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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
3章 隠された真実

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3話 龍族である証言

 戻ってきた緋倉の匂いが違っていた。毒に侵されている臭いだった。彼に会った時は気づかぬ振りをしていたが、今頃薬華の診療所で寝ているところを想像すると、気が気でない。仕事を放って今すぐ傍に行きたいが、行っても様子を見るだけで終わりそうだ。


(私だって本当は……)


 緋倉と共にいてもいなくても批判され、彼も好奇の目で見られる。森番をしているゼネリアはそれが嫌で緋倉に冷たくしてしまうのだ。


「ゼネリア姉さーん!」


 木の上でぼーっとしていたゼネリアは、懐こい嬉しそうな声の主を確認する。その主は片桐緋刃。緋倉、緋媛の末の弟だった。


「ネツキ探し手伝ってー!」


「やだ」


 この後緋刃は、ゼネリアの説得に苦労する事になる。



 一方、江月に引き渡された真実を知ったマナは、洋服に着替えると再び泣き出した。どう声を掛ければいいか悩む緋媛だが、以前彼女が泣いた時に嫁にすると勘違いをされたため、余計な事は言えない。触れると過去を覗かれてしまう。どうしたらいいものか。


「姫様、失礼してよろしいでしょうか」


 襖を隔た廊下から声をかけるのはユズ。影は二つあり、ルティスも一緒にいる。丁度いいところに来たと、緋媛は襖を開けて招き入れた。ルティスと睨みあい、火花が散る。


「先程は名乗りもせず失礼致しました。私はユズ・バローネ。ルティスの妻です。この子は長男のフィリスです」


 と、またしても見当違いの方へ頭を下げるユズ。


「そっちじゃねーよ、こっち」


 ユズの頬に手を添え、左にいるマナの方向へ向かせてやると、その位置へ体を動かして同じ台詞と同じ挨拶を繰り返した。彼女は目が見えないのだろうか。


「すみませんね、姫様。家内は生まれつき目が悪くて、声や物音で方向を判断してるんすよ。時々間違えますけど」


「ぼんやりとしか見えなくて、この子の顔もはっきりと見えないのです」


 すやすや眠るフィリスはまるで天使のよう。ユズは気の毒だが、フィリスが可愛い。マナは彼女に近づいた。


「こちらこそルティスの奥様にご挨拶もなく、申し訳ございません。こんな醜態まで見せてしまって……」


「いえ、あんな話を聞かされては、ご不安になっても致し方ないと思います。私も始めて聞きました。()()()()の事を」


 世界の理。ナン大陸に向かう船の中でネツキから聞いた言葉である。この時マナは、先ほど聞いた話が世界の理である事を知った。それは自分自身を指すという事も気づく。


「他人事に聞こえるかもしれませんが、この里では昔からそういう習わしがあるそうで……その、百年経っても共に過ごせるお相手を選ぶといいますか……。すみません、先ほど薬華さんと主人から聞いたばかりですので、上手く説明できなくて……」


 困ってしまうと、腕の中のフィリスがぐずってしまう。立ち上がり、ポンポンと軽くお尻を叩くとすぐに落ち着いた。座っているのは嫌らしい。だが、また泣く。


「姫様賢いんで詳しい説明はいらないと思いますけど、ユズが言いたいのは残された人間にはならないって事っす」


 それが何を意味するか、マナにはすぐに分かった。元の場所へ戻ったとしても、身内や友人を全てを失い残される。だが、相手が龍族ならば寿命は千年。共に生きられるので、安心できるのだ。その時ユズはフィリスがぐずっている理由に気付く。


「あなた、フィリスを連れて緋媛様とリーリの所へ行って。うんちみたいなの」


「何で俺まで……」


「お前はいらねーよ。俺の可愛い息子が汚れる」


 またしても睨みあう緋媛とルティス。ユズはそっとルティスにフィリスを抱かせた。


「姫様と二人きりで話をしたいの。人間の女同士ですし」


「わーったよ。でもそいつが付いてくんのはナシな。さ、行こうぜフィリス~♪」


 すっかり親バカになっているルティスに引いている緋媛は、庭で昼寝をする事にした。日向ぼっこしている猫に混ざろうと。誰もいなくなったところで、ユズは口を開いた。


「姫様は、この江月が龍族の里と聞いた時、嘘だと思いませんでした?」


「はい。ずっと一緒にいる緋媛もこの国の皆様も人間と変わりありませんから」


「私も初めは主人も人間だと思っていました。でも本当の姿はとても大きな龍なんです。残念ながら私は大きさと大体の色しか分かりませんけど、一度だけ目にしました。あの大きな体をどうやって人間の大きさにしているのかは不思議ですけど、きっと本当の姿を見ないと信じられませんよね」


 くすくすと笑うユズにもっと詳しい話を聞きたいが、目の悪い彼女に聞いても返答は同じだろう。他に龍族だと実感する出来事はないのだろうか。


「あっ、でもやっぱり人間の姿をしていても、龍族は獣です」


「獣? 何かあったのですか?」


 マナの問いに頬を赤らめるユズ。当時の事を思い出しながら答える。


「発情期……があるんです。犬や猫のような他の動物にあるような発情期が。でも他の動物とは少し勝手が違うみたいで、薬華さんに聞いた方がいいかもしれません。主人が、緋媛様に気を付けるように言ってましたから」


 見た目が人間である以上、それもまた信じられない話だが、ユズがそう言うのならばそうなのだろう。しかし緋媛が発情期を迎える姿など想像できない。そのような恥ずかしい事を薬華に聞きに行くわけにもいかず、まずは書庫で学ぶ事にしよう。


「それと、この里で知った事は、イゼル様のお許しなしに他の人間に話してはいけません。龍族は昔……いえ、今も人間に怯えているんです」


 それは龍族を滅ぼしたとした事に繋がるのだろうか。更には滅ぼしたとするその一人とは誰なのか、生きているのか。泣いている場合ではない。知りたい歴史が山ほどある。自分の命運を受け入れる前に、歴史の全てを解き明かそう。


 そう強く決意した時、マナの耳にネツキとエルルを保護した情報が入ったのだった。



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