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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
8章 戦争の予兆
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10話 二国間会合①〜課題提示〜

 その日の昼過ぎ、カトレア王国の国王ネツキ・ウッド・カトレアと先代国王キツクラ・エレ・カトレアが護衛数名を連れてレイトーマ城を訪ねてきた。

 相手が国王であるが故、ツヅガとその息子のオルトが出迎える。

 最も広く美しい応接室へ案内するとそこにはマナ、マト、ルティスの三人が居た。

 マナとマトは応接室のソファに座っており、ルティスは壁に寄りかかっている。テーブルにはすでに紅茶と菓子が用意されている。マナとマトはただ上がるとすぐに客人の元へ向かう。

 この時ツヅガは、アルトら他の案内人に応接室から離れるよう命じた。


「マト殿、お会いしたかった。文より直接話す方がいい」


「俺もだ、ネツキ殿」


「レイトーマの街並みを見てきたんだが、店から旨そうな匂いが届くんだ。あれをぜひエルルに食わせてやりたくて……」


「店によっては持ち帰りもできるぞ。入って聞いてみるといいさ」


 年代が近い二人は意気投合したらしく、国王としての挨拶はそっちのけで友人同士の会話を楽しんでいる。

 こうなることを予測していたキツクラは大きな咳ばらいを二、三度した。

 ぴたっと止まるとキツクラの小言が始まる。


「まったく、国王としての自覚はあるのか二人とも。民の生活を気にして触れるのはよいとして、今回は国同士の会合目的で来ているんだろう。民を誘導する上の立場である事を忘れてはいかん!」


 談笑していた二人は苦笑いをしながら視線を合わせた。

 マナはやや戸惑いながらもまずは挨拶をし、マト達三人も形式とはいえ丁寧に挨拶を交わしたのだが、壁に寄りかかって黙り込んでいるルティスだけは動く事はなかった。


「彼は龍族のルティスです。皆様ご面識があったかと存じます」


「うむ、しかし挨拶ぐらいはしてもよかろう」


 キツクラからの熱い視線を感じ取ったルティスは、ため息をつくとてくてく歩いて「龍族のルティスっす」と軽く会釈をするとまた壁によりかかる。

 拍子抜けしたマナ達は、とりあえず始めようと向かい合わせにソファに座った。


 キツクラは何かあったら補足等をするとして、基本は進行役を務めるようだ。

 話し合いと決定は若い国王達に決めさせるという。議題は龍の里への援軍について。まず口を開いたのはマトたった。


「俺は幼い頃、わずかな期間だったが龍の里に保護されていたのです。身内の事情だが、兄上の魔の手から救われた。だからその恩を返したい」


「それはエルルの傷を治してくれたことを考えると俺も同様のことを考えていた。やはり恩を返さねば。援軍はすべきだな」


 うんうんと若い国王二人が決定のように話していると、キツクラは呆れ返ってしまった。扉の前に控えているツヅガも同様に小さくため息をついている。

 マナも嫁いでいる以上、援軍はあった方が良いと思っているが簡単な問題ではないと考えま。


「お二人とも、事は私情で動かせるほど簡単ではないのです」


 マナの言葉に二人は顔と向ける。


「まず、ナン大陸の龍の里は今は閉鎖された国江月として存在しています。それまで国としての交流がないのですから、双方の議会を納得させるのは難しいでしょう」


 確かに、と頷くマトとネツキ。マナは続ける。


「次に、江月が人間の国であるという認識が一般的になっている事です。龍の里という事実は機密事項ですから、これが兵士らを中心に世界中に知れ渡る事になる可能性があります。特にこれはイゼル様達里の方々は望んではいないでしょう。歴史調査の解禁にも繋がりかねないと思いますので」


 壁で頷くルティス。ネツキは考え込み、マトは目が点になってマナを見つめた。


「……私が考えたのはこの二点ですが、キツクラ様、他の問題点はありますでしょうか?」


「概ね私が考えていた事と同様だ。姫はよく考えておられる。長年軟禁されていたと聞いていたが、政に関わっていたのですか?」


「いえ全く。ただ、感情では国を動かさないと知ったのです」


 過去のカトレア国王デルトが話した言葉を思い出した。

 ーー政治的な政策や思惑で双方の利益不利益妥協点を話合い、時に険悪になることもある。それは如何に民を幸福にできるのか、それを念頭に置いているからだ。


(今ならこの言葉がわかる。キツクラ様がご同席されていらっしゃるのはそれを二人に知ってほしいからなのね、きっと)


「ふむ。では二人とも、マナ姫の提示した課題について議論をするのだ」


 マトとネツキは考え込む。するとキツクラは「まずは思った事から口にしてみるといい」と言う。


 マナも自身の提示した問題点について考えてみる事にした。

 それが自分への経験になると考えて。






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