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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
4章 歴史の真実

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1話 苛立ち

挿絵(By みてみん)


「姫様! どこへ消えたかと思えば、ゼネリア様とご一緒だったんですね」


 屋敷の庭に戻った時、マナの身を案じていたフォルトアが彼女の下に駆けつけた。婚約者となったフォルトアと一ヶ月共にいるが、まだ慣れない。互いに余所余所しさがある。


「すみません、ご心配をお掛けしました」


 一つだけ慣れてきた事はある。それは力の使い方。フォルトアに頭を撫でられた今も、過去を見ないようにしようと強い意志を持つようにする。そうすれば過去を見る事はないのだ。力の制御が出来るようになってきたのは、彼のお陰である。


「ゼネリア様、イゼル様がお呼びですが……」


「どうせいつもの小言だ。行かない」


 先程までいろいろと教えてくれた彼女は、またそっぽを向くようにして去った。小さくため息をつくフォルトアだが、その視線はどこか悲しげで複雑である。


「フォルトア?」


「……ああ、断られるのはいつもの事なんです。ゼネリア様のしている事はイゼル様もご存じですから。ですから、体を大切にして欲しいといつも言ってるんです。それはルティスも僕も同じなんですけど、イゼル様と緋倉様が何度言っても無駄なので……」


 言い出す事は出来ない。彼女は異種族が再びミッテ大陸で暮らせるようにしようとしているのだから。何故自分の血に大地を蘇らせる力がないのだろう。こればかりは悔いても仕方がない。


「姫様に言っても、どうしようもないのですが」


 フォルトアは微笑する。


「……その、姫様というのは、そろそろ……マナと呼んで下さい」


 ようやく言えた。一ヶ月も余所余所しいやりとりをしているのだから、互いに名前で言い合えば距離は近くなるはず。それに、緋媛の事も忘れられるだろう。彼は今森番だと聞いているが、何をしているのか、怪我はしていないか、マナは気が気でない。


「それは、僕に言うべき事でしょうか」


 フォルトアの言う事が一瞬解らなかった。婚約しているのに何を言っているのか。するとそこへ、ある声が届く。


「姫。明日、レイトーマに里帰りしないか?」


「イゼル様!? そんな急に……! 急に行っては城の者に迷惑をかけてしまいますし、それに私は江月に嫁ぐ身です。簡単に里帰りなど出来ません」


 国同士の婚姻は決して軽いものではない。嫁ぎ先に尽くすものなのだ。更には世界の王となるという、自身の宿命がある。逢えばまた逢いたくなるだろう。行くわけにはいかない。


「マトに逢いたくないのか?」


「逢いたいです! たった一人の弟ですから!」


 つい、本音を言ってしまったマナだが、時既に遅し。にっこり笑うイゼルの口車に乗ってしまったのだ。


「決まりだな。さてフォルトア、すまんが森番を緋媛と替わってくれ。レイトーマではお前より緋媛の方が話が通じるだろう」


「僕は構いませんが、今の緋媛を姫様といさせて平気でしょうか」


「ああ、それに関しては問題ない。薬華の所に寄ってから行ってくれ」


 軽く頭を下げたフォルトアは、マナ達の元を去って行った。ここ一ヶ月、緋媛と顔を会わせていないが、自分と一緒にいる事で何か都合が悪い事があるのだろうか。薬華の所へ行くという事は、どこか具合が悪いかもしれない。マナに不安が募る。


「……緋媛が心配か?」


「はい。体が悪いのでしょうか。今までそんな事一度もなかったのに……」


「いや、元気な証拠でもあるが、姫は念のため自身の身を案じていた方がいい。護身用に小刀でも携帯した方がいいな」


「短刀でしたら持っていますけど、それは緋媛と何か関係あるのでしょうか」


 緋媛がマナを護れない状態があるのか。それであれば自分の身を護る事も必要だが、元気な証拠が何かが分からない。元気な緋媛がいるのに何故自分の身を守らなければならないのか。


「同族の雌ならともかく、人間の姫に正直に話していいものか悩むんだが……。()()()()()に疎そうだしな」


「どういう事ですか?」


 きょとんとなるマナに、少し考えたイゼルが耳打ちをした。発情期の事を――



 一方、緋媛は森番の役目を果たしていた。


「さっさとこの森大陸から出て行け!」


「ひ、ひぃぃいいぃぃ!!」


 力のない人間が龍族である緋媛に向かって弓矢を放ち、刀を向けたのだ。もちろん彼は全て捌き、殴って返り討ちにしていた。まるで鬱憤を晴らすように。


(森にいる間はあの甘い匂いはねえが、くそっ! 苛々する!)


 木の根元に腰を下ろし、マナから流れる桃のような甘い臭いを思い出す。それが発情期の予兆なのだろうか。避けては通れないと聞いているが、人間相手に発情するなど、信じたくない。


(信じたくねえのに、あの匂いを体が欲してやがる。他の雄に取られたくねえって本能が……)


「くそっ! 何なんだよこれ!」


 その辺にある木を蹴り倒す。ズズン、と大きな音を立てて。今までにない怒りと喉の渇きで、頭がおかしくなりそうだ。


「随分と苛立っているね、緋媛」


 後ろから声を掛けてきたのはフォルトアは、苛立った緋媛を初めて見る。それが興味深く、面白い。離れていると徐々に怒りやすくなり、我慢し過ぎると個体によっては雌であれば誰でも良くなる場合があるという。これは薬華から聞いた話であるが、後者の事は彼も良く分かっていた。


「やっぱり姫様を欲しているみたいだね。安心しなよ、まだ手は出していないから」


 それを聞いた緋媛は心のどこかで安堵したが、それさえも納得出来ない。何度も繰り返し、人間を相手に発情するはずがない、そもそも発情しないと考えていたのだ。


「……姫の事はどうでもいいですよ。それより何か俺に用があるんですよね?」


 そうでなければここまで足を運ぶわけがない。ふぅ、と小さくため息をつくと、フォルトアは緋媛に事情を話し始めた。イゼルの命令でマナとレイトーマに行く事、それに当たり、()()()を飲むことを――



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