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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
2章 滅びた種族
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1話 秘密だらけの疑問

挿絵(By みてみん) 


 国王であり、兄のマライアが行方不明だった王子である弟のマトに斬首された――


 その報を聞きすぐにレイトーマに戻ろうとしたマナ。

 しかし、船では江月のあるナン大陸からレイトーマのあるセイ大陸までは二週間もかかってしまう。


 そもそも江月に来るまでの間の記憶がない。レイトーマの街の外れの森の中で気を失って眠っていたのだから。

 江月で目を覚ますまで、二週間も眠っていたのだろうか。そんな筈はない。


 疑問が疑問を呼ぶ彼女は、屋敷の中の庭にいる緋媛に聞いてみる事にした。


「私をレイトーマから江月に運ぶ時、二週間もかかったのですか?」


「何だよ」


 草の上で寝転んでいた緋媛は、興味無さそうに答える。

 この日の彼は、着流しではなくレイトーマ師団にいた頃の服、黒のパンツにボタンを二つ解放した白いシャツ、黒のロングコート着ている。

 レイトーマに発つマナの支度を待っていたのだった。


「セイ大陸からナン大陸まで、船で二週間かかりますから。大陸間の移動手段は他にありません」


 真面目に話すマナの足元を黒猫が優雅に横切り、それに反応した緋媛がむくりと起き上がる。

 彼の目は黒猫へと行くが、マナは話し続けた。


「気を失った程度で、そんなに長く眠れるとは思いませんし、どうして気絶したかも分からないのです」


「……分からねえって、分かんだろ」


「だって全く覚えが――」


 覚えがない。分からないから聞いているというのに、緋媛はマナの疑問など気にも留めず、黒猫を追いかけては綻んだ笑みを浮かべた。

 今まで見せたことのない、甘えるような声と表情で。


「可愛いじゃねえか、こいつぅ」


 語尾にハートマークが浮かんでいるようだ。

 また緋媛の新しい一面を見たマナだが、答えてもらわなくては困る。ぷぅと頬を膨らませて「真面目に聞いてるんですから、答えて下さい!」と声を張り上げた。


 その辺の草を抜き取るとチラチラと猫の目の前で振り、本能を煽りながら「聞いてるって」と楽しそうに答える緋媛。

 猫は前足で草を捕まえようとしている。


 その時、「クロ」と優しく呼ぶ女性の声が聞こえてきた。――ゼネリアだ。

 黒猫は耳をピンと立て、屋敷の中の庭に降り立ったゼネリアの元に駆け出した。その隣には緋倉もいる。クロと呼ばれる黒猫は、ゼネリアと緋倉の脚に頭を擦り付けた。

 猫が離れてしまいがっかりした緋媛は、再び寝転ぶ。

 マナは猫を追った先にいたゼネリアを見、何となくだが動物に対して穏やかな笑みを浮かべているように見えた。

 だが、人間相手のマナには冷たく言い放つ。


「レイトーマに戻るんだろ? 連れて行ってやる」


 そのゼネリアの発言に驚いた緋媛は、勢いよく起き上がった。

 彼女の隣にいる緋倉は緋媛と目が合い、首を横に振る。

 それが何のことか分かった緋媛は、()()()()()()と納得した。

 目を丸々と見開いて喜んだマナは両手を口の前でくっつけ、喜びの言葉を放つ。


「本当ですか!? では早速参りましょう! 出発の準備をしますので――」


 その瞬間、景色ががらりと変わった。屋敷の廊下や部屋が映る景色から、緑だらけの森の中に。

 一体何が起きたのかと動揺したマナは、キョロキョロと辺りを見渡す。


「こ、ここは……?」


 とゼネリアに尋ねるマナは、彼女の顔色が若干悪い事に気付く。

 身を案じる言葉をマナが掛けようとしたところ、緋倉がゼネリアを支えるように後ろからぎゅっと抱きしめる。


「だから止めろってイゼル様が言ってたろ?」


「……放せ」


 眉間に皺を寄せて離れようとするゼネリアだが、にこっと笑う緋倉に更に強く抱きしめられて動けない。


「ほら、俺を殴る気力もねーじゃん」


 プイッとそっぽを向くゼネリアは、緋媛に向かって吐き捨てるように言った。


「早くマナを連れて行け」


「そうするけど、お前らはどうすんだよ」


「適当に休んだら帰るよ。俺が付いてるから平気だって」


 顔だけは嫌がるゼネリアの頰や額に口付けをしながら答える緋倉。

 一瞬で場所が変わった事より、目の前ので起きている事が気になったマナは、頰を赤くし顔を手で隠しながら指と指の隙間からチラチラとその様子を見ている。


(なんて羨ましい……。私にもお相手が出来たら、あんな風なことされるのかしら)


