番外編5-3 緋倉とゼネリア〜宿泊先〜
大人のお城の話です。苦手な人はリターンを。
日が落ちてきて冷え込んできた頃、俺たちは宿屋を転々としていた。満室、満室、満室。どこも空いていない。
下手に安いところにゼネを泊めたくないし、高すぎるところは落ち着かない。さてどうしたものか。
「緋倉、眠れるならどこでもいい。あっちに行ってみよう」
広い通りにはないから路地裏から探すことにしたが、宿が密集している所は一人用しか空いていない。
却下だ。同室じゃねえと色々と心配だ。時々うなされているから、側にいてやりたい。
「向こうにも宿屋があるようだ。行ってみよう」
少し歩くと宿屋にしては人通りが少ない場所に着いた。外に時間と料金が書かれている。
休憩と宿泊? 休むだけでも金を取るのかよ。寝るだけだし、安いようだし、空いていたらここでもいいか。
「入ってみるか。二人部屋があるといいな」
入ってみると、受付らしい所に見えるのは人間の手と口元だけ。通路と部屋と厠しかない。泊まりたいお伝えると、金額と鍵を渡された。支払いは先払いだが、変な違和感を感じる。
「三一二か。向こうだな」
階段を登っていると、途中で変な声が聞こえてきた。龍族は耳も人間よりいいから、離れたところやある程度密閉された声も多少は聞こえる。
人間の雌の欲情した声じゃねえか! まさかここ、親父が話していた愛を育む場所か!? 人間にはそういう場所があるって話だけは聞いたけど、その後母さんが親父を地面に埋めて仕置きしてた覚えがある。しまった、金を払った以上は出られねえ。
ゼネは……何でこの声聞いて平然としていられるんだ!? とりあえず部屋に入ろう、話はそれからだ。
「緋倉、顔色悪いけどどうした?」
部屋に入って開口一番がそれか。
「お前、さっき廊下で聞こえた声、何か分かるか?」
「人間の雌か? なんか甲高い変な声していたが、それがどうした。……随分と大きいベッドだな」
気づいてねえ! 口付けの事も分かってねえから無知なだけなんだろうが。
何も気づかずベッドに腰掛けてやがる。
「ここは二人で一つのベッドに寝ろってことなんだろ。それより風呂……、ああ、沸かすから先に入れよ。疲れただろ」
風呂は一人二人で入れるものか。そういえば時々親父が母さんと一緒に風呂に入りたがっていたな。毎度断られていただけど。
ん? ゼネが風呂を覗きにきた。どうしたんだ、手を出して。って、おい、こいつ術を使って自分で湯を入れたぞ。
「こっちの方が早い。温度は丁度いいと思うけど、どうだ?」
「うん、いいな。これお前どうやってんだよ」
「どうって……何となく。できると思って、やってみたら出来た」
理屈より感覚か。ぽんぽんなんの術も使えるし、やっぱり天才なんだな。血筋の関係か才能かは知らねえけど。
ゼネが風呂に入っている間、俺は頭を抱えていた。
いわゆる人間が子作りをする専門の場所と知らずに入った事で、この事態をどうしようか考えているだけで落ち着かない。この辺の知識は全くないはずだから、普通に一緒に寝ればいいだけのはず。
「緋倉、風呂入って」
「ああ……うん」
風呂上がりのいい匂いがする。抱きしめたいけどそれどころじゃなない。とにかくまず風呂に入ろう。
入りながら考えてみた。あいつ、この様子だとこの宿がどういうとこか気づかないはず。何もそういう行為をしないといけない訳じゃねえんだ。平常心平常心。
風呂から上がったらガウンを着ているゼネがベッドの上でとんでもないことをしていた。
「……何やってんだ」
「風船かと思って膨らましてみたんだが、変な形になるんだ。先っぽがどうしても膨らまない。変わった風船だと思わないか?」
あ、うん、はい。突っ込みどころが分からねえ。
無邪気に笑う表情が可愛いのはそうだが、それよりそれはアレなんだな、人間の。親父に見せてもらったことがある。
「あのな、ゼネ。それ風船じゃねえんだ」
「違うのか。じゃあこれなんだ? あと二つあるけど」
知らずに話しているゼネに教えてやりたい気が沸いてきた。
「知りたい?」
いつもの風呂上がりはとは違うように見えるのは、この宿のせいだろう。唇も肌も艶やかだ。誘われている気がする。発情期でもないのに欲しくなる。いや、他の連中に手出しされないようにしなくては。
……なんだこの感覚。まあいい、ベットに腰掛けて説明する事にした。
「そもそもこの宿は、人間が子作りする宿なんだ。正確に言えば子作りの行為をする場所だな」
「へえ。人間じゃないから、ここが子作りする宿でも異種族には関係ないだろう」
「人間も動物も俺たち異種族も、子作り方法は同じだ。無関係じゃねえよ」
「なら、緋倉も私もみんな同じように作られたんだな」
作られたってまるで作業のように言って、萎えるだろ。
「不思議なものだ。私は半分異界の血だから、世界も種族も関係なく生き物は共通しているんだろう。……迷惑な話だ」
まるで存在しなかったらいいと言いたそうに眉間に皺を寄せて、複雑な表情をしている。
肩に腕を回して抱き寄せた。風呂上がりのいい匂いが鼻腔をくすぐる。
「お前がそう思っていても、俺は感謝してる。そうじゃなきゃお前に出会えなかったから。なあ、ゼネ」
思わず押し倒すと同時に口付けた。何が起こったか分からないようで目を見開いている。
「昼間言ってたな。唇をくっつける行為が分からないって。その答えがこれだよ」
がっちがちに固まっている彼女の耳元に唇を近づけて、軽く唇で耳を噛んでやった。
「ひ、緋倉っ……」
「大丈夫、俺に任せて。力を抜いて身を委ねればいい。何も考えられないぐらい、俺だけで満たしてやる」
それからの事は本能のままにゼネを欲していた。
求め求め合う事に脳を揺らし、互いの汗と体液が混ざり合って多幸感と高揚感と本能が入り混じっていたんだ。堪らないほどに甘すぎる一時だと。
そうして疲れ果てて眠りにつくと朝になっていたのだが、腕の中で寝ていたはずのゼネはいなかった。





