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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
10.5 史実

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3話 原因は誰か

 それから暫くの間、ルティスとフォルトアは緋紙と薬華の手伝いをしたりイゼルの屋敷を掃除したりしながら、自由を満喫していた。この日は薬華の手伝いをしている。

 遊ぶように言われたものの、遊ぶことを知らない事もあり、掃除をするしかなかった。大きな違いは褒められて美味しいご飯を食べられる事。何より名前で呼んでくれる事だ。その名前の名付け親達は、一週間近く里から離れており、ようやく戻ってきた。ーー緋倉に抱かれて。ぐったりとしている。

 そっとベットに下ろした緋倉は、そのまま離れようとしない。ルティスとフォルトアが駆けつけて顔をじっと見つめると、青ざめている。


「何があったの?」


「ゼネリアさま、死なないよね?」


「……いい事をして、ちょっと疲れただけだよ」


 離席していた薬華が戻ってくると、緋倉にイゼルの屋敷に行くように話していた。ルティスの耳には掠れて聞こえ、聞き取れた単語は「ダリスが」「あと一週間程度」だった。

 ゼネリアの頭を撫でて「すぐ戻る」と言った時の彼の表情は、すこし険しかった。何かあったのだろうと察したが、今は恩人の一人である彼女を元気にしたい、そんな思いしかなかった。そんなルティスとフォルトがやった事は、冷たいタオルを額に乗せる事だった。熱が出ているわけではないが、幼い子供が考えた事だと薬華も黙って見守っていたのだ。


 やがて目を覚ましたゼネリアは、ゆっくり体を起こすとそのタオルを不思議そうな目で見た。


「よかった、ゼネリアさまが元気になった」


 ほっとして安堵の言葉を述べたフォルトアを横目で見る。無表情で全く感情が読み取れず、少しだけ不気味に思ってしまった。ベッドから降り、そのまま診療所の外へ向かい始めた。薬華が休むように言っても聞く事はない。

 顔を見合わせた子供達は何となくゼネリアの後を追った。どこへ行くのだろう。イゼルの屋敷とは反対方向に向かっている。やがて着いた場所は大きな畑だった。土に埋もれている野菜がいくつかあるようで、作業をしている大人と遊んでいる子供がいる。

