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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
9章 襲撃
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8話 ルティスとフォルトア~吹雪~

 上陸時に姿を隠すには丁度いい大吹雪。

 雲の上で飛んでいた黒に近い灰色の龍が人間の女性の姿になり、ふわりと地面へ降り立った。


(ここがホク大陸。……寒い)


 ぶるっと震えた彼女の後ろでどすんという音が二つ聞こえた。

 着地の時にぶつかったようで、薄い紫の髪の男が緋色の髪の男の下敷きになっている。

 ぱっと退けた緋色の髪の主が手を差し伸ばした。


「ありがとう、倉兄。怪我ない?」


「ねえけどさ、俺あんたの兄貴じゃないって。俺より年上なのに緋媛も緋刃もずっと俺のこと兄貴兄貴って、おかしいだろ」


「いいんだよ、俺達にとっては兄さんなんだから」


 歯を出して笑う緋刃と頭をがりがりかく緋倉を見、ゼネリアは小さく肩を落とした。


「あ。ほらあそこ。洞穴があるから行こう。雨宿りじゃなくて雪宿り~」


 空を見る限りでは吹雪は当分収まりそうにない。緋刃の提案通り洞穴の中に避難することにした。

 洞穴の中には小さな枝が散らばっている。それを風の術で集めて火を灯すと、パチパチという音と共に暖かさと光が広がった。

 寒いので掌を火の側に近づけ暖を取る緋刃は、目の前の光景に目が点になる。


「体冷えてんぞ。もっと密着しろよ」


「お前も冷えているんだから、私から離れて火の前に座ればいい」


「ゼネを暖める方が先」


 背後からすっぽり納めるようにゼネリアを抱く兄の緋倉と、それを嫌がる訳でもなくされるがままになっている彼女。

 おかしい、年明けから距離が近すぎる。それはゼネリアの匂いに緋倉の匂いが混じっている事が関係しているのだろうか。これを緋媛に聞いても誰も教えてくれない。緋刃がまだ子供だからという理由で。


(過去に来て十数年経つけど、倉兄を拒否しないゼネリア姉さんって慣れないや)


 じーっと見つめる緋刃の視線に気づいた緋倉は、「なんだよ」とぶっきらぼうに言う。

 ぷいっとそっぽを向く緋刃に緋倉は続けた。


「何で付いてきた」


「なんか企んでいるんじゃないかって気がしてさ、心配だったんだよ。まさかホク大陸まで来るなんて……。イゼル様に怒られるよ」


 首を傾げて眉を下げる緋刃に、緋倉は口角を上げる。


「俺はイゼル様の命令でゼネを追いかけただけ。連れ戻せって言われたけど、すぐに連れ戻せとは言われていないんだな、これが」


 あくまで命令には背いていないという緋倉は鼻高々にしている。ところが抱きしめられている張本人は考えが違うようだ。


「私からすれば、お前たち何故追ってきたと問いたい。緋刃、お前は私が何をするか知っているから来ているんだろう」


 じろっと睨むゼネリアに緋刃はきょとんと目を丸くし、「知らないよ」とあっさり答える。


「姉さんが昔何をしたかなんて、俺ほっとんど聞いてないんだ。だから知らない」


「何言ってんだよ。昔って、あんた俺達がこんな小さい時から知ってるだろ」


 緋倉の疑問に回答に困る緋刃。

 何故なら緋倉は緋刃と緋媛が未来から来ているという認識がない。大人はどうしても誤魔化せないので未来から来ている事だけの記憶は残しているが、幼かった緋倉には記憶を誤魔化さずとも良かった。その頃の事は憶えていないはずだから。

 上手く誤魔化せないだろう、そう判断したゼネリアは緋倉の意識の注意を向けた。


「緋倉、イゼルはなんて言って連れ戻せって?」


「ダリス城に乗り込もうとしてるって、だから連れ戻せってさ。お前、前に言ってたこと一人でやろうとしてんの?」


 ぎゅっと拳を握り締め舌打ちをするゼネリアの表情はどこか曇っている。

 何のことを言っているのだろう。緋刃は聞いてみた。


「前に言ってたことって何?」


 探るように彼の瞳の奥を見つめるゼネリアと緋倉。

 他意はなく単なる興味本位のように見える。単に聞きたかっただけなのだろう。


「どうするゼネ。話す?」


 緋倉の問いと同時に彼女の瞳が銀色に変化してゆく。視線の先は緋刃のみ。

 緋刃はじっとゼネリアの銀の瞳に見入っていた。それが彼を探るゼネリアにとって都合がよい。


(……司と緋紙が鍛えただけの事はある。未来が見えない。これなら話しても問題なさそうだが、何故か嫌な予感がする。未来から来ている緋媛と緋刃、未来の人柱、開かない扉――)


「ゼネ? どうした、緋刃の未来見て」


 緋倉の声にはっと気づき、髪の色と同じ灰色の瞳に戻った。

 見つめられていた緋刃はぎらぎらを瞳を輝かせて笑う。


「どんな未来が見えたの? もしかして媛兄を叩きのめすとこ? それとも発情期の相手?」


「……見たものは答えない。話してはいけない。たったそれだけで進むべき未来が変わる。話す事すらも未来への介入。それをするには代償を払わなければならない。お前は私に何の代償を払えと?」


 緋倉の腕の中で、灰色の髪が徐々に黒くなっていく。これは怒りを表している。

 背筋に悪寒が走った緋刃は首を横に振った。


「じょ、冗談だよ! そんな代償なんて……」


「代償があるのは事実だ」


「まさか、代償を払ったことあるの?」


 驚いて問いを投げかけた緋刃にゼネリアを見せまいと、緋倉はくるっと背を向けた。


「緋刃、てめえ俺のゼネを困らせるんじゃねえよ」


 緋倉の腕に触れたゼネリアの瞳は銀色に染まっている。


(そうだ。私はこれから代償を払う。だからおかしい。何故ケリン・アグザートは未来へ介入しながらも生きているのか。まさかこれもたぐらの仕業だというのか。あの時未来の人柱を返せなかったのも……)


 見やった外の吹雪は止むことがなく、パチパチと燃える炎の音と混じって洞窟の中に響き渡る。

 緋倉の体に身を預けたゼネリアは、雪が止むまで眠ることにした。


 その頃、とある屋敷の屋根裏で、黄緑と水色の髪の少年たちがすり寄っていた。


「吹雪だから寒いね。ここ何もないから」


「くそっ、あの人間共。ぬっくぬくの暖炉の前にいやがって。くしゅんっ!」


「大丈夫? この前の流れ星に、吹雪やめてってお願いすればよかったかなぁ」


「叶わないものを願うだけ無駄無駄。それよりもっとくっついて寝よう。朝起きたらすぐ暖炉の火を灯せって言うからさ、ちょっとだけでも暖まろうぜ」


 互いの手足を擦って暖めあいながら、少年たちは時間をかけて眠りについた。




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