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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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29話 現代へ戻るのは?

 リズリンの笑いは止まることがない。イゼルの話ではもう少し時間が必要らしい。

 その間、マナは気になる事を質問していた。


「私がこの時代にいてはいけないという事は理解しましたが、権利放棄というのはどういうことでしょうか」


「なんだ、姫はまだ人柱ではないのか」


 はい、と返事をするマナに、イゼルは知らなくて当然かと説明を始める。


「人柱は扉の管理者。その管理の権利を次期人柱へ譲渡する事で正式な人柱となる。人間の場合、その権利を放棄や譲渡しない限りは最大期間である百年は体内時計が止まり、人柱としての任を全うできる仕組みだと聞いている」


「ケリンはゼネリアに譲渡していない、ということですか」と緋媛が問う。


「そうだ。異種族も人間も能力が安定するのは十八から二十歳頃だが、この子は驚くことにもう未来の人柱としての能力を安定化させているようでな。だからすでに権利を譲渡されてもいいんだ。ただ、その代わりなのかは知らんが、他の力は不安定でな……」


「そんな訳で、あと何年かは譲渡されなくても平気なんすけど、監視者としての役目を放棄しているから早く権利放棄して欲しいんすよね~」


 と、いつの間にか笑いの止まったリズリンが何事もなかったかのように言葉を発した。

 緋紙のいれた茶を飲みながらさらに続ける。


「問題はその……、あんた、名前教えて」


「マナ・フール・レイトーマです」


「ぶっ!! レイトーマ!?」


 リズリンが盛大に吹き出した茶は、目の前にいた緋刃の顔面にかかった。


「あんた、レイトーマの王族!? いやいや、あたしってばさっきから失礼をして、打ち首になったらどうしよ」


 驚いたり青ざめたり目を見開いたりと百面相を見せるリズリンにマナはほほ笑む。


「この時代の王族ではありませんし、レイトーマ王国はそのような事は致しません。気にしないでください」


「うん、わかった! じゃあ続きね」


 この百面相と変わり身の速さに、マナ、緋媛、緋刃とフォルトア誰かを思い出した。

 ――リーリだ。まさかリズリンは薬華の娘で生まれ変わったのかと思えた。


「問題はアグザートが権利を持っているから、扉を自由に開けられないってことっす」


「できるよ」とゼネリアがさらりと答えた。


「権利まだないっすよ」


「無理やり開けられるよ。ずっと前にやってみたら出来ちゃった」


 目が点になっているリズリンらが思う事は一つだった。

 ずっと前とはいつなのか――と。

 緋刃はこそこそと二百年後のミッテ大陸が炎と氷の柱でおおわれていた事を緋媛に話し、だから不思議ではないと納得している。


「昔倉兄が姉さんは天才だって言ってたけど、こういう事だったの?」


「天才はどうかはともかく、とんでもねえな」


 扉を開けることは問題ないと判明したところで、ようやく司が口を開いた。


「なあ、イゼル。影響があるのは人間の小娘だけだろ? だったら他奴らは残っても問題ねえよな」


「まあ、そうだが……」


「ナン大陸へ再起に行く連中を守るのはレイトーマとカトレアの人間に任せるとして、四方からこの里を守るには数は必要なんだよ。どうせ二百年は俺たちにとって早い。どうだ?」


 イゼルは「確かに」と頷く。

 大陸の四方からくる人間相手に司だけでは対応が遅れる事もしばしばあり、里にたどり着く前にイゼルが出向くこともあった。

 マナ達がUS2051年にやってきてすぐにイゼルに攻撃されたのは、その為でもあった。


「確かに今の状況を考えると手は欲しいな。数が減ったと知ると、余計に人間が増えそうだ。リズリン、かまわないか?」


「そうっすね、二人ぐらいならいいっすよ」


 二人ぐらいという事は、当然マナと一緒に戻るのは緋媛だと考えられた。

 マナの匂いが変わったことで緋媛と一緒にいるのは周知の事実になっているのだ。

 だが、この時は違っていた。


「なら共に未来へ戻るのは緋媛か。もったいねえな、弱すぎるから緋刃と一緒に鍛え上げてやりたかったのによ」


「イゼル様、司様、姫様と一緒に現代に戻るのは僕にしていただけませんか。緋媛もすまない。どうしてもこの先のこの時代には居たくないんだ。これだけは譲れない」


 ぐっとフォルトアの拳の力が強くなる。

 眉間にしわを寄せるほど真剣なのだと分かるが、緋媛の心境は複雑だった。

 マナと共に居たい、離れたくないという気持ちと、フォルトアの要望を叶えたい思いの両方がある。


(姫と共に現代へ戻るか? それは出来ない、緋刃を置いていけねえ)


 そんな悩みをしていると、訳があるようだと司が一言呟く。そしてイゼルがあることを思い出した。


「もしや、エルフの長老モリー・モギー殿の話が関係あるのか」


「モリー・モギー? ああ、あのババアか。フォルトアに何か言ったのか」


「長老をババアとは、そう言えるのはお前と緋紙ぐらいだぞ」


「もうイゼルったら、司と一緒にしないで!」


 ため息を混ぜて言う緋紙の後で、フォルトアは小さく「……はい」と答えた。

 エルフの里に行っていない緋媛と緋刃は互いに視線を合わせる。

 フォルトアにとって嫌なことがあった事は間違いないが、これまで彼の弱みは一つも見たことがない。

 それだけに余程深刻だという事が分かる。


「それ以上は答えられません。ただ一つだけ言えるとすれば、ゼネリア様が人間に受けた仕打ちとその痛みは僕もよくわかる、という事だけです。それ以上はどうか聞かないでください。……お願いします」


 すっと頭を下げたフォルトアを見、それほど重要な何かがあるのだと緋媛は悟った。


「……フォルトアさん、俺が残ります。だから姫と一緒に現代へ戻ってください」



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