表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
10章 変わりゆく歴史

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

214/240

4話 狼と青年

 この少し前、マナと薬華が道中ですれ違った。状況を聞いて、ユキネが一人ならば早めに行こうと足早に歩いたが、ふと思う。


(龍族の方が診療所にいらしたら、どのようにすればいいのかしら)


 人間の怪我の治療すらしたことなく、むしろされた事もない。ユキネなら何か知っているかもしれないから、聞きながら対応してみようと決めたのだった。


 そして診療所に着いて入口の扉を開けたのだがーー


「あああああああああ!」


 同時に聞こえた悲鳴。何があったのかと声の方向へ走ると、ユキネがまず目の前に入った。


「今の悲鳴、何があったのです」


 次に視界に入ったのは、耳を塞いでいるゼネリア。ガタガタと震えて息が乱れている。


「どうしました!?」


「違う、嫌、嫌だ」


 様子が尋常ではないというのに、ユキネは落ち着いていた。おかしいと思いつつ、マナはゼネリアの手を握った。


「大丈夫です。落ち着いてください」


 緋倉はどこか見渡すとぐっすりベッドで眠っている。声をかけようとした瞬間、目の前の景色が変わった。

 以前、同じような経験がある。ゼネリアの瞬間移動。


「え? どこ」


 周りは森の中で、雪が少し積もり小雨が降っている。

 少なくとも荒れた土地のミッテ大陸ではない事は確かだ。

 ゼネリアはマナの手を振り払い、耳を塞いで横たわっている。

 ちょうど視界の中に洞窟のようなものが見えた。息が白く凍えそうだ。小雨が降っているから、雨宿りしなくては。


「ゼネリア、あの中に入りましょう」


 動く気配がないが、腕が緩んだ。このままでは風邪をひいてしまう。

 体力のないマナは、彼女を背負うとよたよたと洞窟の中へ入った。

 そっと下ろして膝枕をすると、再びぐっすりと眠っている。


(力を使って疲れたんだわ)


 一体何があったのか、ここはどこなのか、考える事は山ほどある。今はこの寒さをしのぐ方法を考えなくてはならない。

 昔本で読んだことがある。眠っている時が最も体温が低くなると。


(少しだけでも温まるといいけど)


 眠っているゼネリアの腕と背中を擦りながら、周りを見てみる。枯れた枝が、ほんの少しパラパラ落ちているだけだった。


 ーーパキッ


 後の方向を向くと、動物の唸り声が聞こえてきた。徐々に見えてきた姿は狼。三匹が涎をだらだらと流してこちらを見据えている。


(もしかして私達を食べようとしているの!?)


 動けないマナ達に飛びかかって来た。


「いやあああああ!!」


 だが、降り立った狼達はくんくんとゼネリアの匂いを嗅ぐと、すっと暖めるように囲んで座った。


(何が起きたの?)


 更に奥からずしんずしんという音が聞こえてくる。一際大きい狼が近づいてくる。今度こそ食べられると覚悟したが、マナの背中と壁の間にずいっと入って座った。


「暖かい。暖めてくれるの?」


 狼の体温が天然の布団に感じられる。マナは再びゼネリアの腕と背中を摩り始めた。


 やがて日が落ちてきて夕焼けが見えてきた頃だった。

 洞窟の中に耳の長い青年が顔を見せた。ぱたっと目が合うマナと青年。


「な、誰だ!」


 青年は弓を構えた。


「お前達、なんで人間と遊んでいる。離れないか! ん? その娘……」


 今度は弓を下ろす。

 会話する間もない速さで、マナは呆然とするしかなかった。

 青年は洞窟に入ると、腰にぶら下げていた肉を置きながら問う。


「なぜ人間が、それもこんな寒い中素足でいるんだ」


「……分かりません。この子の能力です」


「その娘はその狼達の主人だ。ここにいてもおかしくない」


「主人?」


 だから襲わず懐いていたのかと納得したマナ。そしてあの耳の特徴も見覚えがある。彼はエルフ族だ。

 青年はマナとゼネリアの様子を眺め見ると、ふう、と息を吐いた。


「訳があるのようだ。里に案内しよう。少しの間辛抱してくれ」


 十分ぐらい歩いた頃、見覚えのある木々で作られた柵が見えてきた。しかし、以前いた見張りがおらず、柵は所々壊されている。

 畑も大木の上の家も荒らされていた。


 やがて着いた、奥の屋敷は族長モリー・モギーの屋敷。中に入るとまず案内された部屋で待つように言われた。

 真ん中にある炭に火をつけ、暖を取る。ゼネリアはそこに寝かされた。


 青年は桶の中に入れた湯を持ってくると、マナに足を付けるように言う。ヒリヒリ痛む感覚がある。


「あの、こちらは確かモリー・モギー様の」


 と、言いかけた所で、本人が足を引き摺るようにやってきた。


「戻ったか、可愛いひ孫よ」


 ひ孫。全く違和感がなかった。年齢は分からないが、ひ孫がいてもおかしくないのだから。


「ひいばあさん。この人間、狼の主人と知り合いらしいから連れてきた。凍傷しかけてる」


「んー、どれどれ。これなら湯に浸けておけばよいわい。何回か取り替えてやるとええ」


 覚えているだろうか。ドキドキと緊張しながらマナは聞いてみた。


「あの、エルフ族の族長モリー・モギー様。ご無沙汰しております。私を覚えてらっしゃいますか?」


「おーおーおー。覚えて、おぼ……ぶしっ!!」


 激しいくしゃみと共に出た入れ歯と唾がマナの額を直撃した。痛みで頭を抑え、唾は顔中に掛かっている。


「おおええおうお。おっおっおっ」


 何を言っているのか分からない。

 マナは青年に暖かい濡れタオルを渡されて、丁寧に顔を拭く。


 入れ歯を付けたモリーは「もちろん覚えておる。未来の娘よ」とにやりと笑みを浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