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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
2章 滅びた種族

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16話 嫉妬

 江月までは港から歩いて二時間掛かるという。森の中をずっと歩くと疲れてしまうので、時々マナの為に休憩を入れるようにしている。今は休憩をしているから三時間ぐらい経過したところだ。そして、五回目の休憩。緋媛とマナは、丁度いい大きさの岩の上に対面になるように座っている。


「江月までまだですか……」


 疲れたマナに対し、平気な顔をしている緋媛。


「もうすぐだよ」


「もうすぐって、さっきも聞きました」


 マナの脚はパンパンになってしまい、疲労が溜まっている。道を知られたくないから江月までの馬車はないので歩くしかない。


「本当に体力ねえよな。ガキの頃から鍛えさせりゃよかった」


 緋媛は自分のせいだと言わんばかりにため息をついている。だがマナは鍛えたつもりだったが、つもりはつもり。


「これでも時々走ってたりしてたんですよ」


「俺の横でゆっくりな」


 脚をさすりながらぷぅ、と頬を膨らます。緋倉は何をしているかというと、休憩の度にどこかへふらっと行っては戻ってくる。先ほどまたふらっと何処かへ行ってしまった。話を続ける二人。


「あんたは歩いてるだけだろ。俺はあんたの荷物も持ってんだよ」


「ですから自分で持ちますと……」


 か弱いマナに持たせると江月への到着が遅れる。緋媛はそれが嫌だった。


「やめとけよ、すぐ歩けなくなるから」


 この意地悪な発言に、マナは何も言い返せない。少しの沈黙の後、離れたところから楽しそうな笑い声が聞こえる。緋倉の声だ。


「――しちまったんだよ、あまりの臭さで」


「それは可哀そうな事をしましたね」


 もう一人の男性の声は誰だろう。聞き覚えはある。その時、緋媛が勢いよく岩から立ち上った。マナは何かあったのかと不安になる。


「しかし六華天が出てくるとは……。ん? やあ、緋媛」


「フォルトアさん!」


 彼は無邪気な子供のような笑顔で、緋倉と共にやってきたフォルトアに近づいた。マナは顔を見て彼の事を思い出す。


「おかえり。怪我はしてないかい?」


「全っ然! かすり傷すらないですよ」


 見た事のない緋媛の表情に、マナは目が点になる。普段の彼はどこへ行ったのだろう。男性はマナへ近づくと、丁寧に頭を下げた。


「お久しぶりです、マナ姫様。長い船旅のうえ歩かせてしまい、申し訳ございません」


「いえ、お気になさらず。これぐらい平気です……」


 何故かフォルトアに微笑まれると、声が小さくなってしまう。不思議だと思うマナの頬が桃色になる。


「さっきまでバテてたくせに」


 いつもマナに見せる態度でぼそっと言う緋媛の言葉は、マナの耳に聞こえていた。


「ば、バテてません! ちょっと疲れただけです!」


 あくまでもう歩きたくないという態度をしていた事を隠したいようだ。


「こら緋媛。そう意地悪な事を言うものではないよ」


「だって……」


 今度は子供のように拗ねる緋媛に、マナは不思議に思う。フォルトアへの態度と私たちへの態度、二面性のある緋媛はなんなのかと。私は同じ人を見ているのかと。


「なあ、フォルトア」


 緋倉が声をかける。


「仕事代わろうか?」


「……なぜです?」


「いやあ、疲れてねーかなって思って」


 目を反らしながら言う緋倉にフォルトアは笑顔で答えるが、心なしか声のトーンが低い。


「お疲れなのは緋倉様でしょう? ゼネリア様に冷たくされたくないからって、僕と仕事を代わるのは良くない」


 このやりとりを見たマナは、フォルトアの笑顔の裏に黒いものがある気がした。これで黙ってしまうのかもしれない。直感で危険だと叫んで。


「わ、わーかったよ。はぁ……」


 緋倉が何故落ち込んでいる理由はマナには分からない。そんな緋倉を放っておき、人の変わった緋媛が聞く。


「フォルトアさん、今回はいつまで?」


「明日だよ。夕方には戻る。そうだ、姫様もいらっしゃるし、里の入口まで僕も一緒に行くよ」


 これに緋媛は目を輝かせた。玩具を買ってもらった子供のように。



 そこからの道中、いつもとは違う緋媛が見れてマナにとっては新鮮な時間だった。今は温泉旅館を営んでいるルティスの子供の話をしている。ただし、会話は緋媛とフォルトアだけだ。


「少し心配だったけど、ルティスの子は無事に生まれたよ。ユズさんに良く似て綺麗な顔立ちの男の子だ」


「よかったー」


 ルティスと緋媛の仲は悪い。顔を合わせれば喧嘩ばかりだ。緋媛の安堵はルティスに似なくて良かった、という安心らしい。


 フォルトアが共にいる間、緋媛はずっと彼の隣にいる。いつもマナが緋媛の隣にいる上に、俺のとこに来いとプロポーズをされているので、心が苦しくなった。その言葉の本当の意味を知らないのに。


「はぁ」


 代わりにマナの隣にいるのはため息をつく緋倉。


「ふぅ」


 マナもつい一緒にため息をついてしまった。男性のフォルトアに嫉妬しているのだろうか。


薬華やくかさんが調べたところ、ユズさんの血が濃いみたいなんだ。リーリとは真逆だね」


「それは気の毒ですね。あいつにとっては」


 マナの心がもやもやしている間、緋媛たちの会話は楽しそうにしている。また心が苦しくなった。緋媛の隣に居たい。


「うん、仕方のない事だけどねでも分からないよ。血だけでは判断できない。生命とは実に不思議なものだからね」


 ユズ、薬華とは誰だろう。会話内容から推察するに、ユズはルティスの嫁と思われる。そのユズの血が濃い事でルティスにとって気の毒という理由も分からない。緋媛たちはルティスに似ている方が良かったのだろうか。だがそれだとユズに似ている事で安堵していた事と矛盾してしまう。


「さて、僕はここで失礼するよ。姫様、また屋敷でお会いしましょう」


「はい、また……」


 フォルトアは来た道を戻るように去って行ったが、周りには森だらけで何もない。江月の入口まで一緒に行くと言っていたが、入口らしきものは見当たらない。


 一体ここはナン大陸のどこなのだろう。不安一杯のマナは、この後信じられない体験をする事になる。



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