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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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23話 小さき新たな里

 少し歩く――

 この言葉にマナは何度か騙されたことがある。

 緋媛の"少し"は一時間や三十分が当たり前で、慣れない土の上を踏みしめた経験をした。

 だが、イゼルの場合は十五分程度で済んだのだった。


 眼前に広がるのは小さいながらも十数軒の家が点在し、野菜を育てる畑が並んでいる。

 広大な土地とはまだ言えないが、とっちんかっちんという音と「えっさっさーほいさっさー」という愉快な声が耳に入ってきた。

 畑を耕しているエルフの姿や一部の人――人型の龍族――が作業を行っている。


「まだ小さいが、モリー殿とザクマ殿のご協力もあり、ようやく基盤ができたところだ。ここから我々や希望のある異種族が住めるような土地にしていく。さあ、各々見て回ってくれ」


 ――ここが始まり。

 ここから二百年後には広い土地になり、大きな池もできる。

 二百年の変化は緩やかなものなのだろうかと、マナは遠い目で周りを見渡した。

 そして、あるものがない事に気付いた。


「緋媛、そういえば空から見た時、この里が見えたのです。結界はまだないのでしょうか。初めて江月に行ったとき、結界がありましたよね?」


「ああ。あれはゼネリアがやってたからな。俺が物心つく頃にはもうあったし、この時代のゼネリアはまだガキだからな、もう少し大きくなってからじゃねえか?」


 子供のゼネリアにはまだ無理だろうが、何故結界を張ることになったのか、いつなのか、疑問が湧いてしまう。

 ……が、未来に戻ったところで当の本人は亡くなってしまい、聞くことが出来ない。


「フォルトアさんが知ってるかもな。それか兄貴か……」


「里に戻った時に、フォルトアに聞いてみましょう。今は、出来たばかりの里を見て回りましょう」


 ふわっと笑うマナに不意に心を打たれた緋媛は、少し視線を逸らしながら手を差し伸べた。

 握れ、という事だと察したマナはその手をきゅっと握り、視察を楽しんだ。



 **



 約一時間後、まだ明るいが日が傾きかけて来た頃、「あーっ!」という奇声が鳴り響いた。


「麗しのスリーナ・エンドルインは耐えられない! 異種族であろうと、このような狭――――――――――――――――い家であるとは! カトレアの民の家も狭いが、何故皆こうも優雅さに欠けるのだ!」


「失礼であるぞ! スリーナ!」


「しかし陛下! このスリーナ・エンドルイン、やはり衣食住は質が良くなくては!」


 カトレア国王デルトの叱責も虚しくこの失言に、ぎらりと目を光らせたザクマとモリーが即座に駆け付け、焦点が合わないほど顔面に近づいてきた。


「小僧、このドワーフの技術の質が低いと?」


「我が同胞の畑の質が低いと?」


「い、いえ、そういう訳では……!」


 滝のような汗が流れ、青ざめるスリーナを遠くで見ていたマナと緋媛は互いに目を合わせた。

 ふっと笑いが零れる。この失言が平和に思え、この平和な時が続けばいいのにと思えたのだから。


 その後偵察が終わり、各国の評判も悪くはないようだった。

 当面はレイトーマ・カトレア両国の中でも異種族に好意のある数名と暮らし、あたかも人間の国のように見せかける事で合意した。それでダリス人はごまかせる可能性があると。

 ドワーフやエルフの移住希望者はその後に合流することになる予定だ。


「さて、一通り話がまとまったな。帰路につく前に、マナ姫から皆に話したいことがあるらしい」


 ついにきた……!

 マナのこぶしに力が入り、少しずつ汗ばんでいく。異種族の長や各国の国王がじっと見つめる中、口を開いた。


「このような場で申し訳ございません。恐れながらもお願いしたい事がございます」


「ほう、未来の我が国の王女が願いとは?」とアマツギが問う。


「……私、ずっと民がどのような生活をしていたか分かりませんでした。お父様とお母様が亡くなってから、ずっと軟禁状態でしたから。外に出るようになり、この時代に来て、様々な国を見てきた中でも一つ、とても貧しい国がありました。それは寒い雪の中放置され、生きていく事も必死だったのです……」


 一息ついたマナは固唾を飲んだ。


「どうか、ダリスの民も救って頂けないでしょうか……!」



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