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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
8章 戦争の予兆
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13話 進軍中〜必要なこと〜

 扉の前の見張り二人がコロットに挨拶をする。

 構わず中に入った彼は扉を閉じた。

 唇に人差し指を置き、目の前にいる十数名に黙るよう指示すると、前列にいる片脚のない女性の前に膝をつく。


「どこへ向かっているの?」と女性が小声で問う。


「ナン大陸づら。龍の里を襲うために」


「私たちは何のために連れて行くことになってるの? まさか人間の盾になれと? 司がそんな計画立てるとは思えないけど」


「ボスはイゼル様の牽制のために連れて行くように、レーラとアレクに暗示をかけたづら。あの方は同族に手を出さないと言うから……」


「そう。ならそれはーー」


 ひそひそと話し合う二人の耳に、扉の外から喧嘩している声が聞こえる。

 女性と男性が言い合っているのだ。

 舌打ちをするコロットは片脚のない女性に向かって手を上げた。


 ガチャリと音がすると同時に、壁から鈍い音が聞こえる。

 後の先には片脚のない女性が壁からずり落ちるように倒れ、そこへ向かってコロットが歩み寄るとーー


「家畜の分際で身の程知らずづら」


 髪を引っ張って顔を上に向かせた。頬が腫れ上がっている。


「何よ、その家畜が何かしたの?」


 中に入ってきたレーラが問う。アレクも一緒だ。


「許可してもいないのに口を開こうとしたづら。目も生意気づら」


 片足のない女性はじろりとコロットを睨みつける。

 その突き刺さるような眼差しを見たアレクは、こめかみをピクリと動かす。


「ほーんと生意気な目。アタシ達を今すぐ殺してやるって顔してるわぁ。……食料の分際で!!」


 女性の腹部に強く握った拳を入れたアレク。

 同室内にいた数名が「紙音様!」と悲鳴を上げた。


「ちょっとアレク」とレーラが声をかける。


「クレアだってば!」


「はいはい。雌の個体は妊娠しているかもしれないから、腹はやめておきな。悪趣味な貴族共の玩具でもあるんだらか」


 そうだった、と冷ややかな視線を紙音に向けると、アレクはぐるっと周りを見渡した。

 室内には大人の男女はもちろん、幼い子供が数名いる。怯える子供を見つけると、彼はその子の前にしゃがみ込んだ。にっこりと笑みを浮かべながら言う。


「そういえば、子供の鱗って透き通ってて綺麗なのよね。穢れの知らない柔らかい鱗。肉も美味しいのよ。……ねえレーラ、ココット、お腹空いてない?」


 目をつけられた子供は絶望の表情を浮かべ、アレクの口元の涎を見つめている。

 立ち上がった紙音はその子供の元へ駆けつけるとぎゅっと抱きしめ、アレクを睨みつけた。


「あたし子供好きなのよ。遠慮しとくわ」とレーラは深いため息をつく。


「そもそもしばらくは獲ってきた熊肉で過ごすづら。それにこいつらはその為に連れてきた訳じゃないづら」


 コロットの言葉に小さく「それもそうね」と言うアレクだが、紙音の強くにらむ眼差しが気に入らない。


「ねえ、こいつらを盾にするんでしょう? 緋倉も緋媛も手を出せないものね。あのイゼルだって」


「ボスの話では主にイゼル対策づら。同族が近くにいるだけで手を出さない、出せないとか」


「……この生意気な女を見せしめにしましょうよ。徹底的にボロボロにして、それをイゼルの前に出すの!」


 レーラは面白そうだとくすりと笑みを浮かべ、アレクの提案に賛同した。

 コロットと紙音は眼を見開く。青ざめた表情の紙音の足元に小さな風を見たコロットは、彼女の考えを察した。


「あんたにしてはいい提案するわね。船旅の退屈しのぎにもなりそう。隣の部屋に縛り付けておく?」


 賛同したアレクはレーラと共に紙音を連れ出そうと彼女の髪を掴んだ。

 子供を抱きしめた手が緩む。周りから「紙音様!」という苦痛な声色が飛び交う。


「うるさいづら! 食べられたくなければ大人しくするづら」


 コロットの怒声で静まり返った室内には、紙音を引きずる音とどうやってボロボロにするか楽しそうに話すレーラとアレクの声が響くと、まもなく室内を出て行った。

 後からコロットも室外へ出ると、隣の部屋から痛みに耐える紙音の苦痛の声が聞こえる。


(我慢するづら……。イゼル様を怒らせる為に必要なことづら。もともとそういうつもりだったんづら、母さんは。あとはきっと兄さんと姉さんが……)


 コロットはぎゅっと拳を握りしめると、その場を立ち去った。


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