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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
9章 襲撃
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7話 ルティスとフォルトア~一号と二号~

残虐な描写があります。苦手な方はリターンしてください。

 ルティスとフォルトアは三~四歳だった頃、角と瞳だけが元の姿のまま不完全な人型を会得してしまった。そんな彼らは出生も知らずに奴隷として売りに出されたという。


「水色と黄緑の髪と瞳、このセットで欲しい人は500万グルトから!」


 檻に入れられ、出られたと思うと首輪をつけられて真っ黒な会場に見世物のように出された。

 最終的な金額は覚えてはいないが、丸々と太った人間が買い取ったのだった。

 連れていかれた先は屋敷。どうやら貴族のようだ。水色と黄緑の髪の子供の龍族はここで暮らせるのかとほんの少しの期待が湧いたが、それもすぐに砕かれる。早速首輪を嵌められた。


「お前らはこれから私たちに尽くすんだ。身も心もすべて」


「パパ、こいつら何?」


「わあ、すっごい色の髪。気持ち悪~い」


 人間の男女の子供が髪を引っ張って観察している。年齢は首輪をかけられた子供たちと同じぐらい。

 黄緑色の髪の少年がじろりと睨むと、貴族の男は角を掴んだ。


「新しい奴隷でおもちゃだよ。こうやって遊ぶんだ」


 角が折れた鈍い音と痛みを感じ、激痛の悲鳴を上げる。見ていた水色の髪の少年が泣き出すと殴られた。


「これと鱗は高く売れるんだ。角も鱗もまた生えるから、うっかり殺さないようにしようね」


「龍族血肉は万病の薬なんでしょう? もっと使い道はありそうね」


「パパ、ママ、こいつらの名前は何?」


「名前? そんなものはいらないよ。一号と二号で十分。ペットじゃなくて奴隷だからね」


 それから一号と呼ばれる黄緑色の髪の少年と二号の水色の髪の少年は、朝昼晩、当たり前のように屋敷中の掃除と洗濯をし、少しでもミスをすれば鞭で罰を与えられ、家の子供の遊び等、あらゆる道具としても扱われた。


「一号、二号、ここ汚れてる。奴隷なら奴隷らしく隅々まで磨き続けなさい」


 文字通りの隅々。角のほんの少しの埃されも取れという。埃がほんの少しでもあると許されない。


「家庭教師が厳しくてムカつく。おい二号、こっち来て背中出せよ」


 子供が苛立つと恰好の捌け口となり、気が済むまで鞭打ちをされた。


 それだけではない。傷が治れば腕だけ龍の姿に戻すよう言い鱗を剥がされ、角が生えれば折られ、血肉は食材として扱われるため、体のどこかが斬り落とされる――そんな生活が当たり前だった。

 部屋という部屋はなく、屋敷の天井裏で暮らしていた。食事は一日一食、パンとスープしか出ないので残飯をくすねてはこっそり食べる日々。


「見ろよ二号、あいつら鹿肉食べなかったんだ。今日は御馳走だな」


「あの子嫌いだもんね、鹿肉。でもよく持ってこれたね」


「みんな腹いっぱいで捨ててたんだ。食おう、バレないように今すぐ」


 風呂は三日に一度、シャワーだけが許された。湯は使わず、冷たい水で。


「二号、水出せる? 体拭こう」


 二号はすでに水の術を出すだけなら使えたため、寒い冬でも冷たい水で体を拭いた。

 少しずつ温度の調整が出来るようにこっそり訓練した結果、やっと温かい水を出せるようになった。


「すげえ。俺はまだ何も術使えないや」


「大丈夫だよ、きっと一号もできるよ」


「絶対あいつらにはバレないようにしよう」


 三年後、一号と二号は六~七歳になった。今だ一号は術を使えない。

 この年、貴族の子供の誕生会があった。親は子供に問う。何が欲しいか、何を食べたいか。

 答えは残酷で、それも嬉しそうに言う。


「龍族の肉! 一号と二号のモモ肉がいいなー。生で食べてみたい」


「二号の頬肉が食べたい。欲しいのはおっきなぬいぐるみ」


 誕生会当日の朝、調理場で無慈悲に指定の肉を剥ぎ取られ、屋根裏で互いに声を掛け合う。


「二号、生きてる?」


 頬を削がれた二号は震えながら腕を伸ばすと、一号の掌に指をとんとんと乗せた。

 二号はしばらく痛みで喋る事すらできなかったが、泣いている事は分かった。涙にぬれる頬の肉に激痛が走りながらも耐える日々。

 そして出来ることは、互いの生死確認だけ。まともに動くことも出来ず、血で屋敷を汚すから傷が塞がるまで屋根裏にいるしかなかった。それでも情けなのか、一日一食だけは兵士が持ってきていた。


 更に二年が経過し、US2065年。一号二号共に八~九歳の頃。

 掃除で入る度に書庫の本をこっそり屋根裏に持ち出し、独学で勉強をしてた彼らは、龍の里の存在を知った。だが信じることはなかった。何故助けに来ないのか、そんなものは幻だと。

 流れ星にも願った。そんなものがあるならこの屋敷の連中を皆殺しにしてくれと。二号に至っては名前が欲しいと。


「信じようよ。きっといつか助けに来てくれる」


「来ないよ、そんなもん。俺達異種族はきっと全員ダリスに捕まって、奴隷にされてるんだ」


「……僕達、二人でよかったね。もし一人だったら耐えられなくて死んでたかも」


「……うん」


 ***


 ここまで聞いたマナと緋紙は息が出来ない程にぼたぼたと涙を流していた。

 ルティスを毛嫌いしていた緋媛も言葉を失い、イゼル達も黙って話を聞いている。

 イゼルとマナは以前、フォルトアがエルフの里のモリー・モギーの前で名を強く言ったこと、取り乱していた事を思い出した。


「幼い頃は何と呼ばれておったか、名は違ったようじゃの。いや、名ではないか。お前は――」


「僕は!! 僕は、……フォルトア・ルフェンネンスです」


「違う、僕達は一号でも二号でもない、フォルトアだ。フォルトア・ルフェンネンスだ……!」


 あれは幼い頃の心の深い傷そのものだったのだ。

 ぎゅっとマナを抱きしめた緋媛は、彼女の肩をぽんぽんと叩く。司は緋紙の背をさすっていた。


「……緋倉様とゼネリア様に救われたのは、その後でした」


 丁度この頃、緋倉、ゼネリア、緋刃がホク大陸に到着した頃であった。



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