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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
9章 襲撃

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3話 US2065年

 マナが以前過去へ行った年代はUS2051年。それから14年は経過している。龍の里へ向かっている道中、たった十年そこそこで緑が奪われている事に衝撃を受けた。緋媛曰く、これでも大分抵抗したという。

 そんな話をしている道中、里の龍族がマナを見るなり「に、人間!?」と悲鳴に近い声を荒げた。なぜ緋媛が人間の女を連れているのか、捕虜にしたのか、害はないのか等、様々な憶測と動揺の言葉が飛び交う。

 おかしい、とマナは思った。


「緋媛、私が以前この時代に来たこと、みなさんお忘れなのでしょうか」


「十年以上経ってるからな。ああそうだ、あの後親父がその記憶を消してまわってたんだよ。チビのゼネリアが瞳を銀にして、未来に悪影響だからって言ってな。俺と緋刃だけは元々未来から来てるから免れたけど、親父と俺たちしかあんたのこと覚えてねえんだ」


 イゼルにまた一から説明しなくてはと、面倒くさそうにため息をついた緋媛。

 ルティスはというと周りをきょろきょろと見渡し、落ち着かない。まるで何かを探しているようだ。


「ルティス? どうしましたか」


「いえ……」


「あまり顔色が良くないようですが……」


 マナの心配を他所に、ルティスは無言になる。

 探していた視線の先は子供達。違う、と思うと次の子供へと視線を移す。


(いない。ゼネリア様のあの言い方、やっぱこれからか。来たらどういう顔して会えばいいんだ?)


 ふう、とため息をつくルティス。

 ふと気づくと、マナの息が上がっている。里の外れから不安な地面をずっと歩いているのだから、脚が疲れたのだろう。


(気づいてんのか? この野郎。てめえの番が疲れてるってのに)


「緋媛、お屋敷はもう少しですよね」


 息が上がり、頬が赤くなって汗を滲ませているマナを見た緋媛は「もう少し」と答えるだけだった。

 彼女の返答は明日笑みを浮かべて頷き、また歩み続ける。


(あいつの性格上、抱き上げるなんてしねえんだろう)


 それがこの二人の関係ならばと、心の中がモヤモヤしつつもルティスは黙っていた。

 それでよよく見ると、薄い炎の膜で体を包んでいる。外の寒さで風邪を引かないように配慮したんだろう。


 イゼルの屋敷が見えた頃、屋敷の前でうろうろしている影が見えた。黒にやや緋色が混ざっている髪を肩付近で二つに結っている女性だ。マナたちの方に気づく。


「あっ、緋媛。緋倉見なかった?」


「いや。あっちにゼネリアがいたけどよ、一緒じゃなかったぜ」


 その言葉に安堵しつつも、ふるふると首を横に振る。


「じゃあまだ里にいるのね。間に合うかなぁ〜。ううん、もう落ち合って行ってるかも……」


「何かあったのか」


「それがね……。あら? あなた人間……と、見たことない方ね、どなた?」


 女性は首を傾げながらマナ達に問う。


「マナ・フール・レイトーマと申します」


 深々と挨拶をするマナの性に女性は驚きながら、また首を傾げる。US2065年のレイトーマには女性王族はいない。なのに何故レイトーマを名乗っているのだろうと。


「ユキネ、イゼル様は中にいるか。姫とふざけた頭の野郎の説明としないといけねえ」


「なーにがふざけた頭だ! ちょっと見ねえ間に随分態度がでかくなったもんだな」


 カチンと苛立つルティスは、腕組みをしながら片眉を上げて挑発するように言う。


「あれから十数年経ってんだよ。その分年相応になってきただろうが」


「はっ! たった十数年。まだまだ俺やフォルトアより下じゃねえか」


「あっという間に追い抜くはずだったんだよ! てめえじゃなくてフォルトアさんの顔見たかったぜ。くそっ」


 おろおろするユキネと、また始まったと苦笑いを浮かべるマナ。

 ふん、と鼻を鳴らしたルティスは真顔になると、緋媛を通り越してイゼルの屋敷の中は向かう。


「そうかそうか。あいつの面拝みたいか。それならもうすぐ会えるだろうよ。ただ、お前の知ってるフォルトアじゃねえ」


「は? どういう事だ」


「今日か明日だ、きっと。今にわかる」


 緋媛とルティスの口喧嘩が始まると、大体粘っこく長続きする。

 だがこの時はすっとルティスから引いていった。様子がいつもと違うことに緋媛も違和感を感じ、調子が狂うと呟いた。


「ユキネ、茶入れて持ってきてくれ。あとあの野郎、ああ見えて結構な甘党だから菓子も用意してやって」


「はぁーい」


 マナにとって意外な光景であった。

 互いに嫌悪している相手だというのに、好みがわかっているのだから。


「何で目ぇ丸くしてんだ?」


「いえ、ルティスのこと理解しているのですね」


「したくもねえよ。いいからイゼル様のとこに行くぞ」


 屋敷の中を歩きながらふと外を見る。

 晴れてはいない。曇っている。もともと曇りなのかイゼルの機嫌が良くないのか、マナにはまだ分からなかった。

 答えは直ぐに出た。部屋に入るなり、ひどく長く大きいため息がイゼルの口から漏れていたのだから。


「あの、イゼル様?」


「ああ、緋媛か」とどこか心がないようだ。


「何かあったのですか」


「ゼネリアがダリスに乗り込むと言って聞かなくてな、緋倉に追って貰っているのだが……よく考えたら連れ戻すはずがないから後悔してるんだ」


 ふう、と再び息を吐くと、ようやくマナとルティスに気づく。


「なぜ人間が? いや、その娘はお前の相手か。彼は同族だな。誰だ」


 緋媛は未来のこと、10年前の経緯から話し始めた。

 ダリスの皇帝となったケリン・アグザードを追って過去は来たが年代が違ったこと。

 US2065年にその男と司、もう一人の人間がいること。

 マナが未来の人柱である事とその影響から現代へ帰るとこになったこと。

 未来への扉が開く事を拒否したことも……。


「それで記憶を消したと。納得した。ならば司に記憶を戻してもらわなくては。しかし扉が拒絶したとは……その件は後にしよう。俺が気になるのはーー」


 じっとルティスを見るイゼルに、彼は答えた。


「ルティス・バローネっす」


「まだ若いな。歳は」


「正確には覚えてません。ただ、この時代の俺は幼いもので……」


「この里でもナン大陸でも、お前の面影の同族は見たことがない。どこにいる?」


「……ダリスです」


 マナとイゼルはもちろん、緋媛も言葉を失って目を見開いた。


「ゼネリア様と緋倉様は、今ダリスへ向かっています。間違いなく」


「すまない、頭の整理が追いつかなくてな。ルティスと言ったな、君がダリスにいる事とゼネリアと関係があると」


 情報を整理しようと眉間に皺を寄せるイゼルの元に、廊下から足音が聞こえてくる。

 襖を勢いよく開けたと思えば、彼と瓜二つの青年が焦ったような表情で立っていた。

 同時にガチャンと何かが割れる音がすると、割った主とイゼルが口を開く。


「ゼン」


「おにい……!」


イゼルの息子であり、ユキネの父親違いの兄であるゼン・メガルタが現れたのだ。


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