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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
10章 変わりゆく歴史

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11話 甘えて甘えさせて

甘々緋倉のすりすり回……って感じです。

 流れるように腕から指先を伝うと、指と指が絡められる。緋倉は細い指を自らの指でさすりながら頬擦りをした。


「よかった……」


 安堵するその声に心臓が高鳴りそうになるゼネリア。ーーが、抑えなくては。離れなくては。


 ぎゅっと抱きしめ続けながら緋倉は壁を背にするとその場に座り込み、ゆっくりと腹部を撫で回す。


「腹の傷はもう平気なの? ……ん、治ってそうだな」


 ほんの少しでも離れよう抵抗すると、その度に抱きしめる力が強くなる。彼の体はひんやりとし、小刻みに震えていた。寒空の中、どれだけ長くいたのだろう。いくら丈夫な龍族でも、体を壊してしまう。


(私のせいだ)


 震えが止まった緋倉は「ゼネリア」と甘美な口付けを右手に落とすと、耳、頸、首筋にも落としていった。

 そして絡めていた指を解くと、ゆるやかに頭を撫でた。ーーその瞳を赤くしながら。


(暗示が半分解けてる。あの人間が上手くやったのか。信じられねえ。……ただ、やっぱりユキネの言葉が深く刺さってやがる。慎重に抜いてやらねえと)


 彼女の左肩にとんと顎を乗せ、まだ抜けたそうとする度にぎゅっと力を入れる。逃すものか。


「離せ」

「嫌だ」

「離して」

「俺のこと、嫌いになった?」

「……」


 ーーだって私は、気持ち悪い異界の化け物だから。消えなくては。


 頭を撫で続ける度に流れてくる、自己否定の言葉。すぐには抜けない。少しずつ時間をかけるしかない。

 ところがその言葉の裏に別の言葉が隠れていた。


 ーー好きだから、大好きだから一緒に居られない。緋倉まで周りから変な目で見られる。そんなの嫌だ。


 なんだ、そんな可愛い理由だったのか。理性がはち切れそうだ。

 これからたっぷりと、嫌というほどの愛情を、二度と離れたくないと口にするまで存分に注いてやる。


「ゼネ、ずっと側にいて」


 迷っている。感情と血と理性で揺れている。どの答えも出ないって分かる。お前の考えてることも、反応も全てお見通しだ。


「俺の可愛いゼネ。堪らないほどに愛してる。だから、一緒に暮らそう」


 ほら、振り向いた。ほんのり桃色に頬を染めて嬉しそうにして。それもどうせほんの一瞬だ。ーーほらね、また気持ちを止める。

 そろそろ正面から顔を見たくなった緋倉は、体をふわりと持ち上げると跨がせるように彼女を膝に置いた。


「誰もいないところで、誰にも見つからない場所に家を建てるんだ。小さな畑も作って育てて、いつかお前と家族を作って一緒に生きていこう」


「里は?」


「捨てるよ。お前を傷つける連中なんて、どうでもいい」


「それは駄目だ」と視線を逸らして首を横に振った。


「止めたって、俺にはもう捨てる覚悟がーー」


 気づいた時には遅かった。ゼネリアの瞳が銀色になっている。


「お前にそれは出来ない。だってお前は司の息子だから。里を捨てても緋紙のとこも里のことも心配する。守り続けてきた龍の里を、お前の本心は簡単には捨てられな……げほ!」


 口を覆って咳き込んだと思いきや、他の臭いがした。吐血したようだ。瞳の色が元の灰色に戻っていく。


「俺の未来を見て、教えたのか」


 吐血はその代償だろう。以前聞いた事がある。人柱は自らが知る過去と未来を安易に教えてはならず、教えたり変えたら相応の代償を払う必要があると。


「なんでそんな事しやがった!」 


「十分だから。その気持ちだけでいい」


「頼むゼネリア」


 緋倉はゼネリアの左のこめかみから頬にかけて掌を滑らせると、自らの唇に引き寄せる。触れる直前で止めて心からの叫びを甘く口にした。


「俺の側にいて。消えないで。可愛くって愛しくてたまんないのに、お前がいないなんて耐えられない。そんな事言わないで、お前の側に居させてよ」


 硬くなった彼女の唇にほんの少し触れる。

 なぞる様にそれを舌先で舐めて、油断したところで侵入する。腰と、頭を押さえて逃げない様にしてじっくり好き勝手するとーーほら、全身蕩けてしまった。

 この隙に暗示を探るが、手強い。まだ気持ち悪い異界の化け物だと思っている。


(ここまでだな)


「ひぐら、いき……」


 加減し忘れた緋倉はゆっくり唇を離すと微笑む。

 再びぎゅっと抱きしめながら頭を撫でると「ゆっくり休んでな」と呼吸すら忘れて赤くなっていた彼女を眠りにつかせた。


(これ以上は俺の理性が抑えられなくなるし、何よりゼネの脳の負荷が大きい)


 よく耐えた、と自分自身に言いながら腕の中ですやすや眠る彼女を抱き上げた。

 二人の世界に入っていたがために気づかなかった周りの音。息を荒くする狼の声が聞こえている。

 顔を向けると、大きめの岩に向かって腰を振る二匹がいた。


「お前ら発情期? なんか、邪魔して悪い……」


 自身も獣である以上、目の前の処理を見るのは複雑極まりなく、さっと顔を逸らす。


『もう、ご主人さま達がといちゃいちゃするから、お兄ちゃん達が我慢出来なくなったのよ』


『きっと消化不良のご主人さま達の代わりに発散してるのさ。暖かく無視するよ』


 狼の親子がそんな会話をしているとは知らない緋倉には、ガウガウ、ガウガウとしか聞こえない。

 起きていれば何を話しているか分かるが、今は疲れた体と脳を休ませるのが先決だ。

 緋媛との合流先はエルフの里。


(そういやあいつ、エルフの里に行ったことあんのか?)


 緋倉の予想通り、エルフの里に入った事がない緋媛は、里の入り口で首を傾げていた。







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