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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
2章 滅びた種族

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17話 江月、再び

 フォルトアと別れたものの、ここは江月の入り口なのだろうか。森だらけで何もない辺りを見渡していると、緋倉が指を指した。


「姫さん、ここ触ってみ?」


「……何もありませんよ」


「いいから、この辺に手ぇ出してみてください」


 言われた通り手を出すとバチッと電気のようなものが体中を走った。思わず自分の体を抱きしめる。


「おいクソ兄貴、てめえ姫に何させてんだ」


 フォルトアがいなくなった途端にいつもの緋媛に戻る。


「触った方が分かるだろ?」


 体がピリピリしたマナだが、その感覚はすぐ消えた。今度は同じところとその周りを緋倉が何度も触るが、何もないようだ。


「どうなっているんですか?」


「こうなってんだよ」


 緋媛はマナの肩を抱くようにして、緋媛の触れた場所に向かって歩く。電気が走るから危ない、と思い金色の瞳を閉じたが、何も起きない。緋媛はマナの肩から手を放した。一瞬彼の過去が見えたが、それは先ほどの船の中での出来事である。


「これは一体……」


「結界ですよ、侵入者避けの」


 緋倉の回答がマナには信じられない。結界という物は空想の世界でしかないからだ。


「この国に入れるのは、俺達江月のもんだけなんです。ま、俺らに触れてると中に入れるけど」


 結界が本当にあるのか、半信半疑だ。たまたま体が痺れただけかもしれない。人間に結界なんてもの作れるとは思えないから。そんなマナの考えは緋媛にはお見通しだった。


「あんた信じてねえだろ。ここ暫く俺たちが戦ってたとこ見てたくせによ。」


 思い起こせばたしかに不思議な事ばかりだった。ゼネリアは一瞬で江月からレイトーマへ移動し、

 緋倉は人間をいつの間にか地面に埋めていたのだ。この結界は本物でもおかしくないが、一体どうやっているのかが分からない。


「この結界も女にだらしないどっかの野郎に反応してくれたらいいのに」


「兄に冷たい弟にもな」


 この兄弟、共にため息を付くのだから息は合うのだろう。するとそこへ、遠くからゼネリアとルティスがやって来るが、マナ達の姿を捉えると真っ直ぐ緋倉へ向かっていく。


「おー、ゼネ! ルティスも来た……ガッ!」


 顔面に彼女達の蹴りが入る。パタンと倒れた緋倉を立たせると、ゼネリアは彼の頬に容赦のない往復ビンタをした。顔が真っ赤に腫れ上がっていき、ルティスの機嫌も悪い。


「止めましょう、緋媛!」


「いや、あれは兄貴が悪い」


 止めのように強烈な平手打ちをされた緋倉は、その場に正座をした。


「ご、ごめんなさい。姫さんに結界の事教えるために触らせたんです」


 緋倉の前で腕組みをして見下ろしている、いや、見下しているゼネリアとルティスの周りが冷たくも熱くもなり、温い空気が漂っている。


「俺達だって暇じゃねーんすよ」


「二度とするな」


 この結界、部外者が触れると侵入者が来たと察知する仕組みになっており、ルティスやゼネリア、フォルトア、緋倉が様子を見て対処する。その対処する者がマナに結界を触らせたから怒られているのだ。緋媛が説明をするとマナは納得したが、少しやり過ぎではないだろうか。


