15話 流れ星
扉のノック音がすると「ルティス殿、アルバールです」と聞きなれた老兵の声がすると、がちゃりと扉が開く。
「入りますぞ。ここっ、これはワシの姫様!」
ぱっと瞳を太陽のように輝かせて満面の笑みを浮かべたツヅガ。
マナがにこっと微笑み返すととろけるような表情を浮かべた。
入室時とマナを見つけた時の表情がまるで別人のようだと、多少驚くルティス。
「……姫様、この爺さんに好かれてるんすね」
「アルバール一族は男系ですから。ツヅガ、ルティスに用があるのでしょう?」
「おお、そうでした」
ぱっと総師団長としての威厳のある表情に戻るツヅガは、簡潔に用件を述べる。
「陛下からの伝言でございます。イゼル殿への文を用意するので明日の夕方まで待ってほしいと」
「嫁と子供が待ってんのに……。マトの頼みなら仕方ねえか」
深いため息をついたルティスは渋々了承し、マトに早めに用意して欲しいとツヅガに伝言を預けた。
城内が静まり返る時間が近づいている。
ツヅガはマナに寝室へ戻るよう促すと、彼女と共に客室から出て行った。
残ったルティスはベッドに寝転ぶと窓の先を眺め、そのまま眠りについた。
***
屋根裏の小窓から光が差し込む。その窓から夜空を眺めている水色の髪の少年は、キシキシと鳴らす木の音がすると後ろを振り向いた。
屋根裏に入ってきたのは黄緑色の髪の少年。その少年の顔は赤く腫れあがっている。
『一号、大丈夫?』
『あのジジイ、てめえの隠し子がバレたからって俺に八つ当たりしやがって』
『ごめん。本当は僕がやられるはずだったのに』
『気にすんなよ。それより二号、水出せる? 少し冷やしたい』
『あっ、ごめん。……これでいいかな? 少しだけど……』
小さい両手の中にわずかな水を生成した水色の髪の少年―二号―は、びちゃっと黄緑色の髪の少年―一号―の頬を濡らした。
『いてっ』
『ご、ごめん』瞳を潤ませる水色の髪の少年に、むすっとしながら『謝るなよ』と黄緑色の髪の少年が言う。
冷えた水が心地よくなり、ふと窓の外を見るとすっと落ちていく星が視界に入った。
『流れ星だ』
『確か、願い事をすると叶うんだっけ。何をお願いしようかなぁ』
ほほ笑む水色の髪の少年は、指を一つ、二つ、三つと折り曲げていく。
『人間の考えた勝手な嘘だろ』
『本当かもしれないよ。あっ、また流れた』
必死にお願いをする水色の髪の少年の隣で、黄緑色の少年はぶっきら棒に窓に向かって話す。
『だったら叶えてくれよ。この屋敷の人間ぶっ殺してさ、龍の里ってとこに連れてってよ』
『……龍の里かぁ。本当にあるのかなぁ』
『あるわけねえだろ。あったら俺たちの事、とっくに見つけてくれるはずだって。それより二号は何をお願いしたんだよ』
『僕はね、僕たちに名前を下さいって』
にっこり微笑む水色の髪の少年の言葉は自身だけの願いではない。
悟った黄緑色の髪の少年は、どちらも現実的ではない願いだと考えていた。
『……ここにいる限り、絶対に叶わねえだろ』
『そっか。そうだよね。でも名前、欲しいなぁ……』
***
ぱちっと目が覚めたルティスは、軋むベットから降りると窓から外を眺める。
(今日は星が一際輝いてみえる)
散りばめる星空が明るく夜空を照らす。
種族は違えど夜空も周りの景色も見るものは皆同じ。
(ユズの目が完全に見えるようになったら、フィリスも連れて流れ星でも待つか)
星が落ちることは少ない。分かっていても一度ぐらいは家族で同じ夜空を見上げたい。
頭の中その光景が浮かんだ時、すとんと落ちる一つの星。
「……今流れんなよ」
小さく息を吐いたルティスは、再びベットに横になると眠りについた。