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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
2章 滅びた種族

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12話 非公式の昼食

 マナ達がナン大陸行きの船に乗ってから、一週間後が経過した。


 釣った魚での料理は非常に美味しく、満足していた彼女だったが、旅を楽しもうにも、船旅に飽きている。この一週間、船内を見回り海を見て本を読んで食事をするのだから、いつも城で過ごしていた事が船に移っただけなのだ。


 違う点は緋倉もいるぐらいだ。彼は自由気ままに過ごしている。ふらっと部屋から出ると暫くしてから戻り、後は食べるか寝るかだ。緋媛はマナに、兄はユウみたいだと言っていた。


 そんな今日はカトレアの第三王子ネツキ・ウッド・カトレアと食事の約束をした日。マナと緋媛は部屋で待っている。緋倉はまた部屋から出て船の中でふらふらしているらしい。ノックの音が聞こえ、緋媛が扉を開けた。


「お待たせしました」


 隣のネツキ達の部屋に入ると、豪華な食事が五人分ある。緋媛が自分たちの分はいらないと言っていたのだが、準備していたらしい。


「身分は関係なくと言ったので、皆様の分もご用意しました。お連れの方はいらっしゃらないようですがね、残念です」


「申し訳ございません。一応声かけてみたんですが、王族同士の食事は息が詰まると断られました」


 正直に答える緋媛。緋倉はマナに頼まれてもその理由の他に、ゼネリアに悪いからと断ったのだ。マナは気不味さがあるが、ネツキは気にしない。


「そうですか、残念です。さ、俺の事は気軽にネツキと呼んで下さい。エルル、フードを外そうか」


 エルルはフードを両手で掴み、顔を見せたくないと深く被りながら首を横に振った。


「申し訳ない。慣れるまで時間が掛かりそうです」


「いえ、構いません。ネツキ様、いえ、ネツキ、私達の事もマナと緋媛とお呼びください。エルルさん、よろしくお願いします」


 マナが微笑んで声をかけると、ネツキの腕を掴んで更に隠れてしまった。



 食事が始まり、会話が弾んできたところ、緋媛とネツキの話し方が徐々に緩くなる。マナにとってはその方が楽しいらしいが、エルルはまだ慣れないようだ。


「なるほど、マナと緋媛は子供の頃からずっと一緒にいるのか」


「ええ、ですから誰よりも信頼できるのです。あなた方はどれぐらいですか?」


 ナイフとフォークに慣れないエルルは、なかなか切れない肉に苦戦している。


「三年ぐらいか。ただ、この話は内密にしてほしい。恥ずかしい話、身内に俺達の関係が知られてしまって、エルルの身に危険が及ぶ時がある。最近それが多くなって……」


「ネツキ様、お肉上手く切れない……」


 困ったエルルはフードを外してネツキにお願いをしながら、皿を差し出す。クリーム色の短い髪はふわふわしており、マナとは違う可愛さを出していた。ネツキは王族でありながらも、エルルの皿の肉を切り分けている。


「カトレアでは王子全員が一定の年齢になると王位継承と妃探しが始まる。国王が国王を育てるために。今、王位継承者争いの最中だな?」


 肉を切る手に力が入り、皿にナイフがカツンと当たる。


「……そうだ。兄二人が俺を落とすためにエルルにまで手を出そうとしている。彼女を兄上達の目から逸らすために国から連れ出したんだ。国王になる前に世界を見て回りたいのもそうだが、彼女を失いたくないからな」


 身分の違い、関係の壁は厚かった。マナは身分違いの恋を書物で読んだ時は憧れていたが、実際に当事者を目の前にする苦労しているのだと感じる。それも王位継承争いがあると、兄と弟の事が頭を過ぎった。


「兄上達は国を私物化するつもりだ。国民も気づいている」


「ネ、ネツキ様は本当に人気で、みんなが次期国王になって欲しいって言ってるんです。ですから、ネツキ様の為に私達の事は秘密にしてください。お願いします」


 勇気を出して言ったエルルは、服をぎゅっと握っている。


「分かりました、聞かなかったことにします。いいですね、緋媛」


 心を打たれたマナの決断に頷く緋媛。ネツキ感謝の意を示し一口紅茶を飲むと、一息ついた。


「さて、そろそろ本題に入りましょう」


 その瞬間、空気が変わった。身分など関係なく、と言っても王族の威厳は隠し切れない。


「マナはこの世界をどう思う?」


「どうと言いますと?」


「おかしいと思わないか? この世界で生きながら、この世界の歴史を知ることを許されない。特にこの約二百年の事に踏み込むことは禁忌とされている。ダリス、レイトーマ、我が国カトレアはそうしてしまった」


 ここにも歴史を知りたい者がいた。マナにとって喜びしかない。ネツキの話を真剣に聞く。


「何故? 俺はこう思うんだ、龍族の滅亡が関わっているからではないかと。何故龍族は急激に減少した、何故一人の龍族は同族殺しをした! 種族が一つ無くなっているんだ、ならば俺達人間もいつか滅んでもおかしくない。そうならないためにも、歴史の真実を知るべきなんだ」


「……私も同じです。ずっと同じことを考えていました。私たちの国も古くからあります。国の歴史は知ることが出来ても、世界の歴史を知ってはいけない。子供の頃からずっとそう教えられてきました。今思えばおかしいですね」


 緋媛にとっておかしいと思うのは、今何か起きそうな空気が出ている事。窓に視線を移す。


「子供の頃か。何故知ってはいけないか、お父様に聞いたことがある。そしたらこう言われたよ。この世界を知るという事は、世界の理を知ることだと」


「世界の理?」


 その時、船が大きく揺れた。テーブルの上にる紅茶のカップが落ちて割れ、床が汚れてしまう。エルルはネツキにしっかり抱き、マナはテーブルを掴んでいる。緋媛は腕組みをして冷静に言った。


「落ち着いたみてーだな。でかい波があったんだろ。姫、怪我は?」


「ありません」


 椅子から立ち上がった緋媛は、しゃがんで割れたカップを手に取った。


「これは俺が片付ける」


「見に行かないのですか?」


 いつもの緋媛ならば何かあったらすぐ様子を見に行くのだが、この時は違う。これまでの兄の様子を考えると、緋倉が関わっていると予測していた。


「俺が離れたら誰があんたらを護るんだよ」


 彼は部屋の中に居ながら、何かを警戒している。マナ達は何が起こっているのか検討もつかなかった。



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