 その畑をぐるっと見渡すと再び歩み出したのだが、ルティスとフォルトアは信じられない事を目撃した。

 ゼネリアに向かって、横から子供に土や石が投げつけられたのだ。周りの大人はそれを止める事もなく、恩人の彼女は何事もないように歩いている。

 走り出したルティスとフォルトアは、石を投げようとした子供達の前に立った。


「何やってんだ、やめろ! 同じ種族だろ!」


「そうだよ、人間と同じ事を何でするの?」


 ぴたりと腕を止めた子供は言った。ーー化け物退治だと。


「みんな言ってるよ。あれは魔族の血を引いた化け物だって。あんな恐ろしいのが里に居座っているのに、イゼルさまも追い出さない。だから退治しなきゃいけないんだ」


「ほら、一緒に化け物退治しよう」


 そう言って平然と石を手渡す龍族の子がの方が化け物に見えた。驚いた事に、受け取った石を真っ先にその子供に投げたのはフォルトアだった。


「僕たちを助けてくれたゼネリアさまを、化け物扱いするな!」


 声を荒げたフォルトアを見るのは初めてだった。そして水の玉を作ってその子供達に投げる光景も。

 慌てた大人達は我が子を守ろうと間に入り、ゼネリアは水の玉を投げたり水を頭からかけたりしているフォルトアの手を取って止めた。


「ゼネリアさま……」


 じろりと親子を睨みつけたゼネリアに萎縮すると、畑の道具や収穫していた野菜を放置して逃げるようにさっていった。


「ゼネリアさま、大丈夫?」


 頭からつま先までじっと眺めるゼネリアに、ルティスは聞いてみた。


「何であんな事されて黙ってるんだよ。何でやり返さないの? 怒らないの?」


 すぐに答える事はない。ぐっと言葉を飲み込んこむと、ようやく口にした言葉に耳を疑った。


「……事実だ。だからお前達も私に関わるな。その呼び方も認めないし、近寄るのもだめだ」


 ほんの少し、苦しそうな表情で向けられた背中が寂しそうに見えた。哀れに思えたのだろう、彼女の背を追おうとすると「着いてくるな」と絞り出すような声を出した。


 ***


「後から聞いた話だと、あの方は、この時期にエルフとドワーフと妖精を神殿に移住させていたんすよ。緋倉様と共に。記憶を消すなんて事もなかったし、もっと多くの異種族を救っていて、血筋はどうあれ感謝していた連中が多くいた。本心は分からねえけど」


 湯気が立つハーブティーを一口飲み、息をついたルティス。ホク大陸で幼いルティス達を救う場にいた緋刃が呑気に口を開く。


「すげえ変わってんじゃん、過去。それって俺と父さんがこの時代のダリスにいたせいだよね。姉さんが単身で乗り込んだなら俺が余計な事言ったし、実際に父さんが……助けようとした姉さんの邪魔をしたし」


 ぐっと唇を噛み締めた緋刃。マナはつぶやいた。


「どうして司はそんな事……」


「その前に、俺たちの時代の司様がこの時代にいるって事は、ケリン・アグザートもいるって事っすよね。姫様が意図せずこの時代に飛ばしたって聞いてますよ」


 じっとマナに注目が行く。しかしマナはその事を話そうとしても話せない。口を開けようとしても思うように声を出せないのだ。何かに縛られるように、その理由はが話せない。


「……親父が姫を連れてダリスに攫った時、明らかに操られていだけど、他にも何かの暗示が掛けられてやがるのか」


 舌打ちをする緋媛の言葉から、マナは首から離れないロケットに視線を落とした。手に取ったそのロケットはやはり開きそうもない。


「それ、ずっと取れねえな。何をしても姫の肌から離れねえ」


「ん〜? それ、司様が持ってたやつじゃねえか」


 ルティスの話では、時々この中身を見ていた時があったのだという。いつから身につけていたから覚えていないが、常に首に下げていたのだという。


「もしかしてそれが原因だったりして。壊しちゃおうよ」


「いけません。大切なものかも知れませんし、何か理由があるのでしょう」


「だとしても気に入らねえ。何で俺の姫に首輪みたいなもん付けやがったんだよ。クソ親父が」


 その発言に引くように青ざめたルティスと緋刃。緋媛は二人の反応が何故そうなるか分からない様子だ。


「おい、こいつ発情期過ぎたら態度ひっくり返したぞ。分からなくもねえが……、あんだけ本能と戦ってたのによ。人前で俺の姫とか言ってたか?」


「ないない。気持ち悪い程変わったから俺もびっくりしてるんだよ。ルティス兄さんとここまでじゃなかったでしょ?」


 小声で話しているものの、マナと緋媛の耳には丸聞こえだ。確かにマナも緋媛の変化には驚いたが、言われるだけでも満たされる。心臓が煩くなったところで、話題が引き戻された。


「とにかくだ、俺たちの時代の司様とケリンがいるなら、未来を知っててこの時代のケリンに話したから過去が変わったって事だ。司様は俺たちの弱みも知ってるしよ。ダリスが攻めてくる事は変わらずとも、緋倉様がゼネリア様を連れて里を出て行ったら里の守りはイゼル様と司様だけだ」


「俺たちもいるじゃん。媛兄とルティス兄さん強いんだし」


「あのな、この時代に俺たちはいねえんだ。俺なんてまだ生意気なガキだしよ。戦力が足りなさすぎる」


「未来の扉も開かず現代に帰れず、過去が変わってしまった。私たちの時代は一体どうなってしまうのでしょう」


 不安という言葉ともやもやした気持ちが心に残る。もしも変わった過去で緋媛が存在しなければ彼を忘れてーーいや、出会った事実も無くなるだろう。


(何も出来ない私に出来る事はあるのでしょうか)





10.5はここまでです

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