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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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番外編3 兄妹の距離〜連れ出そう〜

 懐かしい夢を見た。

 あの子がまだ六、七歳ぐらいの頃だろうか。異父兄妹とはいえ距離がありすぎると、俺は緋紙に酷く怒られた。


「緋倉が離さないのもあるけど、どうして一緒に暮らそうって言わないの?」


 緋紙の疑念もわかる。

 だが俺は、あの子に対してどう接していいのかわからない。

 息子のゼンが幼い頃は、稽古はもちろん紙音と皆でレイトーマやカトレアへ赴いていた。

 人間が嫌いな子に同じことは出来ない。それにあの子は、少なからず俺から距離を取っている。


「……言わないのね。あんた達揃って似たような反応して、そういうところがそっくり!」


「ゼネリアにも同じことを聞いたのか?」


「ええ。お母さんと同じ匂いがするって言うから、イゼルと暮らしたいって思わないの? って」


「なんで答えた?」


 興味本位ではなく、本心からの質問だった。だがその半分は不安しかない。

 緋紙は小さくため息をついて言った。


「……何も言わなかったの。ただ、薬華には話してるみたいだけど、濁されちゃった。あーん! あたしもまだ信用されてなーい!」


 嘆く緋紙が言うならば、俺はもっと信用されていないのだろう。

 半分血が繋がってるだけの他者でしかないのか。


「てことで、命令です。今夜レイトーマかカトレアへ旅立って、兄妹として距離を縮めて来なさい」


「里の守りがーー」


「そんなの気にしない! 司も快諾してくれたし、ゼネリアが寝てる間に連れて行けばいいのよ」


 あの司が快諾するとは思えなかった。

 里の事を第一に考え、今はダリス人の出撃から備えるべきだと言うあの司が。

 などと考えていると、緋紙の拳に僅かな血が。実力行使をしたようだ。


「返事!」


「わかった」


 ***


 その夜、緋倉、ゼネリア、ユキネが川の字になって寝ているところ、妹だけをそっと抱き上げてたら出した。

 緋倉がぎゅっと手を握っていたので、解くのに時間がかかったが。

 なぜ子供はあんなに握力が強いんだ。


 緋紙曰く、今日は動物達とたくさん遊んで疲れているから朝までぐっすり眠る見込みらしい。

 寝ている時は可愛いのだが。


 それよりレイトーマとカトレア、どちらへ行こうか。

 自分で考えろと笑顔で怒られたが、この子の好みがわからない。

 よく考えたら俺は何一つこの子のことを知らない。

 知っているのは人間が嫌いというだけ……、ああ、一つ知っていたか。


 悩んだ挙句、俺はレイトーマへ向かった。

 食の国であり、娯楽施設も少なからずある。食べ物の好みを知る事はできるだろう。


 ***


 夜明け前にレイトーマの港に着いた俺は、当番の人間に声をかけられた。


「これはこれはイゼル様、おや、本日はご訪問のご予定が? いや、お忍びで?」


「今日は後者だ」


「そうですか。空を飛んでお疲れでしょう。狭い仮眠室しかありませんが、少し休んで行って下さいな。おっと、ベッドが一つしかない」


「俺は少し休めればいい。この子を寝かせてやってくれ」


 案内された仮眠室のベットにゼネリアを寝かせ、俺はソファに横になる事にした。

 しかし本当によく眠っている。空を飛んでいる時もぞもぞ動いていたが、起きたわけではなかったようだ。

 ゼンの幼い頃を思い出す。あいつは寝相が悪くてよく蹴られていたな、俺が。その点、この子は大人しいーー。


 ***


 目を覚ました俺は、いつの間にか寝落ちしていたと気づいた。

 いつの間にか毛布が掛けられている。

 ベットにいるはずのゼネリアが部屋の隅の椅子にちょこんと座っていた。


「……お前が掛けてくれたのか?」


 何も答えないゼネリアに、俺はただ一言「ありがとう」と伝えた。


 その後、当番の人間から聞いた話では、毛布をかけた後をしばらくは俺の顔を覗き込んていたらしい。

 ただ、人間が近づくと震えて威嚇していたという。


 すっかり夜が明けて晴天を迎えたレイトーマの朝。

 街に出る前に何がなんだか訳がわからないと言わんばかりのゼネリアに言った。


「今日は美味しいものを食べて遊ぼう」


「……緋倉は?」


「里で留守番だ。今日は俺とお前だけで人間の街に行こう」


 ゼネリアの前でしゃがみ、手を差し出すが反応がない。


「俺と一緒は嫌か?」


 控えめに首を横に張った。ならば何故手を取らない。そうか、もしやーー


「人間の街が嫌なのか?」


 全力で首を縦に振った。数年前に人間にされた仕打ちを思い出すのか。


「この国の人間は皆俺たち異種族に優しい人々だ。心配しなくていい。もし何かあったら、俺が守るから安心しなさい」


 視線を俺の手と顔、交互に向けるとようやく手を取った。

 さて、まずは朝食を食べに行こう。






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