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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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28話 リズリン・パラック

 その日の夕方、森番から戻った緋媛、緋刃、フォルトアに無事移住が決まったことをイゼルの屋敷で説明した。


「ですが、三分の一ぐらいの方々だけのようです」


「へー、てっきりみんな一斉に移住するもんだと思ってた」と緋刃が目を見開く。


「そりゃ反対する連中もいるだろ。まさか母さんが先に行くとはな……」


「司も薬華も心配しています。薬を多く持たせてもはやり体が、と」


 二人の不安をよそに、緋刃は「大丈夫っしょ」と能天気な言葉を口にする。


「だって俺が生まれるまでは大丈夫なんでしょ? 平気平気」


 と、激しいげんこつが緋刃の頭の上に落ちてきた。頭蓋骨が割れたような音を立てて。


「いってーよ! 何すんだよ!」


「てめえは言葉に気をつけろ! 母さんは呼吸するだけで毒吸ってるようなもんなんだよ」


「ご、ごめんよ……」と、さすがに緋刃も言葉を慎んだ。


 無言の時間がほんの少しの間流れていると、黙り込んでいるフォルトアの顔色が悪い。


「フォルトア?」マナが声をかけるとハッと気づく。


「ああ、少し考え事をしてました」


「考え事ですか?」と緋媛が言う。


「うん。今はUS2051年だろう? 僕たちの目的はケリン・アグザートを始末すること。このまま十年も待つのは僕は――」


 口をぎゅっとふさぐフォルトアの表情はどこか青ざめていたようだった。

 するとそこへ、「皆揃っているな、ちょうどいい」とイゼルと司が見知らぬ女性を連れて部屋に入ってきた。


「その方は?」マナが問うと、体の線がはっきりわかるようなタンクトップとパンツをはいた女性は、拳を前から横に素早く引いた。


「押忍! 過去の人柱やってるリズリン・パラックっす! 家系は武闘家で、髪は鬱陶しいから丸刈りにしてるっすよ」


 ぺちっと頭を叩くリズリンは、へへっと満面の笑みを浮かべるとすぐに顔の筋肉を引き締めた。


「早速本題に入るっす。そこの女」とマナを指差すリズリン。緋媛は眉を寄せて苛立ちの表情を浮かべる。


「この時代にいるだけで悪影響なんすよ。さっさと自分の時代に帰ってくんない?」


 あまりの直球でマナは一瞬思考が止まった。気持ちいいほど真っ直ぐに心に響き過ぎたのだ。

 緋媛たちも同様に固まり、イゼルは大きなため息をついた。


「リズリン、理由は俺から説明するからそこに座ってくれないか。司、台所に晩飯作ってる緋紙たちがいるだろう。茶を持ってくるように言ってくれ。それと――」


 ちらりと廊下の角に視線をやったイゼルは「ゼネリア、お前もおいで」と後をつけてきたゼネリアを手招きした。


 司と入れ替わるようにやってきたゼネリアの肌はまだやや痛々しさが残っており、肌の色が所々違う。

 立ち上がったマナはセネリアの元へ駆け寄ると膝をつけて頭を撫でる。


「よかった……! だいぶお加減もよくなってきたのですね、安心しました」


 マナの言葉に素直に頷けずにぷいっとそっぽを向くと、リズリンの隣に座った。

 少し寂しい気もするマナ。元の席に戻ると、イゼルの説明が始まった。


「マナ姫が悪影響だという話だが、それは姫が二百年後の人柱だからだ」


 マナと緋媛は顔を見合わせた。イゼルは話を続ける。


「俺も先ほど初めて聞いた話だが、どうやら時代の違う人柱が過去や未来に存在すると、それだけで歴史が変わってしまうらしい。そこにいる、ただそれだけで影響力が違うんだという。理屈は分からないがな」


「待ってください、イゼル様。僕たちも未来から過去へ来てますが、その影響は?」とフォルトアが問う。


「それはその時代の人柱――つまりお前たちの時代の過去の人柱が影響を抑えられる範囲にあるから問題ないそうだ。だが、人柱同士は互いに干渉ができず、互いの過去も未来も見えなければ影響の調整をしあう事も出来ない。だからリズリンは言ったんだ、悪影響だと」


「そういう事っす。まあ、あたしたち人柱は扉の管理者が主な役目っすけどね。ねー、リアちゃん」


「ゼネにはまだ権限っていうのがないんだもん」


「ああ、ケリンが権利放棄してないからね……。ん? ケリンが権利……ぷっ、あっははははははははははははははは!!」


 突然腹を抱えて笑いだすリズリン。

 丁度その時、司が茶を持ってきた緋紙、薬華、緋倉とユキネを連れてきた。


「……いいところに来てくれた。しばらくこのままだろうから一息入れよう」


「些細な事でも笑い出すよな、この人間は。おいガキども、そこの庭で遊んでな」


 と廊下の先にある庭を指差す司に、緋倉は首を横に振った。


「遊ばないよ。お母さんと約束したんだ、会うたびに強くなってるって。だから修行する」


「ユキネも強くなったらお兄に会えると思うんだ。だから一緒に修行するっ」


 いつも修行より遊びを優先する子供にイゼルは眼を見開き、司の耳元で聞いた。


「緋紙が先にナン大陸へ行くって、うまく説得できたのか」


「いや、ほぼ脅しだな」


 ちらりと二人揃って緋紙に視線をやると、悪魔のような真っ黒な笑みを浮かべていた。

 どういう説得をしたのか、脅したのか聞くこともなかろう。何も言うまい、と口を閉ざした。




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