ってるではありませんか。まずは話を聞いてから判断しましょうと」


 ハンナはにっこりとマクトルに言う。自分達の子だ。きっといつか、過ちに気づいてくれると信じて。マナ達兄弟を平等に接しようとしたハンナに対し、マクトルは違う。


「こやつはそうはいかん。が、お前がそういうなら聞くだけ聞いてやる。……望みは何だ」


「私に王位を譲っていただきたい」


 我儘にも度が過ぎる。マクトルの逆鱗に触れた。マトは書斎の扉をそっと開ける。覗けるぐらいに。


「それは出来ん! お前に国王はふさわしくない! お前が気に入らぬ者に何をしたか、わしが知らぬと思っているのか!」


「ええ。ですから口封じもさせて下さい」


 それと同時にマライアがシドロに合図をすると、マクトルの胸元を斬りつけた。血が噴き出てハンナが悲鳴を上げる前に、彼女の心臓を剣で貫く。急所を貫かれた彼女は即死であった。


「母上ー!」


 思わず飛び出したマトは、ハンナにの元に走り出した。マクトルの胸からはボタボタと血が流れ落ちている。


「来るな、マト!」


「やれ、シドロ!」


 ハンナの元に駆けつけたマトに剣が振り下ろされた。しかし剣と剣がぶつかる音がする。死力を振り絞ったマクトルが、護身用に持っていた短刀でシドロの牙からマトを護ったのだ。


「この外道が……! 弟のマトまで、手を、かけるか……っ!!」


「ち、父上……」


 マトの手が震える。


「死にぞこないがあ!!」


「逃げろ…! 早く……っ!」


 心臓の鼓動が早くなり、震える体を起こして部屋の扉から飛び出した。即死した母を置いて、足止めをしている父を見捨てて。


 しかしその時、酷く冷たい視線をした女性が現れ、マトの腕を掴む。その冷ややかな視線はマライアに向けられていた。マトが瞬きをした瞬間、周りの景色が変わる。何処かの庭のようだが、城ではない。屋敷だ。


「だ、誰? ここ、どこ?」


「君がマト・トール・レイトーマだね?」


 屋敷の廊下から庭へ降りてきたのは赤髪の男イゼル・メガルタ。マトを連れて来たのはゼネリア・アンバーソン。庭はイゼルの屋敷の庭だったのだ。見知らぬ者、見知らぬ土地、マトは子供でありながら、そこがレイトーマではない事を察した。


「ち、父上、母上が! 姉上に知らせしないと、姉上も……!」


 イゼルの着流しを掴み、このままでは兄にみんな殺されると訴えるマト。その彼の目線まで腰を下ろしたイゼルは、彼の頭に手を乗せ、安心するよう微笑んだ。


「姫には緋媛が側にいる。心配しなくていい」


 その時マトは、緋媛がいるなら大丈夫、マライアにもシドロにも負けるはずがない、一番強いのだと、そう信じていた。最も信頼出来る者こそ緋媛なのだから。


 するとゼネリアはマトの頭を人差し指でつつく。ゴトン、と後ろから音がし、振り向くと自分の抜け殻のような人形が出来た。彼女はこれを、替玉と呼んでいる。


「死んだ事にするから」


 マナは悲しむだろう。だがそれは、いつかレイトーマに戻った時にマライアからの追っ手の手に掛からない為の対策であったのだ。




 落ち着いた頃にマトは、マクトルが自身の身に何かあった際、マナと共にイゼルに託される事になっていたのだと知る。しかしマナは偶然緋媛と共に城下に出ていた為、彼女も連れて行く事が出来なかったらしい。そしてその後八年を江月で過ごす事になる。

 学はイゼルとフォルトアに、武は緋倉とルティスに学んだ。過ごしているうちに江月が龍族の里だと知ったが、そこに住まう者達に認められるまで数年は掛かったという。龍族が生きている事を隠さなくてはならない理由を知るが、ツヅガにも話していない。



「――という訳です。ここ三年間は、レイトーマの民の生活を知るために城下で暮らしてましたけどね。兄上の悪評も届いてましたよ。自分の事しか考えない無能だと」


 マライアの過去を覗いた事のあるマナだが、詳しくは知らなかった。故にこの話を聞けて良かったと思いつつ、マトが江月と深い関わりにある事に驚きを隠せない。


「無能だなんて……。お兄様にそんな事を言うのは良くありません」


「国民がそう思っていたんです。それに、姉上も本心ではそう思っていたのでは? ツヅガ、お前もだ」


 マトの問いにギクリと図星を突かれるマナ。振られたツヅガは目を閉じながら聞いていた。そして一言。


「……緋媛、お前はどうじゃ」


「あんた寝てただろ」


「寝てないもん! わしが陛下の有難い話の時にねると思っておるのか!」


「有難い話してねえよ! やっぱ寝てたんじゃねえか! 会議中にあんたがいつも俺に話振る時は居眠りしてる時だからな!」


 この二人のやりとりが面白いのか、マナはクスクスと笑う。そんな彼女を見たマトから思わず笑みが零れる。訳も話さず城から追い出し、江月へ嫁がせた為にマナが落ち込んでいないか心配だったのだ。この様子ならば心配なさそうである。


「姉上、今までお話出来ずに申し訳ありませんでした。実は俺、姉上の能力や天命の事を知って、国王になったら姉上を江月に引き渡す約束をしていたのです。俺も悩みましたが、百年後、城内に姉上を知る人がいなくなりますから……」


 ただ城から出したのではなく、マトも苦しんだ結果なのだと知ったマナ。彼の口からその話を聞く事で心の中の重りがなくなる。


「そうでしたか……。マト、話してくれてありがとうございます」


 後は恋の悩みである。優しいフォルトアと共にいるか、彼を裏切って緋媛を振り向かせるか。最低な事だと分かっていても、緋媛の発情期がある以上どうするべきか考えてしまうのだった。




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