表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
3章 隠された真実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/240

9話 望まぬ相手

 いよいよ縁談の相手が決まるのだが、マナは沈んだ表情で一室にいる。日を改めた方がいいだろうか。その場にいるイゼルとフォルトアは顔を見合わせ、彼らの間に何かあったのだと察する。ルティスとユズは熱のあるフィリスに付きっきりのためこの場にいないが、薬華と彼らの代わりにコーリがいた。


「ヤッカちゃん、あの子がマナ姫だよね? 可愛いなぁ」


「あんたって人は……。空気読んで黙りな」


 マナを落ち込ませた原因となった緋媛は、言わなければよかったと後悔したが、自分の身を護る為でもある。しかし気になるのはあの桃のような甘い匂い。そこまで熟れている訳ではないが、何故か気になるのだ。周りはこの匂いに気付いていない。つい鼻を押さえてしまう。


「イゼル様、縁談のお相手の一人は緋媛と伺いました。他の方はどのような方でしょう」


 やけに落ち着いたマナは、イゼルを見据えている。候補は伝えるつもりだったが、この状態で言いたくないのが本音だ。


「……フォルトアだ。俺の知る中で姫の相手に相応しいのは彼らだからな」


「では、フォルトアでお願いします」


 即決したマナに緋媛を含め、皆が耳を疑った。


「姫様、僕より長く一緒にいた緋媛の方が安心するのでは?」


「……貴方がいいんです」


「ちょっと待ちな! 姫様、よく考えて。相手を決めるのは一生もんだよ。そんな簡単に決めていいのかい? 異種族婚なんだよ!?」


 フォルトアと薬華の問いにも動じない。見た目が人間なのだから良いではないか。緋媛は異種族婚は嫌だと言っている。自分の勘違いで、勝手にその気になっていたのだ。この際、誰でもいい。


「いいんです。フォルトアが良ければ、一緒にいさせて下さい」


 深々と頭を下げるマナの決意は固い。繊細なマナがこうなった原因がありそうだとイゼルは考えた。それはおそらく緋媛だが、彼は彼で気がかりな事がある。


「緋媛、お前はいいのか? さっきから鼻を押さえているが、()()()()だとしたら、お前を相手にしなくてはらなんのだが」


 あの予兆が何かは知らないが、マナの相手に決められるのは御免だ。自分の相手は自分で決める。


「少し鼻が痒いだけです。姫がフォルトアさんでいいって言うなら、それでいいんじゃないですか。俺も姫のお守から解放されるし」


 マナと視線を合わせようとしない緋媛。顔を上げたマナも彼の方を向こうとしない。


「俺としては、もう少し考えてから決めて欲しかったんだがな。どうだフォルトア。姫はああ言っているが……」


 少し考えたフォルトアは、すぐに微笑んだ。


「僕なんかで姫様のお相手が務まるなら」


 唇をきゅっと噛みしめるマナは、立ち上がると部屋を出て行ってしまった。それに緋媛は見向きもせず、彼女を追いかけたのはフォルトアである。甘い香りが遠ざかっていく。


「……緋媛。本当に良かったのか?」


「イゼル様もしつこいですね。姫が決めた事に文句つけるんですか」


 苛立つ緋媛に、薬華がテーブルを叩く。


「あんたも分かんないガキだね! 発情期の予兆が出てる雄の獲物が、他の雄に取られるから聞いてんだよ」


「緋媛くん、マナ姫から甘い香りしてたんじゃないのかなぁ。龍族の雄って、本能で自分の相手が分かるっていうし、怒りっぽくなるみたいだから……」


 薬華とコーリの言葉に、まさか自分が発情期を迎えようとしているとは思えない。自分だけは絶対にそうならないと、ずっと思っていたのだ。


「獲物って何だよ! 俺は人間に興味ねえし、あんたらやルティスみてえに異種族婚はしたくねえ! くそっ、気分悪い!」


 発情期を迎える雄の特徴、怒りっぽくなる。これが現れている緋媛は部屋を飛び出した。そろそろ発情期を迎えるが、それがいつになるか分からない。一週間先かもしれないし、一ヶ月先かもしれない。突然やってくるのだ。初めて発情期を迎える龍族の雄雌は、自分だけはそうならないと奢り、苦労をする事になる。残ったイゼル達は様子を見守る事にした。



 一方、マナは自室に戻り涙を流している。


(緋媛、見向きもしなかった……。本当にあの言葉は私の勘違いだったのね)


 心のどこかで期待をしていた。自分を嫁にしてくれるのだと。だがそれはなく、相手はフォルトアに決まってしまった。


「姫様、僕です。入っていいですか?」


 襖の前で聞える相手のフォルトアはの声は優しい。こんな時、いつも傍にいたのは緋媛だったのに。


「……顔を、見なければ」


 そっと入ってくるフォルトアは襖をゆっくり閉じるが、ほんの少しだけ開ける。顔を隠しているが、泣いていると分かっている彼は、彼女の傍に寄った。


「……姫様の気持ちは分かります。僕より緋媛が良かったんでしょう?」


「そんな事、ありません……」


「では何故泣いているのです?」


 彼の言うとおり緋媛が良かったが、自分と一緒にいてくれると決めたフォルトアの前でそんな事は言えない。正直に言うはずがないと察した彼は、マナをそっと抱きしめた。瞳が金色になる。


「は、離して下さい、貴方の過去が見えてしまいますっ!」


「大丈夫です。見ないと強く意志があれば見えません。それまで力の使い方が分からなかったようですが、この里に来て自然と身に付き始めています。実際、緋刃の過去が見えなかったはずですよ」


 そういえばそうだと気づかされる。今も見ないようにしなければと強く思うと、過去が見えなくなった。それまで見えたフォルトアの過去は最近のもので、イゼルと何かを話しているのだった。それが何かまでは見えていない。


「ほら、瞳が元に戻った。……可哀そうに、こんなに目が腫れるまで泣いて。どうぞ、落ち着くまで僕の胸で泣いてください。傍に居ますから」


 こんな時、緋媛は泣き顔を見て小馬鹿にするのだが。フォルトアは対照的に優しい。今はこの優しさに甘えてもいいだろう。マナは彼の背中に手を回し、思いっきり泣く。


 その様子を覗いた緋媛は、踵を返し、立ち去った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