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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
3章 隠された真実

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1話 温泉タイム

挿絵(By みてみん)


 江月に着いた夜、ルティスの営んでいる旅館に入ったマナは、部屋に入るなり温泉に向かった。男性、女性の暖簾はなく、雄、雌と書かれている暖簾が下がっている。表現が動物的だと思いながら広い脱衣所で服を脱いだ彼女は、カラカラと温泉に繋がる扉を開けた。そこは露天風呂である。


「お城の浴室より広い……!」


 普段は多くの客で賑わっているのだが、この日、この時間はルティスの好意で貸し切りにしていたのだ。ただし雌湯のみ。雄側は緋媛がいるので通常通りだという。


(イゼル様のお屋敷の浴槽もとても広いけど、ここはそれ以上ね)


 あまりに広すぎる浴槽は何百人も入るだろう。それだけ大きいのだ。湯に浸かったマナがほっとしていると、誰かが入ってくる。


「こらこら、走ったら転ぶよ」


「平気だもーん!」


 湯気でよく見えないが、二人、いや三人だろうか。かけ湯をすると、こちらに近づいてくる。


「しっかし珍しいね、あんたもここに来るなんて」


「イゼルが行けって言うんだ」


 たっと駆け出した小さい影が、飛び跳ねるとお湯の中に飛び込んだ。


「きゃあっ!」


 マナに水飛沫が掛かる。その声に気づいた二名は湯気から見せた彼女の姿にようやく気づいた。


「あ、お姫様だぁ!」


 迷惑をかけたリーリはそのまま奥へ泳いでいく。手で顔の水を拭った彼女は、他の二名の姿を確認した。


「誰だい、この雌。見た事ない顔ねぇ」


「例のマナだよ」


 湯の中に入ってくるゼネリアと、髪を団子に結っている女性のある所に目が行ってしまうマナは、自分のモノと比較してしまう。リーリはまだないが、なんて羨ましいのだろう。


(お、大きい……。私なんて掌サイズしかないのに。それにあの方のは浮いている……)


 思えば他人と比べた事など一度もない。浴室の共のメイドは皆服を着ていたから。マナは自分のモノといろいろと違う事に気付いた。


「緋媛が連れて――」


 ゼネリアが言いかけると、団子髪の女性は目の色を変えてマナの方を向く。マナはじっと胸を見られているのに気づかれたと勘違いするが、そんな事はない。


「あんたがマナ姫だって? 早速その目を見せてよ!」


 団子髪の女性がマナに触れようとした時、ゼネリアはその腕を掴む。ダメ、と一言言うと、女性は渋々手を離した。


「あの、貴女は……」


薬華ヤクカ・クロイルだよ。イゼル様の屋敷の玄関で一度会ったねぇ」


 マナは思い出す。緋倉を引きずるように引っ張って行った女性だと。しかし目に付くのは浮いてる胸。


「マナ・フール・レイトーマです。この度、レイトーマから江月に参りました。薬華様、ゼネリア様、どうぞよろしくお願い致します」


「あはは、本当に丁寧な()()だねぇ」


 人間、という言葉は緋縁も何度も口にしていた。今ならその理由もわかるが、実感が沸かない。


「前も来たんだってね。挨拶もできずに申し訳ない。聞きたい事あるかい? あたしは山のようにあるけど」


 何故なら見た目が完全に人間だからだ。


「この国の事と世界の事を知りたいです。イゼル様がここは龍族の住まう里――」


「イゼルが? あいつから明かしたのか」


 信じられない、という表情でマナの方を向いたゼネリア。マナは反応速度に驚いてしまう。


「は、はい。でも、冗談、ですよね? 緋媛は一度も龍族だって素振りを見せてませんし、貴女方もそうは見えません。同じ人間ではないでしょうか」


「……あんたには私が、人間に見えるのか」


 徐々に黒く変化してゆく髪と獣のような瞳。先程とは全く違う風貌に見える。遠くからぱちゃぱちゃという水の音が近づく。彼女は人間ではない――。首を横に振るマナ。


「人間でなければ、何に見える?」


 薬華は今にもマナに噛みつきそうなゼネリアの肩を掴んだ。


「落ち着きな。姫様が困っているだろ」


 怯えるマナと、諭すような薬華の表情。やり場のない感情をどうすればいいのか。舌打ちをしたゼネリアは浴槽から立ち上がると出入り口へ向かう。


「あれ? ゼネリア様ー、もう上がるのー?」


 戻ってきたリーリの声も耳に入らないのか、出入り口から出て行ってしまった。マナに突如不安が襲う。


「私のせいですね。ゼネリアの気に障る事を言ってしまったのでしょう……」


「それは違うよ。あの子はちょっと特殊でね、生まれた時から苦労してるんだ。力の制御は出来ても、感情の制御は難しいんだと」


 特殊とはどういう事だろうか。聞いてはいけない気がするが、知りたい。だが聞いてしまってもいいのだろうか。マナの中で口に出すか否か、迷いがある。


「ゼネリア様はリーリより大変なんだよ。緋倉様がね、ゼネリア様が気にしているから言っちゃダメって言うの。だからお姫様に教えなーい」


 無邪気に笑うリーリ。そんなに気にしている事を言ってしまったのかと、マナに罪悪感が押し寄せた。


「教えないも何も、あんた知らないだろ」


「てへっ」


 頭小突いて舌をペロンと出すリーリは、片目を閉じている。どうやら彼女は大変だという事しか聞いていないらしい。


「お姫様、背中流してあげる!」


「ありが――」


 グイグイと引っ張るようにマナを浴槽から連れ出すリーリは、子供なのに力強い。連れられているマナに、薬華は微笑んだ。


「姫様、リーリと仲良くしてやって下さいな」







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