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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
9章 襲撃
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10話 ルティスとフォルトア~黄色い液体〜

 2時間後、雪はまだまだ振っていた。

 寒空の下ではしゃぐ男女の子供たちは、もこもこと暖かな衣類に包まれて雪をせっせと集めている。

 対してふるふると体を震わせて白いジュータンに降り立った二体の龍族。雪だるまにされるのだが、体を転がすのか雪をぶつけられるのか、どちらにしても寒いことには変わりないだろう。

 だが一号は笑いをこらえている。


「あいつら、上手そうに食ってたな」


「う、うん。でもバレたら……」


 心配する二号に一号は真顔になり、雪で遊んでいる子供たちをじっと見ながら言う。


「いたぶられるか食われるかのどっちかだ。俺だけがやった事だからお前は大丈夫」


「僕は一号に傷ついてほしくないし、それに僕もしちゃった。仕返し」


 手に吐息を駆けながら嬉しそうに言う二号。


「え? なに入れたんだよ」


 驚いた一号の問いに二号が答える間もなく、雪玉が両者にぶつけられた。


「おい、家畜同士何話してんだよ」


「早く横になりなさいよ。雪だるま作れないでしょ」


 再びぶつけられる雪玉は、子供たちだけではなく大人のメイドのぶつけていた。

 子供に命令されたか自主的に投げているかは分からないが、一号は歯を食いしばって耐えている。

 二号は大人しく雪の上に横になった。


「そうそう、そうやって大人しくしていればいいの。……そーれ」


 子供二人がかりで二号を転がしていき、徐々に雪に埋まってゆく。

 自分だけでは助けられないと、一号は拳を握り締めながら睨んでいた。

 そのうち子供だけでは雪玉にすることが出来ず、大人の手を借りるようになると――


(あ、あいつ)


 メイドたちだけではなく、かばっていた執事長も手を出していた。

 一号の目には子供と一緒に心から楽しんでいるように見え、先ほどまで庇っていた人間には見えない。

 まるで歪んだ人間のような目をしている。


(だから人間は信用できないんだ。分かっただろ? 二号……)


 心が痛む一号は、いつの間にかポロリと涙を流していた。それに驚いた一号は、片手で涙を拭う。

 やがて出来上がった雪だるまは、二号の顔だけを出して真ん丸になっていた。


「いい出来ね、お兄様」


「さ、次は一号で作ろう」


 踵を返したとき、二号はくすくすと笑う。その声に足を止めた子供たちは笑い声に不快感を示す。


「何笑ってるのかしら。気持ち悪い」


「――気づいてないんだね」


 ――嫌な予感がする。

 一号は、冷えた視線で口角をあげて口を開く二号に対し、背筋が凍るような気がした。


「朝ごはん。美味しかったんだよね? なにが入っているかも知らずに」


「何? 何入れたの?」


 青ざめる女の子に二号はゆっくり口を開いた。


「爪の垢と、黄色い液体」


 それが何か悟った時、子供たちは口を覆い吐き気を催すと雪の上に膝をついた。


「お兄様、もしかして黄色いのって……う、うええええ!」


「お嬢様! 早く中へ」


「お、お前なんてものを……おええええ!」


「お坊ちゃま、失礼します」


 二人を抱きかかえた執事長とメイドは茫然と立っている一号を横切って屋敷へと急いだ。

 はっと気づいた一号は二号の元へ駆けつけ、雪から掘り起こそうと素手で雪をむしっている。


「二号、もう少しで出せるから」


「見た? 一号。あいつらの顔。黄色い液体って言っただけなのに吐いちゃったよ」


 くすくす笑う二号に一号はあきれ果てた。


「爪の垢はともかく、それっておしっこだろ? いつの間に出したんだよ」


「違うよ」


 きょとんとしている二号は薄くなった雪から腕を出して自分の雪を払っていく。払いながら答えを言った。


「いつも料理長が飲んでいる栄養ドリンク。あれ黄色いでしょ? 間違ってないよ。えへへ、一号も騙された」


 にっこり笑っている二号。単なるいたずらでよかったと安堵した一号と共に残りの雪も体から剥いでいく。ぱたぱたほろっていた小さい手が赤くなり感覚がなく、麻痺している。


「これじゃあったい水、出せないや」


「今頃あいつらの面倒見てるはずだし、見つからないうちにこっそり風呂入ろう」


 下着姿の一号と二号は雪を踏みしめて屋敷の中に入る。

 すぐに目の前に人影が見え、上を向くとそこには怒りに満ちた屋敷の主とその夫人が立っていた。

 どうやら営業ドリンクを排泄物と勘違いした子供たちが親に話したようだ。


「二号、貴様人間の食事に何を入れたって? ふざけるな!!」


 怒声が響くと兵士が二号を殴り、庇おうとした一号を蹴った。飛ばされた一号は屋敷の壁に激突する。

 殴り、蹴られ続けている二号は人型を保てなくなり徐々に角が生え、体が龍の姿に変化していく。


「うっ、二号……」


 背中を打ち付けた一号は這うように一号へ手を伸ばす。届かない手の先に見えたのは腕と体から剥がされる、透き通る水色の鱗。

 気づいたら、二号の悲鳴が聞こえていた。肉を削がれるよりも悲痛な声が響き渡る。


(動け、動けよ体!)


 一枚、また一枚剥がされる度に響き渡る苦痛が耳に突き刺さっても、体が動かない。震える一号は声を振り絞った。


「誰か、二号を助けて……!」


 瞬間、天井が大きな音を立てて崩れた。入口より奥の部屋が貫通し、降り立った影はゆらりと立ち上がる。灰色の髪に鋭い眼光、ぽたぽたと体中から流れ落ちる血は床を突き破り若芽が生えてきた。誰、一号はぽつりとつぶやいた。




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