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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
9章 襲撃

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2話 再会

 扉に吸い込まれたマナは、共に吸い込まれたルティスの腕の中にすっぽりと収まっていた。

 地面に尻を付いていた彼の膝の上にいたマナは汚れる事もなかったが、腕の中だと気づくとすぐに立ち上がる。


「す、すみません」


「いえ。それよりお怪我は?」


「ありません。ルティス、貴方は……」


 言いかけてはっと気づいたマナはぐるりと辺りを見渡した。

 木々が倒されたり枯れたり、焼かれた後があり一面が茶色になっている。離れたところには木があるが枯れていた。

 ひゅうと風が吹くと寒さが突き刺さる。今は冬なのだろう。

 ところが目に入った足元には様々な色の花がいくつか咲いていた。この場所だけ何故か春を感じるように緑が残っている。

 尻の土を払って立ち上がったルティスは周囲に言葉を失い、目を見開いていた。

 ――その時、一点を突き刺すような殺気と共に何かがこちらに来る。ほんの一瞬の出来事に反応したルティスは、その何かを地面に叩き落した。びくっと肩を震わせるマナ。


「氷の槍……。まさか!」


 ぽつりと呟いたルティスは槍が飛んできた方向に目を向けた。マナも追ってその視線の先を確認すると、追撃が二本、三本と飛んでくる。


「きゃああ!」


 舌打ちをしたルティスだが、頭を覆うマナの前に立つとそれをすべて撃ち落とす。

 狙いはマナらしい。こんな芸当を殺意を持って出来る者は一人しかいない。

 その一人は瞬く前にルティスの目の前へと距離を詰め――


「ゼネリア様っ……!」


 彼の頭を掴むと地面へ叩きつけた。流れるように瞬時に作った氷の槍を握りしめると、マナを目掛けて一直線に振り下ろした。

 ――が、何もない。恐る恐る目を開き、頭を上に向けると大きな背中が見えた。


「どけ。邪魔をするな」


 冷酷な言葉の後に、聞きたかった声が聞こえた。


「イゼル様にきつく言われてるだろ。人間を殺すなって」


 心臓が高鳴り、バクバクと音を立てる。マナは言葉を絞り出した。


「……緋媛?」


 氷の槍を剣で受け止めている緋媛はそれを押し返す。黒髪のゼネリアはその氷を割るように空気中に溶かした。

 くるっとマナに向き直った緋媛は「姫」とほほ笑みながら手を差し伸べる。

 その手を取ったマナは彼にぎゅっと抱きしめられた。


「ひ、緋媛!? あ、あの……」


 頬を桜色に染めたマナは言葉に詰まりながら抱きしめられるがまま、彼の腕の中に納まっている。


「この匂い、この抱き心地、本物の姫だ。ずっと、ずっと逢いたかった……!」


「私もです。緋媛、逢えて嬉しい」


 彼の後ろに腕を回したマナは顔を胸に埋め、ぎゅっと抱きしめた。

 地面にたたきつけられたルティスは起き上がるなり緋媛に嫌悪感満載の視線を向け、ゼネリアはそんな彼とマナを交互に見やると言う。


「帰れ!」


 緋媛とマナがその声を合図に体を離すと、ゼネリアの後ろに美しい装飾の扉が現れた。

 ――時空の扉だ。


「人柱が何故過去へ来た。黄緑の髪のお前も未来から来たのだろう。過去に存在するだけで罪だと分かっているくせに」


「私たちは扉に吸い込まれたのです!」


「そうっす! 俺たちがこの時代に来る意思はなかったんすよ、ゼネリア様!」


「何故私の名を知っている。それに様、だと? 反吐が出る!」


 憎悪と嫌悪感と怒り、それらをすべて向けられたルティスは拳を握りしめた。心が痛む。


「……扉を開いてやるから未来へ帰れ」


 くるっと扉へ向き直ったゼネリアは手を扉に当てるが、何も起こらない。

 開きもしなければ反応もない。苛立ちで眉間に皺を寄せると、扉を拳で叩いた。


「なんの真似だ……たぐらぁ!!」


 そしてその扉は周囲に溶けてゆく。

 マナはたぐらという言葉に覚えがあった。だが何で見たのか聞いたのかは思い出せない。

 苛立ちを隠せないゼネリアは、そのままマナ達を放置してすっと姿を消した。


 ほっと溜息を混ぜた緋媛は「今の話、どういう事だ」とマナに問う。


「私たちもよく分からないのです。それに扉の向こうは緑に囲まれた森に見えたのですが……」


 全く真逆の荒れ果てた土地。あの扉の向こうに見えた光景は錯覚だったのだろうかと疑ってしまう。


「吸い込まれたら、ルティスと共にこの地にいたのです」


 剣を鞘に収めながら、緋媛ばじろりとルティスを睨む。互いに悪態をつきながら舌打ちと毒を吐くように大きなため息をした。


「何でてめえが一緒なんだ。嫁とガキがいんだろうが」


「イゼル様の命令だったんだよ。色々あったしな。そうじゃなきゃ誰がてめえの匂いぷんぷんさせた人間と一緒にいるか」


(緋媛の匂い? ……そんなにするのかしら)


 マナは手の甲を嗅ぐがその匂いが分からない。


「それよりそこから離れろよ」と、ぐいっとマナを引き寄せた緋媛は、彼女を腕の中に収めた。


「ただでさえ年明けから機嫌の悪い奴が、さらに機嫌悪くなった原因がそれだ」


 緋媛の指差す先は、季節外れの地面に咲いた花々。

 彼はさらに続ける。


「あいつの両親がこの下で眠っている。……墓なんだよ」


 マナは夢で見た事と幼いゼネリアから聞いた事を思い出した。

 花と共に家があったはずだが跡形もない。まさか、とマナは動揺しながら緋媛に問う。


「ここにあった家は……」


「人間の手で焼かれた。ただ、花だけは燃えなかったんだ」


 森に放った炎は凄まじい勢いで燃え広がったという。妖精も動物たちも逃げ、それを追う人間と保護しようとする龍族。皆助かったものの、気づいたら飛んできた火の粉で朱色の炎に家と花が包まれていた。

 だが、炎の中でも花は生き生きしていたのだ。


「燃えない花……」


 御伽話で聞いたことのない話に、マナは信じられず呟いた。


「……おい、そういえば今はいつだ?」


 はっと気づいくルティスに、緋媛は「は?」と眉を寄せる。


「何年だって聞いてんだよ!」


「US2065年。それがどうした」


 目を見開いたルティスは言葉を失いながらも頭の中を整理しようとした。過去のこの年代を考えると、まずは彼自身とフォルトアの居場所、その後の事、様々な事が脳裏を過ぎる。確実に思ったことは一つだけある。


(この時代に飛ばされたのがフォルトアじゃなく俺で良かった)


 やや安堵したものの、まずはイゼルに報告をしなくてはならない。マナ達は龍の里へと向かった。



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