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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
2章 滅びた種族

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15話 病み上がり

 緋倉が倒れてから1週間、ようやくナン大陸の港に着いた。

 あれからずっと彼は別室のままである。二、三日前に緋媛と一緒に様子を見に行ったら元気になっていたが、戻るのが面倒という理由で部屋に居ついていたのだ。マナにとって、この二週間は長いようで短い。ようやく江月へたどり着くのだと、マナは胸を高鳴らせながら船から降りて緋倉を待っていると、ネツキがやってきた。


「申し訳ございませんでした。せっかくのお誘いを断ってしまって……」


 緋倉の体調の事があって断った食事会の事を会って早々に詫びたが、ネツキは気にしていない。


「いいんだよ、仕方のない事だ。お連れの方の体調は?」


「良くなったみたいです。ご心配おかけして……」


「それなら良かった」


 ほっと一息ついたネツキの服の袖をエルルが二回引っ張った。外に出たので、再びフードを被っている。


「そうだな、行くか」


 エルルの頭をネツキが撫でた。二人は龍の神殿を探す為にナン大陸へやってきたのだ。あるかどうかも分からない建物を探す為に。


「またどこかでお会いしたらよろしくお願いします」


 丁寧に挨拶をすると、二人は港から出て行った。


 その間も緋倉はまだ来ない。マナが心配していると、船の中から欠伸をしながら出て来た。頭も掻いてるその様子に、緋媛は頭を抱える。呑気にマナたちの所へやってきた緋倉は、へらっと笑った。


