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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
2章 滅びた種族

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14話 放っておけない

 船が大きく揺れた後、緋媛の耳には船から何か落ちた音が聞こえた。彼には甲板で緋倉が暴れているという事しか推測できない。


「何も問題なさそうだ。安心しろ」


 不安そうにしているマナ達そう答えると、彼女はあっさり話題を元に戻した。


「――その、世界の理とは何ですか?」


 カップを片付けた緋媛は船室の窓から外を見たが、やはり部屋の中からでは外の様子が分からない。


「俺にもよく分からない。お父様は何も教えてくれないからな」


 マナ達が真剣に世界の理について話をしている中、兄なら問題ないだろうと軽く考えていた。彼が毒に侵されているとも知らずに。


「俺の推測でしかないけど、世界の成り立ちの事じゃないかと思ってるんだ」


「私は構成みたいなものかと思います。何となくですが……」


 しかし昨夜、彼はマナが寝静まった後で緋倉に言われたのだ。自分に何があっても姫から離れるなと。本当に問題ないのだろうか。


「緋媛? 先ほどからどうしたのですか?」


 あまりにも黙っている緋媛が気になったマナは声をかけた。


「ああ。何でもない」


 船旅を楽しんでいるマナを不安にさせる訳にはいかない緋媛は、兄を信じるしかない。



 それから数時間が経ち、マナ達の話が盛り上がってきたところで日が沈む。話は持越しとなり、翌日のティータイムで今日の続きをする事となった。マナは部屋に戻る前に外の空気を吸いたいと言い出す。


「有意義な時間でした。明日も楽しみです」


「随分嬉しそうだな」


「ええ、私と同じような事を考えてましたし、いろんな話が出来ましたから。カトレアが音楽や美術、芸術に長けた国という話も詳しく出来ましたし、いつか行ってみたいです」


 上機嫌のマナに一安心の緋媛だが、一向に顔を見せない緋倉の事が気になる。甲板へ通じる扉へ行くと、立入禁止の張り紙があった。緋倉が何か問題起こしたのだろう。マナ達がその張り紙を見ていると、若い船員がやってきた。


「ああ、ダメだよ、甲板は今立ち入り禁止」


 やけに厳重な装備をしている。


「何があった」


「ちょっと騒ぎがあってさ。消毒するから終わるまで外に出ないでよ。いいね!」


 その若い船員は立入禁止の甲板に入って行く。消毒という言葉が引っ掛かる緋媛だが、その考えはマナも同じようである。


「ウィルスか何かでしょうか。乗客の皆様や船員様にうつったら大変!」


「その前に自分の心配しろよ。あんた王女だろ」


 緋媛は無理矢理マナを連れて部屋に戻る。王女の安全が第一なのだ。部屋に入ろうと扉に手をかけた時、船員がやってきた。


「お客様、お連れの方から伝言がござます」


 これを聞たマナがきょとんとした顔を見せると、緋媛が緋倉の事だろうと答える。


「一般の部屋に移動したので、替えの服とみかんを持ってきて欲しいと。部屋番号は――」


 伝言を伝えた船員は軽く頭を下げて立ち去った。ひとまず緋倉の服を持って行く事にし、荷物を取るために部屋の中に入るとマナが疑問を口にする。


「どうして他の部屋にしたんでしょう」


 緋媛にはだいたい想像がついていた。おそらく先ほどの甲板の立ち入り禁止に関係があり、敵と戦っていたのだろう。


「もしかして、ネツキたちと一緒に食事をしたのに誘わなかったから……」


 マナの発想は実に人間らしいものだったが、緋倉はそんな事では拗ねない。


「言ったろ? 王族同士の会話は息が詰まるって。それにそんな事で拗ねるような奴じゃねえよ。たぶん具合が悪くなって、姫に移さないようにって部屋分けたんじゃねえか?」


 緋媛が適当に言ってみるとマナは信じたが、やはり不安らしい。


「大丈夫でしょうか……」


 服を持って緋倉のいる部屋に行くと、彼は上半身裸になってぐったりとベッドで横たわっていた。あまり見ない姿に、さすがの緋媛も心配になる。


「緋倉様、大丈夫ですか?」


「近寄るな……っ!」


 マナが近寄ろうとすると、緋倉は苦しそうにしながらも言い方は鋭い。びくっと体を震わせた彼女を見た緋倉は、その後すぐににっこり笑った。


「すみませんね、急に具合が悪くなったもので。うつすといけないから、離れて下さい」


 俯いて一歩二歩下がるマナを見た緋倉は、すぐに緋媛の方に視線を移す。


「緋媛、服とみかんは?」


「持ってきた」


「そこ、置いといてくれ」


 指差した先はテーブルだった。その上にはやけに飲み物が多い。そこに服を置きながら横目で緋倉を見ると顔色が悪いが、刺し傷はないので毒か何かの所為だと緋媛は思った。


「何か私に出来ることはありますか?」


「そうですね……」


 だるそうに体を起こした緋倉を見たマナは頬を赤く染めて横に向ける。やはり男の体は見慣れないらしい。


「じゃあそこのみかんを剥いて、口移しで食わせてくれます?」


「えっ!」


 瞬間的にマナの顔が真っ赤になった。緋倉は冗談を言う元気はあるらしいので、内心ほっとしている。


「口移しがいいなら俺がしてやろうか?」


「ふざけんな、野郎はいらねーよ。ゲホッ!」


 口を手で覆い咳をした緋倉から匂うのは血。そのまま口を手で拭うと、ふーと大きく息をつく。何もできない自分への苛立ちもあり、マナは複雑な気持ちになった。


「……そんな顔しなくても、すぐ良くなりますから。ね?」


 そんな彼女の表情を見た緋倉が言うと、マナはキリッとした顔をして緋媛に伝えた。


「明日のネツキたちとの予定、キャンセルしましょう。緋倉様がこんなに苦しんでいるのに、私たちだけ楽しむなんて許せません」


 マナは昔から、レイトーマの第一師団、第四師団のだれが怪我したと聞いたら見舞いに行っていた。自身の予定があったとしてもだ。傷ついている人がいるからと、自身の勉学のために呼んだ教師でさえも待たせる人間である。


「俺の事は別に――」


「だめです! 放ってはおけません。看病させてください」


 マナの目は真剣だが、緋倉の傍にいさせるわけにはいかない。接触感染の危険があるならば、尚更だ。緋媛は兄とマナの間に入る。


「だめだ。部屋に戻ろう」


「どうして! あなたはお兄様が心配ではないのですか!?」


「姫さん」


 緋媛に言い寄ってくる姫を見た緋倉は、微笑みながら言った。


「緋媛の言う事に従って下さい。そいつの役目は姫さんを護ること。そのための判だ……ゲホッ! ゴホッ!」


 先程の咳より苦しそうにする緋倉。やはりマナは放ってはおけないようだ。


「でも――」


「いいから! ……出て行けよ」


 普段の緋倉は女性に向かって怒鳴る事はないのだが、怒鳴って睨む程余裕がなくなってきたらしい。いつもヘラッとしている緋倉とのギャップにも驚き、マナは何も言わなくなった。


「……行こう」


 部屋から出るとき緋倉は横になって寝始めた。マナは落ち込んで涙目になっていた。


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