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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
8章 戦争の予兆
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18話 戦闘狂

 鍛錬場を出てうろうろと歩いているルティスは、客室の場所がわからずに迷子になっていた。

 城内に着いたものの、ここからどう行けばいいのか迷った結果、適当に彷徨いている事にした。


(そのうち着くだろ)


 あちこち歩いていると、見回りの隊士やメイド達とすれ違うのだが、決まってルティスの髪を見るのだ。


(暗示が解けかかっている以上、誰が来ても人間の世界でこの髪は目立つな。目立ちにくかったのはゼネリア様ぐらいか)


 上は下へと歩き回ると、何やらメイド三人が話をしている。


「姫様とご一緒にいらしたお客様、江月の方よね。あの閉鎖された国からよくいらしたわね」


「江月の方々は黄緑色の髪なのかな」


 聞くつもりはなかったルティスだが、つい廊下のに身を潜めた。


「緋媛元隊長は緋色でしょ。あんなに目立つのにどうして気づかなかったのかしら。まさか江月人だったりして」


 笑いながら言うメイドに、龍族だと心の中で呆れるルティス。江月人とは何だと人間の感覚を疑う。


「緋媛元隊長が江月人なら、江月の方々っていろんな髪の色なのかしら。よく分からないわね」


「一つだけわかる事あるじゃない。お客様も緋媛元隊長も、お顔立ちが整っていることよ!」


「わかるー!」


 壁に寄りかかっているルティスは、つい脱力してしまった。

 一に顔、二に体格、三に雰囲気がいいと言う。

 全くもって理解できないルティスは、これ以上は聞くだけ無駄だと小さく息を吐く。

 すると盛り上がっているメイド達に「あなた達!」と喝を入れる女性が現れた。


「げっ! メイド長」


「何をサボっているのです。まもなく医師が到着します。いらしたら医務室にご案内なさい」


「医務室ですか。お医者様がいらっしゃるほどの事があったのですか?」


「訓練中、レンダラー隊長の腕の骨が折れたと。お医者様を案内したら陛下と姫様、お客様のお食事のご用意を。そういう事ですから、呑気に話している暇はありませんよ」


 およそ四十代の夜会巻に髪を結っている女性は手を二回叩いて鳴らす。

 それを合図にパラパラと散ったメイド達を見送ったあと、ルティスはため息をつくメイド長に後ろから声を変えた。


「ご婦人。医務室までご案内いたたけるか」


 ふわりと微笑んで余所行きで丁寧に声をかけると、メイド長の頬が桜色に染まった。


「ご婦人?」


 見惚れていたルティスの声に気づくと「こちらへ」と道案内を始めた。


 丁度その頃、医務室にはマナがユウを訪ねていた。

 真っ赤に腫れ上がった腕は痛々しいのだが、ユウ自身はなんてことない表情をしている。


「痛みませんか?」


「そりゃ痛いですよ〜。ものすんごく」


 全く痛くなさそうに、他人事のようにさらりと話すユウ。


「お医者様を手配してもらいました。到着したら応急処置をしてもらいましょう」


「へ〜い。ところで姫様。さっきの目立つ髪の男、なんて言いましたっけ?」


「ルティスですが……」


 腕を折った彼を恨んでいるのだろうか。マナは恐る恐る名前を出すものの、ユウは嬉しそうな表情を浮かべている。


「そのルティスって人、異種族ですよね? 緋媛と同じ」


 唐突に言い出すユウの言葉に、マナは言葉を失った。肯定しては隠し続ける龍の里の意思に反する。わかっているものの、否定するしかない。

 この時、医務室の扉の前にルティスが到着した。


「……違います。異種族は、龍族はどこかにいるという一体だけしか存在しないと言われれいますし」


「姫様って、本当に分かりやすいですね。そんな風に視線を逸らすってことは、肯定していることと同義です」


 普段退屈そうに、つまらなさそうにしているユウだが、この時は真剣な眼差しを向けていた。

 ユウ勘が鋭いという話を方々から聞いていたマナの背筋が凍り付く。


「俺、ガキの頃から何となく分かっちゃうんですよ〜。最初は父親の不倫だったかな〜。下町にいた頃は裏でダリスと繋がっている警備兵がいたもんで、たまたま休暇で街をうろついていたツヅガの爺さんに話したり。だから今回も間違っていないと思うんです」


 そこへガチャリと音を立てててルティスが医務室へ入って来た。眉間に皺が寄っている。

 すぐに話を聞いていたのだと理解したユウの口角が上がった。


「だからさっき、俺が煽ったからカッとなったんだろ? あんたも、江月の連中も異種族だ」


「……だとしたら、お前はどうする」


 睨みつけるルティスと笑みを浮かべたままのユウを交互に見たマナは、わずかな汗を流す。

 一発触発しそうな緊張感が漂っているーーと思われた。


「どうもしね〜よ。あんたといい緋媛といい、強い奴がいるなら俺はそっちに行きたいんだよね〜。俺は強い奴と戦いたいだけなんだ〜。レイトーマは温くってつまんねえ。カトレアは華やか過ぎるし、ダリスは論外」


「戦闘狂か。残念ながら雑魚相手が仕事なんだよ。侵入者を防ぐのが目的だからな」


「雑魚ね〜。それでもあんた達と勝負できるんだろ〜。いいな〜」


「俺に腕を折られてもそう言えるのか」


「言えるさ。今までにない程興奮した〜。今思い出してもゾクゾクする。次は本気のあんたとやりたいな〜」


 恍惚として視線を天に泳がすユウ。

 あくまで戦うことしか考えていない彼にマナは苦笑いを浮かべ、ルティスは小さくため息をついた。

 すると扉のノック音が部屋に響く。医者が到着したらしい。


「腕の事はやり過ぎた。悪かったよ」


 踵を返したルティスは医者と入れ違うようにそのまま医務室を出て行き、マナはその後を追いかけた。出る間際、医者にユウの治療を頼んで。

 ルティスの背に追いついたマナは、彼に言われる。


「姫様、客室ってどこですか」


 広い城内で迷子になっていたのだった。




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