 しかし触れられるとその人の過去が見えてしまう。それで自分が嫌になる事も考えられる。

 触れられないという悔しさと、触れたいという願望が彼女の中に出来た。


 そんなマナに小さくため息を付いた緋媛が「行くぞ」と言うと、マナは「はいっ」と慌てて返事をする。

 マナ達が歩み出すと、「おい、緋媛!」と緋倉が声を掛けた。ゼネリアを抱きしめ続けながら。


「そろそろ()()()()なんだから、早めに戻ってこいよ」


「あの時期? ……ああ、あの時期か。俺はなんねえよ」


 お前とは違うと言いたそうな緋媛の後を、マナは追いかける。


 緋倉との会話は一体何だったのだろう。緋媛が何の時期になるのか。知りたい事が次々と湧いてくるマナ。


(私が眠っている間に何があったかと、一瞬でイゼル様のお屋敷からここに来た方法と、緋媛のあの時期……。謎が増えてしまった。早く知りたいけど、今はマトにお兄様の事を聞かなくては)


 色々と考えながら森の中を暫く歩いていると、マナの息が上がってきた。

 やれやれと、一休みする為に緋倉はその辺の木に寄りかかり、マナは木の切り株に腰を下ろす。

 脚を擦りながらふと空を見上げると、遠くの空に赤と朱色が混じったような炎の柱が見えた。


「ねえ、緋媛。あれは何ですか?」とマナがその柱を指さす。


その方向へと顔を向けて見やった緋媛は、あっさりと「ミッテ大陸だよ」と答えた。


「ミッテ大陸ですか、あれが……。氷と炎で閉ざされてると聞いてますが、炎だけにしか見えません」


「外側は炎で、中分厚い氷で覆われたんだ。歴史調査禁じてるから、各国の調査団も行けねえし、中にも入れねえ」


 あっさりと答えた緋媛に対し、目を点にするマナ。

 緋媛が「何だよ」と不満そうに言うと、彼女は横に首を振る。


「だって、緋媛がすぐに教えてくれる事って滅多にありませんから。いつも誤魔化してしまいますし……」


「あれは公の事だからな。あんたの部屋じゃアレは見えないから教えてやったんだよ」


「ではどういう仕組みでその柱が出来ているんですか?」


 瞳を輝かせて緋媛に近づくマナ。知りたい、教えて欲しいと言う気持ちが顔に書かれている。

 面倒臭そうな顔をした彼は「休憩は終わりだ」と言い歩み出す。


「そんだけ元気なら問題ねえだろ。さっさと城に行くぞ」


「さっきと違って、今度ははぐらかすのですね」


 不機嫌になってぷう、と頰を膨らませるマナに、緋媛はため息をつく。


「知られたくねえ事だってあんだよ。俺、自分の事話したくねえし、あんたの質問の殆ども答えたくない。答えたくない理由も、あんたらの言う江月でなければ言えねえんだ」


「それってどういう――」


「とにかく、知りたきゃさっさと江月に来いって事だよ。いいからさっさと歩け、そのペースじゃ日が暮れる」


 スタスタと先を行く緋媛の後ろを追いかけるマナ。

 彼女は思う。相手もない縁談と、行くべき理由が明確ではないのに、江月には行くべきではない。しかし自然豊かな地であり、何か惹かれるものはある。レイトーマの為になるならば、歴史調査の解禁ができるのならば、江月へ行ってもいいかもしれない――と。


 マナに不安は過るものの、彼女の運命は生まれた時から決まっている。

 この時の彼女は、その運命を知りはしない。







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