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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
8章 戦争の予兆
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8話 朝食会談①~イゼルからの手紙~

 マナの弟でありレイトーマの国王マトは自身の執務室に籠る傾向にあるらしい。

 三食の料理を食べながら公務を捌く日々で、ツヅガ曰く休めていないのではないかと言う。

 この日も朝から執務室に篭っていると言うのだが、つい先日王妃を探すための社交パーティーが開かれたて疲れている様子だと、執務室へ向かいながらツヅガが話す。


「先代があの方だったので議会は好き勝手やっておりました。ですがマト様が継いでからは民の血勢を民に使うようにと厳しくされ、それが鬱陶しくなった議会のバ……議会の者が世継ぎ世継ぎと騒ぎ立てるようになったのです」


「お兄様と私にはそんなことなかった覚えがありますが……」


「姫様はあの方が断固拒否しておりましたので。対彼の方の場合はどの貴族も手を上げなかったのです。悪しき評判が流れていたものですから」


「マトが即位してからそんなに立候補が増えたのですか?」


「それはもう、娘がいる貴族がうじゃうじゃと。民間で育ったという話が流れておりますゆえ、自分の家紋の娘が皇后になれば実権を握れるという下心がある者が多いのです。さらにはカトレアでは民間女性が王妃になったものですがら、民も期待してしまっている次第で……、頭が痛い」


 大きいツヅガの背中が小さく見えたマナ。気の毒だが何もすることが出来ない。

 マトには幸せになって欲しいのだが、今は国を建て直す事を第一に考えているだろうと予測した。


 執務室を前にコンコンと扉をノックする。


「陛下、ツヅガです」


 扉の向こうから小さい返事が聞こえた。

 ツヅガはドアを開けると、マナとルティスを招き入れる。

 執務室の机で突っ伏していたマトは、ツヅガとマナの「どうぞ」「ありがとうツヅガ」の声を聞いた途端に跳ねるように顔を勢いよく上げた。

 同時にルティスはフードを下ろす。


「姉上!?……と、ルティスか」


「お久しぶりです」


「なんだ、思ったより元気そうじゃねえか」とルティスはつまらなさそう小さく息を漏らす。


「姉上の顔を見ればな。ツヅガ、紅茶の用意を」


「すでに手配済みでございます。それより陛下、朝食まだ食べていないのでしょう。三名分の用意が出来次第、メイドがお待ち致します」


 先ほどまで突っ伏していたとは思えないほど、いそいそと自らマナをテーブルに案内するとマト。

 ルティスには適当に座るよう促し、入り口扉の前に立っていようとしたがツヅガには同席するように命じた。

 腰痛持ちの老兵を立たせるわけにはいかない。


「しかし緋媛ではなくルティスとは。何かご用件がありそうですね」


「ええ。イゼル様にダリス軍の事を伝えたでしょう。その返答に参りました」


 ルティスがマトに手紙を差し出す。

 早速開けて読んだ彼の顔がみるみる険しくなっていき、舌打ちをした後にツヅガに手渡した。


「姉上たちはこのご返答内容はご存知ですか?」


 首を横に振るマナたち。

「読んで聞かせてやれ」とマトが言う。手紙の内容はこうだ。


『これはダリス帝国と我々異種族の長きに渡る問題のため、援軍による手出しは無用。ことが落ち着くまでマナの保護を求む』


 これにすぐ反応したのはルティスだった。


「援軍だって? 俺たちの里は表向きは閉鎖された国ってことになってんだ。側から見りゃ怪しい国にほいほい軍を出せんのか?」


「ツヅガも頑張ってくれたんだが、俺の実権がまだ弱すぎて議員の石頭共に条件をつけられたよ」


「条件?」とマナが唾を飲み込むと、マトは重々しく口を開いた。


「……歴史調査の解禁」


 マナは「え?」と小さく声が漏れ、ルティスは眉間に皺を寄せた。

 歴史調査の解禁はマナ自身も龍の里に行くまでは目指していたのだが、里の者や過去での出来事から解禁すべきか否かがわからなくなってしまったのだ。

 ドクンドクンと心臓が高鳴る。


「俺が龍の里にいた頃、イゼル様に聞いた事があります。歴史調査を禁止したのは異種族の存在を知られたくないからだと。今も他の異種族がひっそり暮らしていると聞きますし、事情を知っているだけに議会の条件は簡単には飲めません。ですが、そうはいかない事情が出来てしまいました」


 マトの視線がツヅガにいく。ふぅ、とツヅガが続きを話し始めた。


「実は議会の一部の貴族お抱えの学者らがミッテ大陸へ向かって旅立ったのです。あそこはずっと炎と氷の柱で閉ざされていたのですが、それがぱたっと無くなったもので、()()()()()()()()調()()しに行くのだと意気揚々としていました。陛下から聞きました。あのミッテ大陸こそが昔龍族が住んでいた土地だと……」


「ツヅガだったか」と沈黙していたルティスが口を開く。


「マトもあんたもその口ぶりだと気づいてんだろ。そんなの上辺だけで本当はミッテ大陸を調査して歴史を暴こうとしているってよ。人間どもの間じゃ一体の龍族の手で同族が滅びてることになってるから、もしかするとミッテ大陸にいるかもしれねえって思ってるかもな」


 マナは口を閉ざすマトとツヅガを見、「どうしてそう思うのですか?」と疑いの眼差しで問う。

 小さくため息をついたルティスは言う。


「ちょっと考えれば分かることっすよ。こんなおいしい機会、人間共が手放すはずないんすから」


 部屋の空気が重くなったところで、こんこんとドアをノックする音が聞こえた。食事の用意が出来たらしい。

 マトが執務室の中へ招き入れると、簡素でありながら美しい見た目の食事がテーブルに並べられた。

 焼き立てホカホカの湯気が立ったクロワッサン、野菜たっぷりのスープに数種類の野菜サラダとはちみつがかけられたヨーグルトだ。

 とにかくまずは食事を――と、食べながら話し合う事になった。



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