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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
8章 戦争の予兆
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1話 二つの同じ顔

 薄暗い城内の広い部屋の中に長いテーブルが置かれている。

 白髪と黒髪の同じ顔が対面し、白髪の後方に片桐司はいた。


「US2065年、だと?」


 白髪の顔が目を見開いて声を震わせ、勢いよく司に対して「どういう事だ」と声を荒げた。

 ぽりぽりと頭を掻きながら答える。


「あの小娘の力は不完全ですから、そのせいでしょう。俺は確かにUS2047に繋げるように言ったし、そう暗示をかけたんですがね、元々双子だったから死んだ片割れがいないとどうしようもないかと」


「人柱は現世代と交代世代の二人のみ。双子だとそれがあり得ると?」と黒髪の同じ顔が問う。


「何百年も生きてその事例は聞いた事ありません。なぜなら過去も未来も双子の人柱など存在した事がなかった」


「母親の腹の中で血どころか力も分けられたか」と今度は白髪の同じ顔が言う。


 この場にもう一人、司の隣にいる森内キルクは眉を派の字にしながら混乱していた。

 髪の色が違うだけで同じ顔が二人。どう呼んでも同じであるので同一人物とは面倒だと。

 黒髪が白髪に問う。


「US2047に繋げて何をしようと? 異種族狩りが活発な時代だったはずだ」


「若いわしよ、この時代より約十八年前に生まれた世代交代の存在は把握しているか。いや、していないはずだ。わしがそうだったからな」


「……どこの国の生まれだ」


「龍の里」


 黒髪は絶句した。人柱は人間しか存在しないと思っていたのだから。


「何故……何故家畜から……!?」


 手をぶるぶると震わせみるみる顔を真っ赤にしていく黒髪。

 白髪は唇を震わせながら司に世代交代者の話をするように振った。


「世代交代となる未来の破王となる存在はゼネリア・アンバーソン。あれは純粋な龍族ではなく人間でもない、その間の存在でもない。この世界とは次元の違う存在と龍族の混血。この時代の歳は十八だったはずです」


「貴様も龍族か。この家畜は未来の私の手下か」


「役に立つのだよ。精神に干渉する力を持っているからな、家畜を手なずけるには丁度いい」


 白髪の言葉に「ほう」と声を唸らせる黒髪。白髪は本題に戻す。


「世代交代となるそのゼネリアはな、この時代のこの城を破壊し、多くの家畜どもを逃がすのだよ! 時間をかけて集めたあらゆる能力と奴隷としている子供さえも!」


「家畜を……逃がす、だと……?」


 椅子の背もたれに寄りかかりプルプルと拳を震わせる黒髪と白髪は、声を大に同じ言葉を吐き出した。


「そんなこと! あってはならん!」


 表情には出さないが、司は思考回路を巡らせて考えていた。


(おそらくこの時代のゼネリアが行動を起こすのはもうすぐだろう。緋倉が勝手について行って単独行動を起こすはず。ケリンの馬鹿め、流王であるお前がそういう情報を与えることで過去が大きく変わるんだ。余計な事を)


 この異常事態をこの時代のイゼルと(じぶん)に知らせなくてはならないと考えつつも、キルクの監視を潜り抜ける必要がある。とはいえ、ゼネリアと緋倉はイゼルの反対を押し切っての行動であるのであまり意味がないだろう。


 表情に出さずとも困り果て司は、なるようになるだろうと思うようにした。


「もしや未来の私がUS2047に行こうとしたのは、その世代交代者となる者を脅威となる前に始末しようとしたのか?」


「察しがよくて助かる。本来であればまだ幼子である小娘を捕らえて血を抜き取ってから鱗を剥いでやろうとしていたが、それはもう叶わない。あれは龍の血肉を喰い続けた我らを遥かに凌ぐ力を持つ。最後は家畜をかばって死ぬというあっけない最期を迎えたそうだが、生きている限りは恐ろしい」


「その存在が、もう間もなくやってくると」


「そうだ。準備をするのだ。迎え撃つ準備を……」


 厄介だと司は察した。過去にないことが起こる予感がしている。いや、起こさなくてはならないのだ。

 いずれにせよ、同時に安堵したこともある。それはマナにU()S()2()0()6()5()()()()()()()()ようにという暗示をかけた事。US2047年はただの鍵となる言葉であったのだ。


「司、キリク。小娘が来たら捕縛するのだ。あれらも家畜にしてやろうぞ」


 司とキリクは「御意」と答え、部屋を出ていくよう言われた。

 白髪と黒髪の同じ顔、ケリン・アグザートはどうやら二人で話すことがあるらしいが、扉を閉める前に聞こえたのはなんて事のない自分自身の話のようだ。


 解放されたキリクは疲れたと言わんばかりの表情を浮かべている。


「適当に部屋で休んだらどうだ。同じ顔がいて面倒だっただろう」


 司の言葉に首を横に振るキリク。


「ボスを部屋に送り届けるまで休めませぬ」


 ――あくまで俺を監視するつもりか。

 腹の底では不快な気分の司だが、「勝手にしろ」の一言で片づけた。


 問題はこのキリクの監視を潜り抜けて龍の里に知らせなくてはならない。

 三番目の息子の緋刃のように動物を足に使えない。さてどうしたものか。


 悩んでも仕方がない、と司はまず寝る事にした。




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