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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
8章 戦争の予兆
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15話 流れ星

 扉のノック音がすると「ルティス殿、アルバールです」と聞きなれた老兵の声がすると、がちゃりと扉が開く。


「入りますぞ。ここっ、これはワシの姫様!」


 ぱっと瞳を太陽のように輝かせて満面の笑みを浮かべたツヅガ。

 マナがにこっと微笑み返すととろけるような表情を浮かべた。

 入室時とマナを見つけた時の表情がまるで別人のようだと、多少驚くルティス。


「……姫様、この爺さんに好かれてるんすね」


「アルバール一族は男系ですから。ツヅガ、ルティスに用があるのでしょう?」


「おお、そうでした」


 ぱっと総師団長としての威厳のある表情に戻るツヅガは、簡潔に用件を述べる。


「陛下からの伝言でございます。イゼル殿への文を用意するので明日の夕方まで待ってほしいと」


「嫁と子供が待ってんのに……。マトの頼みなら仕方ねえか」


 深いため息をついたルティスは渋々了承し、マトに早めに用意して欲しいとツヅガに伝言を預けた。

 城内が静まり返る時間が近づいている。

 ツヅガはマナに寝室へ戻るよう促すと、彼女と共に客室から出て行った。

 残ったルティスはベッドに寝転ぶと窓の先を眺め、そのまま眠りについた。


 ***


 屋根裏の小窓から光が差し込む。その窓から夜空を眺めている水色の髪の少年は、キシキシと鳴らす木の音がすると後ろを振り向いた。

 屋根裏に入ってきたのは黄緑色の髪の少年。その少年の顔は赤く腫れあがっている。


『一号、大丈夫?』


『あのジジイ、てめえの隠し子がバレたからって俺に八つ当たりしやがって』


『ごめん。本当は僕がやられるはずだったのに』


『気にすんなよ。それより二号、水出せる? 少し冷やしたい』


『あっ、ごめん。……これでいいかな? 少しだけど……』


 小さい両手の中にわずかな水を生成した水色の髪の少年―二号―は、びちゃっと黄緑色の髪の少年―一号―の頬を濡らした。


『いてっ』


『ご、ごめん』瞳を潤ませる水色の髪の少年に、むすっとしながら『謝るなよ』と黄緑色の髪の少年が言う。

 冷えた水が心地よくなり、ふと窓の外を見るとすっと落ちていく星が視界に入った。


『流れ星だ』


『確か、願い事をすると叶うんだっけ。何をお願いしようかなぁ』


 ほほ笑む水色の髪の少年は、指を一つ、二つ、三つと折り曲げていく。


『人間の考えた勝手な嘘だろ』


『本当かもしれないよ。あっ、また流れた』


 必死にお願いをする水色の髪の少年の隣で、黄緑色の少年はぶっきら棒に窓に向かって話す。


『だったら叶えてくれよ。この屋敷の人間ぶっ殺してさ、龍の里ってとこに連れてってよ』


『……龍の里かぁ。本当にあるのかなぁ』


『あるわけねえだろ。あったら俺たちの事、とっくに見つけてくれるはずだって。それより二号は何をお願いしたんだよ』


『僕はね、僕たちに名前を下さいって』


 にっこり微笑む水色の髪の少年の言葉は自身だけの願いではない。

 悟った黄緑色の髪の少年は、どちらも現実的ではない願いだと考えていた。


『……ここにいる限り、絶対に叶わねえだろ』


『そっか。そうだよね。でも名前、欲しいなぁ……』


 ***


 ぱちっと目が覚めたルティスは、軋むベットから降りると窓から外を眺める。


(今日は星が一際輝いてみえる)


 散りばめる星空が明るく夜空を照らす。

 種族は違えど夜空も周りの景色も見るものは皆同じ。


(ユズの目が完全に見えるようになったら、フィリスも連れて流れ星でも待つか)


 星が落ちることは少ない。分かっていても一度ぐらいは家族で同じ夜空を見上げたい。

 頭の中その光景が浮かんだ時、すとんと落ちる一つの星。


「……今流れんなよ」


 小さく息を吐いたルティスは、再びベットに横になると眠りについた。

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