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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
2章 滅びた種族

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6話 勘のいい男、ユウ・レンダラー

旧サブタイ「勘のいい男」

 私室に戻ったマナは、窓際の椅子に座って頭を押さえていた。


(前にも誰かに襲われた気がする……。でも思い出せない。思い出そうとすると頭が痛くなる。あの時かしら。城から抜け出して江月へ行った時のあの二週間に関係しているの?)


 マナの頭に靄がかかり、全く思い出せない。嫌なものを見たような気がするが、頭痛が邪魔をする。

 その様子を、勝手にマナのベッドで寝転びながら本を読んでいるユウが、横目でチラリと見ていた。


「姫様~。平気~?」


 と声を掛けるが、他人事のようだ。ユウなりにマナの心配をしているが、堂々と表に心配しているという表情や行動を示さない。

 ()()()()()()の事を考えなければ頭痛はなくなるので、マナはユウに心配をかけまいと別の事を考える事にした。


「ええ、ご心配おかけしました。……ところでユウ、私のベッドで何をしているのです?」


「つい気持ちよくって。だって王族のベッドと俺達兵士のベッド、扱いが違うんですよ~。

 ま、当然なんですけどね~。しっかしふっかふかで気持ちいい~」


 確かに王族のベッドは最高級の特注品であり、マットレスは翌日疲れが残らない物、布団は暖かくふわふわとした軽い素材を使用している。

 対して料理長やレイトーマ師団長、議会を天辺に、以下の者は質が下がった素材の物を使用しているのだが、それでもユウは良い素材のベッドを使っているはずだ。

 そう考えると、王族と一騎士団長ではベッド一つでも雲泥の差があるのだろう。

 たまにはいいだろう、と考えるマナは、ユウににこっとほほ笑みながら言った。


「お兄様やマトでしたら、きっと怒るどころでは済まないでしょうに。皆には内緒ですよ」


「さっすが姫様。海より広いお心のお方~」


「その変わりユウ、私の話し相手になってくれませんか?」


 これにユウは心の底から嫌だという表情をしたが、すぐに諦めた。何故なら国の姫君の頼みだから。


「え~! まあいいベッド勝手に借りてるし、いいですよ~」


 ベッドでころんころんと体を倒しているユウを見て、マナはふっと笑う。余程気持ちがよく、ベッドが気に入ったようだと見ていて面白いのだ。

 ――マナの質問攻めが始まった。


「先ほどバルコニーで襲ってきた方、一体何者だったのでしょう」


「さー、誰でしょうね~。俺、さっきから姫様と一緒にいるから、まだ情報入ってきてね~んですよ~」


 確かにそうだと、知らぬ事を問うた事に恥ずかしくなったマナ。

 では次に、本日の事で気になった事を質問する。


「本日のあの場には師団長全員がいるはずなのですが、シドロの姿が見えなかったのです。病気か何かでしょうか……」


「え、姫様聞いてないんですか? あの野郎、国外追放で済むはずだったのに、反撃しようとして緋媛に処刑されたんですよ~」


「処、処刑!? どうして……!」


 さらっと答えるユウにも度肝を抜かされるが、それ以上に緋媛が処刑したという事に驚きを隠せないマナ。

 ユウは処刑されて当然の事をしたと言うものの、何をしたかまでは口を固く閉ざして言わない。

 それは国王殺しの事実を伝えるとマナが悲しむという理由ではなく、説明するのが面倒くさいからという、あくまで自己中心的な考えによるものである。


 だが、動揺しているマナを見て、口にしてはいけなかったらしいと反省する。


「姫様姫様、もっと別の話題にしましょう! そんな青ざめた顔してたら緋媛の野郎も心配しますって。それに折角の可愛いお顔が台無しですよ~」


 喜んでいいのか悲しんでいいのか、複雑な感情が湧き上がるマナ。

