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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
8章 戦争の予兆
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3話 戦力選考

「罪もない一般人であるダリス人を殺したから、という理由で進軍しているらしい」


 レイトーマのマトから届いた文を指差し、イゼルが話すとルティスが吐くほどのため息をついた。


「はぁ――――――??? よく言うぜ。先に仕掛けてきたのはダリスだってのによ。こっちは里を守っただけだろうが。相手は六華天の一人だろ? どこが一般人だ」


「一般人かはさておき、ダリス人を殺したのは間違いないからね」


「フォルトアてめぇ、どっちの味方だ。こっちはゼネリア様が殺されてんだぞ」とルティスがじろりと睨む。


「そんなの決まってるじゃないか。分かってるよ。だから冷静になって考えないといけないんだ」


 困惑してい居るフォルトアの言葉に頷く緋倉が言う。


「進軍してきた人間を全滅させたのは最終的にはゼネリアだからな。そこは否定できねぇし、きっかけを作ったのもあいつだ」


「緋倉様まで……!」


「落ち着けルティス。……だからと言ってあのまま防御に徹していれば、里の中に侵入されて同胞が連れていかれただろうよ。遅かれ早かれいずれはこうなっていた。だからあいつは自分で汚れ役を買って出たんだろ」


 僅かに緋倉の拳が震えている。それに気づいたルティスは大人しく口を閉じた。

 最も怒りに満ちているのは緋倉のはずで、自分ではないと悟ったのだ。

 ようやく大人しくなったルティスを見、イゼルが口を開く。


「表向きは人間の国・江月だから国への報復だろうな。だがこのまま争ったら弔い合戦になるだけだ。昔の事を考えると、この争いはどちらかが滅ばない限り終わらないだろう。俺たちが狩られるか、ダリスを滅ぼすか」


 この時、マナの脳裏に過去で見たダリス帝国の貧民街が浮かんだ。つい「イゼル様」と口が出てしまう。


「ダリスには、日々の食事も満足に取れず亡くなってしまうような貧民街の民も多いのです。ダリス人全員が全員悪いわけでは……」


「分かっている。ルティスの妻のユズもダリス人だろう。滅ぼすのは国であって人間全員ではない」


 その言葉に、マナはほっと胸を撫でおろした。


「とはいえ、進軍してくるダリス人の頭を早々に叩かなくては。ケリンは過去へ行っているから六華天が動いているはずだ。ジョー・アクラレンは死んだから……、森内キルク、レーラ・アトモス、コロット・ココット、アレク・フー、シドロ・モドロの五人か」


「シドロ?」


「姫、知っているのか」


「実は、レイトーマの師団長の一人でした。ただ、理由は分かりませんがシドロは緋媛が処刑したと、他の師団長から聞きました」


 ユウ・レンダラーがのんびりした口調でさらっと言っていた事を思い出したマナ。

 そういえば、とその場にいた全員が思い出した。


「確か緋媛の野郎が言ってたなー。レイトーマの師団長に居座っているダリス人がいるって。とっとと殺っちまえばよかったのによ」


「人間の世界はいろいろと制約があって面倒だからね、緋媛も動けなかったんだと思うよ」


 悪態をつくルティスをなだめるようにフォルトアが言った。

 マナは眼が点になっており、緋倉がぽろっと口にする。


「その様子だと姫さん聞いてないんですか? 姫さんのご両親、国王と王妃を殺した犯人」


「え? お父様とお母様は……まさかシドロだったのですか?」


 黙って頷く緋倉。マナは時間が止まったように一瞬呼吸するのを忘れた。

 また自分だけが知らなかったのだと青ざめる。それどころか相手が師団長だからと話す事も時折あった。両親の仇と話していたと今更気づいたのだ。

 脳内が整理されず固まっているマナを余所に、イゼルは話を戻した。


「ならば残りは四人か?」


「森内キルクは司様と過去へ行ってます。ですから三人でしょうね」とフォルトアが答える。


「足のくせえレーラ・アトモスと変態アレクと、コロット・ココットか。あの変態がなぁ、すっげえええ嫌だ」


 青ざめた顔をして全力で拒絶する緋倉。

 できれば顔も見たくない、近くにいようものながら逃げ出したいのが本音だ。だがそうも言っていられない。


「おそらく三方位からやってくるだろう。散らばるしかない。今回は俺も出よう。俺とルティス、フォルトアで外の守りをやるんだ。いいな」


 頷くルティスとフォルトア。名前の挙がらなかった緋倉は「俺は?」と問う。


「お前は戦力外だ。薬華からも解毒剤ができるまで安静にしているように言われているだろう。その体で戦おうなど論外だ」


「俺はまだやれます!」


「緋倉。俺が何も気づいていないと思っているのか。お前の中の毒は日々変化しているタチの悪いやつだ。解毒剤を与えても毒と完全に合致するものでなければならない。だから薬華が苦労しているんだ。その解毒剤が出来るのが先かお前の命が先かといった状況で、お前を外には出せない」


「ですが……」


「命令だ。お前は中で俺たちに守られていろ。今のお前でも出来ることは、緋媛の代わりに姫の護衛をすることだ」


 ぐっと唇をかみしめた緋倉は「わかり、ました」と悔しさと無力と無念入り混じった声を絞り出した。


「それと姫。このあと薬華の診療所へ行きなさい。安静にさせないといけない緋倉も連れて行ってくれ」


「護衛する人間に連れていかれる護衛なんて初めて聞きましたよ。行きましょう、姫さん」


「はい」と腰を上げたマナは、あっと思い出してルティスに声をかける。


「ルティス、あとで温泉に入ってもいいですか?」


「どうぞ。お題は緋媛の野郎からがっぽりいただくんで」


 謝意を伝えたマナはとぼとぼ歩く緋倉の後ろについて屋敷の部屋を後にした。

 その後を見送った後、ルティスはイゼルに真意を聞く。


「司様は敵なんですか、味方なんですか。緋倉様の様子を見ると味方のようですが」


「……今のお前たちには答えられない。だが俺と緋倉を信用しろ。今はこれしか言えない」


「なるほど、理由があるようですね。僕たちに言えない理由だけは話せますか?」


 ほんの少しの沈黙ののち、イゼルはゆっくりと口を開いた。


「人柱は、特定者の過去や未来を見ることができる。これを話してお前たちがこの先の未来でその話をしないとは思えない。見られてしまうから予防線、といったところか」


 ルティスの頭の上には謎が浮かび、フォルトアは納得した。

 イゼルの屋敷を出たルティスは結局どういう事かフォルトア聞いたが、この会話も未来の選択肢として過去の時代から見えるとしたらと考え、彼の問いに答えることはなく「自分で考えるといいよ」と笑顔を向けたのだった。



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