わりいなー、心配かけちまって」


「もう平気なのですか?」


「ばっちりですよ」


「本当かよ。俺にはそうは見えねえな」


 ため息をついた緋媛が言う。嫌味を込めて。


「頭が特に」


「言うじゃねーか。お前だって心配してくれたんだろ? ん~?」


 緋倉が緋媛の肩に腕を回すと、緋媛は舌打ちをして振り解いた。この様子ならば問題ないのだろうと思うマナ。きょろきょろと見渡した緋倉が聞く。


「なあ、カトレアの王子はまだ来てねーの?」


「もう行きましたよ」


「へぇ」


 何か考えるように頷いた緋倉は港の入口の方を見ると、コロッと態度を変えて彼も入口へ向かった。


「さ、とっとと行きましょうか」


 名残惜しい船。また船に乗りたい。途中退屈だと思っていたが、降りると寂しさが残る。マナと緋媛は船の方を一度見ると、踵を返して歩き出した。


 その時、彼女は気づいていない。乗った時に沢山いた密猟者の姿の殆どを、降りる時に見なかった事を。それは十五分前、マナたちが船を降りた後に緋倉が行った行動にある。


 毒はほとんど抜けたが体調が優れないの緋倉は、手を握ったり広げたりしていた。少し痺れが残っている。

 彼が部屋を出た後、背伸びしながら船を降りようとすると、何やら話し声が聞こえてくる。


「散々な目に遭ったぜ」


「さっさと降りて狩りしようや」


「レアもんどんだけいるかな~」


 この日の密猟者を撃退する当番はフォルトアだが、病み上がり後の準備運動として、少しは密猟者を減らしておこうと考え、三人組に声をかけた。


「おい。ナン大陸での狩りは止めとけ。忠告するぞ。狩ろうとすれば逆に狩られるぞ」


 この忠告に、見ず知らずの野郎が何言ってんだという顔で三人が振り返る。


「ああん!? 何だてめぇ!」


 すると三人とも緋倉の顔を見るなり、顔色が真っ青に変わった。ぶるっと体を震わせ、体が引き気味になっているのだ。


「お、おめえはっ!」


「あの時の野郎!」


 何の時かピンとこない緋倉だが、悲鳴を上げながら三人組は逃げて行く。すると今度は後ろから同じような反応で声が耳に入る。


「こ、こいつあん時の……!」


「あん? この野郎がなんだってんだ?」


 四人組がやってきたが、緋倉に怯えるのは二人。後の二人は緋倉を見下している。


「びびってんのかー? おめーら。ボスの前で情けねぇな」


「こいつには関わっちゃいけねぇよぉ~。おっかねぇんだよぉ~」


 見覚えのない男達。もちろん緋倉はその男達に何かをした覚えがない。怯える部下に向かって二番手の男がガンを飛ばすように怒った。


「ボスとこいつとどっちがおっかねぇんだ!」


「いや、そりゃボ、ボスの方が……!」


「おい、てめぇ、俺の部下に何しやがった。あん?」


 ボスらしい男が緋倉に問うが、やはり思い出せない。つまり何もしていないという事で自分自身納得する緋倉。ただの言いがかりだろう。


「俺が聞きてーよ。それよりてめえら、密猟者か?」


「聞いてんのは俺だあ! 質問に答えろおお!」


 ボスは血の気の多い男のようで、緋倉に向かって拳を振り下ろしてきた。すると緋倉は易々とその拳を受け止める。部下達は驚く。


「ボ、ボスの鉄拳を受け止めた!?」


「だから関わっちゃいけねえって……」


「密猟者だったらな、悪い事は言わねぇ。とっとと帰りな」


 密猟者が多い分、まだ船から降りていない血の気の多い人間が沢山いるのだろう。密猟者を減らすつもりだったが、まだ万全ではない緋媛は面倒臭くなってきた。


「ごちゃごちゃうるせええええ!」


 ボスが再び拳を振り上げて緋倉の上へ落としてきたが、彼はあっさり避ける。ああ、面倒臭い、面倒だ、そんな事を考えながら。


「逃げるんじゃねぇえええ! 男なら拳で語りやがれええええ!」


「拳で、ねぇ」


 横から殴りに来たのを流し、拳でと言われたので軽く殴ってやった。するとドゴオン! と大きな音がすると、ボスという男は壁にめり込んでしまう。その様子を見た密猟者の顔は目玉が飛び出す程真っ青になる。


「んー……全然ダメだな。この程度の力しか出ねぇや」


 納得のいかない力加減になってしまった緋媛。壁が壊れるぐらいの力で殴ったのだが、やはり調子が悪い。


「ボ、ボスうううう!」


「だから言ったんだよおお! 関わっちゃいけねぇって!」


 密猟者のうち一人はボスを壁から引き抜こうとし、もう一人は怯えている。二番手と思われる男は、小刀を引き抜いて緋倉に向けた。


「うちのボスに何しやがんだてめえええ!」


「いや、拳で語れっつーから」


 この騒ぎを見た他の密猟者は、喧嘩か仲間割れかと野次馬のごとくやって来る。すると煽り立てるように、小刀を緋倉に向けている男が言った。


「おい! この野郎が狩られる前に帰れってよ! 俺らを甘くみてんぜえええぇぇ!」


 どうやら緋倉の予想は当たったらしく、密猟者は血の気が多い人間だらけである。次々と得物を出してくると、緋倉に向かって行く。


「ああん!?」


あめえのはてめぇだろ!」


「やっちまおうぜ!」


 密猟者が持っている武器は鉄球、鎌の他に狭い廊下に見合わぬ大刀や槍。十人以上の密猟者が、武器を大きく振って緋倉を襲ってきた。


(場所考えろよこいつら!)


 ナン大陸の森の中で対処するときは数人ずつが多いため、十人以上で襲ってくる事は滅多にない。刀を出してもいいが、狭い廊下では邪魔になる。


「俺病み上がりだってのによ!」


 襲ってくる密猟者を避けて一人殴ると何人かを巻き込んで倒れた。すると今度は敵討ちのように三人襲ってくる。


「こんなに!」


 斜めになるように三人が襲ってきたため、重なるように纏めて三人殴ると飛んでいく。この時点で怯える者が出てきたが、人数さえいればと、まったく接点のないであろう八人が纏めて襲ってきた。


「来るんじゃねえよ!!」


 緋倉は半分蹴って、残り半分を殴って倒す。残った密猟者を睨みつけ、威嚇する。


「まだ来るかあ!!」


 人間とは思えない顔を見た密猟者達は、全員が真っ青な顔をして緋倉の前で土下座した。


「す、すいませんでしたああああ!」


「この船で自国に戻るか!」


 緋倉の問いに顔を上げず返事をする密猟者達。


「はい!」


「次狩りしようとしたら殺すぞ!」


「はいいい!」


「散れえ!!」


「はいいいいいいい!!!」


 土下座した密猟者達は緋倉が殴って気絶させた人達を担いで逃げるように去って行った。頭に血が上っていた緋倉は少しふらつきを感じたが、緋媛達と合流したのはその後である。




 その後、緋倉が船で動いていた内容をマナが知ることはなかった。





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