 だが、珍しくユウが彼女を気に掛けているので、シドロの事は今は何も言わないでおく事にしたのだった。


「そうですね。では、ユウにとって、他の師団長はどのように映りますか?」


「え~? 俺に聞くんですか~? 後で緋媛に聞けばいいんじゃないですか、めんどくせ」


 ユウとマナがまともに話をするのは今回が初めての為、興味があった。

 普段、たまに見かけても挨拶程度しかないユウ。

 彼が何を考えているのか、人をどういう目で見ているのを知りたいマナなのである。


「そう言わずに、教えて欲しいのです」


「ん~、そーですねー……。アックスは筋肉バカだし、カレンはうるせ~し、緋媛は――」


 緋媛の名前を出した途端、ベッドで横になっていた体を起こすユウ。

 頭を掻きながらほんの少し悩むと、ずっと思っていた疑問を吐露した。


「……緋媛って、何者なんですかね」


「? 私の護衛ですよ」


「いや、そうじゃなくて、やけに人間離れしてるんですよ」


 先程までダラダラしていたユウは、戦闘訓練の時の緋媛の行動を思い出しながら真面目に言う。


「レイトーマ師団は全員、常に訓練をしています。血反吐を吐く奴だっている。でもあいつは、どんなに走っても組手しても、剣で対峙しても、汗一つかかねーんです。他の連中とは全然違う、化け物みたいな体力持ってんですよ」


 戦闘訓練はアックスが考えている。それは主に筋肉トレーニングが中心。

 だがそれでは実戦で使えないと、緋媛が手を加えているのだ。

 あらゆる状況を想定し、走りながら組手をさせたり、訓練中に襲撃をしたりと、師団員は一時も気が抜けない。たった一日だけでもストレスが溜まるような訓練。

 逆に同じ事を、仕返しを兼ねて緋媛に行うと、涼しい顔をして十人でも二十人でも相手をするという。


 これをマナに伝えたユウは、「人間じゃねえって思いません?」と疑いの眼をする。


「緋媛にとって大した事ないのかと思いますけど……」


「ま、媛様にこんな事言ってもピンとこないですよね~。ずーっとこの部屋に籠ってますからね~」


 ころっとだらけた態度に戻ったユウの皮肉にマナは反論したくなるが、事実なので言い返す事など出来ない。

 そして今度はユウが話題を振った。


「で、何で緋媛が相手なんですか~?」


「か、彼に、言われたんです。……俺のとこに来いって」


 赤くなって照れながら、恥ずかしいと顔を両手で隠すマナ。

 緋媛がそんな事を言ったのかと疑うユウは、彼女の妄想ではないかと白い目で見る。だが、妄想ではなさそうだ。


「ふーん。でもさー」


 緋媛が人間ではない根拠は他にもある。

 五メートルはあるだろうか。レイトーマ城の高い塀を一飛びで飛び越えた所を、ユウはたまたま見た事があるのだ。

 それは彼が人間ではない事を示すと同時に、ある可能性を持っていた。


「あいつ、きっと龍族ですよ。いいんですか~? 同族を滅ぼした一人でも」


 彼の発言に、マナは目を見開いた。



 ***



 その頃、緋媛はマトの私室である話をしていた。


「姉上を攫って何をするのか、結局ダリスの目的は分からぬままか。だがダリスが姉上を狙う以上、何処にいても同じ……か」


「この国は平和ボケしてるからな。ダリスが姫を目的に軍事行動を起こしたら、あっという間に負けるのが目に見えてる。道中、襲われる可能性もあるけど」


 彼女をいつ江月に送るべきか、その時期を検討していた。

 今ならば緋倉もいる為、すぐにでも旅立てるという。

 方法は船。江月に着くまで、自分達の正体は秘密にしておきたいのだ。


「わかった。少々強引だが、三日後に旅立て。姉上には俺から言っておく」


「三日か。丁度いい。俺も兄貴にやってもらう事がある」


 そういえば兄に呼び出されていた事を思い出した緋媛。

 彼はこの夜城を抜け出し、ある事を依頼したのだった。

 勘のいいユウの一言でマナの心が揺れているとも知らずに。




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