 怒り終えたルティスがマナに近づいてくる。マナの顔を覗くように少し腰を曲げた。


「しばらく振りっすね、姫様。長旅でお疲れでしょう? 今日は俺んとこの旅館に泊まってってくださいよ。タダにしとくんで」


「旅館ですか!? ありがとうございます!」


 ホテルはレイトーマにあるが旅館はない。畳の上に布団を敷いて寝るのはイゼルの屋敷で体験したが、おそらく温泉もあるのだろう。マナに一つ楽しみが増えた。


「おめーは払えよ。三倍の金で」


「それ姫の分も払えって言ってるよな? 残りは迷惑料か?」


 やはり緋媛とルティスはすぐ喧嘩を始める。互いに毛嫌いしているらしい。


「ちげーよ、目障り料だ」


「ならとっとと俺の目の前から消えろよ」


 ルティスを前にすうと緋媛はチンピラのようになる。なぜこうなるのかと、マナはため息をつく。


「直ぐ消えてやるよ。だがな、俺の旅館に泊まるならテメーと姫と目障り料で三倍払えよ!」


「姫の分も入ってんじゃねえか! このクズ!」


 緋媛が腰の剣に手をかけたとき、マナは二人の間に割って入った。


「緋媛、そんな言い方してはいけません! ルティス様に失礼です」


「様あ?」


 口元だけ笑ってマナの方を向く緋媛は、息が当たるほど彼女に近づく。


「前から思ってたんだけどよ、初対面の奴らに様付けすんじゃねえよ。イゼル様なら分かるけどな、他の奴らは普通に呼べばいいんだよ」


 ルティスを庇った為か、マナへの当たりも強くなっている。


「ふ、普通?」


「俺やレイトーマの連中を呼ぶように言えってんだよ」


 マナに対してもチンピラのような言い方をする緋媛。怖くなったマナは、ビクビクと怯えている。


「でも江月の方ですし、それに初対面の方には様をつけなさいって教わってますっ」


 今は亡きマナの母は、子供の頃から他の方に対する礼儀に厳しく、初対面の方に様を付けないと失礼だと躾けていたのだ。


「いいんだよ、俺達にはなくて。江月ではイゼル様だけにつけりゃいいんだよ」


「は、はい……」


 国によって考え方が違うと、この時初めて知ったマナ。イライラしている緋媛を見たルティスが煽る。


「おーい、姫様怖がってんじゃねーか。お前いつもそういう態度取ってたのかよ。あー可哀そうだな!」


 と、ルティスの胸倉に緋媛が掴みかかった。二人とも苛立ちが隠せないらしい。


「テメーがいるからだろうが」


「んだと!?」


 喧嘩が始まる、と思った時、ゼネリアが冷静に声をかけた。


「ルティス、早く戻ってやれ」


「……そっすね」


 ルティスは胸倉の緋媛の手を振りほどき、バッと跳ねると木の上を飛んで去って行った。場の空気を変える為に緋倉が言う。


「あれでも父親になったんだよな。アレでも」


「出産の後だし子供が可愛いらしくてな、なるべく離れたくないらしい」


 今度はゼネリアが言うと、緋媛はより一層驚いた。


「子煩悩ってタマかよ、あれ」


「人間の赤子の最初の一年は成長が早いぞー。いつの間にか立ってるもんな」


 腕組みをする緋倉とゼネリアはルティスの子の事を思い出しながら頷く。


「そんなにか」


 緋媛の場合、マナが生まれてから約一年後にレイトーマ城に入り、その前は緋倉とゼネリアが彼女の傍にいたのだ。彼が知らなくても無理はない。



 屋敷に着くと、イゼルと共に髪を団子に結っている白衣を着た女性が玄関にいた。その女性は緋倉の顔を見るなりハッと鼻で笑い、緋倉の襟元を掴むと――


「来な!」


「な、何だよ」


 緋倉を引っ張って屋敷から連れ出したのだ。マナは何が起こったか分からないが、緋媛は気づいている。船の上で毒にやられていた事、まだ毒が抜けきっていない事。フォルトアも先ほど会ったルティスも緋倉のの体調に気づき、ルティスから薬華に伝わったのだろう。


「緋媛、緋倉はどうしたのですか?」


「ん? ああ、手伝いに連れて行かれたんだろ。」


 マナに心配かけまいと適当な事を述べて誤魔化した緋媛は、イゼルの前に跪く。


「只今戻りました、イゼル様」


「ご苦労だったな。よく姫を護ってくれた。これからの事は明日話そう」


 立ち上がった緋媛。イゼルはマナに視線を移すと――


「よく来てくれた、マナ姫。()()()()()()()江月へ」


 彼女にとって衝撃の発言。なぜここで明かすのか、これには緋媛も驚く。


 イゼルの言った事は事実なのか、冗談なのか。知りたかった歴史の真実が明かされていく――





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