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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
8章 戦争の予兆
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番外編4 マナの成長①〜誕生〜

 生まれる。あと数日だろう。交代となる新たな世界の理が生まれる。

 そう直感が働いた私は、神殿にいる龍神と流王に会いに行った。泉のある部屋に入ると、ちょうど揃って下界を覗き込んでいる。何を見ている?


「レイトーマ王室か」


 王妃の腹が大きい。次の人柱はレイトーマの王子か王女のようだ。だがあの国は性格に王子に問題があったはず。


「あらゼネリア。あなたも気になるの? 男の子と女の子、どっちだと思う? 随分と大きいから双子かしら」


「さあ。人間は人間だ。性別なんてどうでもいい」


「もうっ、冷たいのね。子供が生まれるって大変なことなのよ。いつ見ても感動するの。緋媛と緋刃が生まれた時にそう思わなかった?」


 そういえば緋倉が喜んでいた。緋紙は辛そうにしていたし、イゼルと司も祝っていた気がする。

 緋紙の腹が大きい時に触らせてもらったけど、温かかった。


「感動はしてない。ただ、大きいのが腹に入っていたんだなって。よく分からなかった」


「そう。ならレイトーマ王室で子供の護衛をしながら面倒見てみればいいじゃない。どうせ誰か向かわせるんでしょ? ね、龍神様。いい考えだと思いませんこと?」


 この人間は同じ人柱だから私の過去が分からないのか。レイトーマで私が人間に何をされたのかも。


「悪くない。ゼネリア、お前の事は分かっている。だが前へ進まねばならない。人間の子供ならば良かろう。少しは人間を好ましく思えるようになるだろう」


「分かった上で言っているなら、それが私にとって拷問に等しいと知っているな。緋倉の側にも里にも居づらいからここに来ているというのに」


「その緋倉がまたお前を探してるようだ」


 泉の様子が変わり、私を探す緋倉の様子が映し出された。

 薬華に聞いては答えが得られぬと外に出たようだ。あいつは自分の視界に入るところに私が居ないと気が済まない。


「……新たな人柱の誕生と成長をその目で見れば何か変わるかもしれん。イゼルには私から伝えよう。これは決定事項だ」


 拒否権はないらしい。人間の巣窟へ行くなんて吐き気がする。

 里へ戻り、イゼルの屋敷へ行くと早々にレイトーマ城へ向かうよう命じられた。


「すまない。あの方直々のご命令だ」


 ついさっきの事だというのに。

 旅立つ前にしばらくいないって緋倉に伝えると、里の外の洞窟の中で半日は拘束された。こういう後は、薬華に薬を貰わないと。


 ***


 夜に旅立つと翌朝にはレイトーマ城に到着した。どういう訳か、国王自ら出迎えるとは。


「夢の中で直々に命じられたのだ。起きたらすぐに城門で護衛を迎えよと」


 神という名を与えられただけあって、何でも出来るのか。

 国王に案内され、王妃の寝室へ入ると人間数人が慌ただしくしている。


「陛下! 王妃様が破水されました」


「おお! ついに!」


 嬉しそうに王妃の手を握りに行った国王は、元気な子を産むように微笑んでいる。

 苦しそうな表情をしているな。緋紙も痛そうにしていたが、龍族も人間も変わらないのか?


「陛下、その女性は」


「例の護衛だ。私も立ち会うぞ。午後の公務は全て休む」


「ありがとうございます。私はハンナ・レイトーマです。あなたのお名前を聞かせて」


 汗まみれで辛そうだ。


「ゼネリア・アンバーソン」


 ばたばたと行ったり来たりしている城の女はお湯を運んだりタオルを持ってきたりと忙しい。王妃の汗を拭ったりしている。

 どれぐらいの時間が経っただろう。暫くすると頭が出てきたという声が聞こえてきた。

 医師が呼吸の合図をしたり、国王はずっと王妃の手を握ったり、私はただ見ているだけ。

 生まれたという声と同時に弱々しい産声が聞こえる。


「おめでとうございます。王女様でございます」


「もう一人おられるはずです」


 小さい。ちょっと触れたらすぐ殺してしまいそうなほど小さい。そしてあれが次の人柱か。

 その後の室内は騒然としていた。産まれてこなかったのだから。先に生まれた子の別の侍女がしながら、生まれてこないから母体が危ないと危機感を抱いている。


(そうか、命懸けなのか。緋倉との子が出来たら私も……。いや、それは駄目だ)


 喜びと悲しみが同時にある日になるとは思いもしなかった。

 後始末の後、部屋の中は光が差して明るいのに空気が重い。

 何も出来ない私は、部屋の壁に寄りかかっているしかなかった。


「王妃様……」


 医師がそっと人柱を抱かせるものの、王妃は涙を浮かべている。とても感動とは言えない。


「ごめんなさい。あなたの妹を産めなくて………。陛下、申し訳ございません」


「謝罪などいらぬ。今は心身ともに休めよ」


 沈んだ空気が流れる中、私はじっと生まれた子供と死んだ子供を見て気づいた。

 この人間、人柱としての能力が欠けている。死んだ子供が持っていたのか。神殿の二人も今頃気づいているだろう。



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