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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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22話 空の旅

 ――数日後。

 カラッと晴れた青空からむき出しの太陽がじりじりとしている。

 額から流れる汗をハンカチで拭いては眩しさを遮るように頭の上に乗せているマナは、イゼルの真っ赤な背中に乗って空を飛んでおり、周りはひたすら青い海が広がっていたのだが、ようやく遠くに茶色と緑の景色が見えてきた。


「見えてきたぞ姫、あれがナン大陸だ」


 空から見るナン大陸が小さく見える。

 レイトーマ王国のあるセイ大陸から初めて船に乗った時に見た大陸は大きく感じたというのに……。


「緋媛はもうすぐ到着するだろう。各国の国王と種族の長を連れてくるよう命じたからな」


「はい。緋媛が陛下や族長様がどなたかわかるといいのですが……。少し心配です」


「問題ない。ミッテ大陸を出る前に書状を持たせたし、何より司に似ている。向こうから気づくだろう」


 確かに、と納得したマナだが、各国の師団長も共に来るはずだと予想する。

 頭の中に浮かぶのは国王の側近であり軍の総長のトロネ・アルバールとスリーナ・エンドルインの両名が言い合う様子。

 会合の時の賑わいを考えると、緋媛が到着する頃には疲れ果てているだろう。

 彼はレイトーマで特別師団長をしている時、個性の強い各師団長を相手にしながら毎回ため息をついていたのだから。


 ナン大陸の上空へ到着したイゼルはあたりを見渡す。

 マナから見て左手の方向に何やら小さな家がいくつかあるように見えた。


(あれが新しい里……江月?)


 などとマナが考えたその時、イゼルは森の中にぽっかりと開いた広い地面にズン、と着陸した。

 降りやすいようにと、イゼルは地面に突っ伏したような体勢を取ったのだが――


(……どうやって降りればいいのかしら)


 これまでマナは、上空で人型に戻った緋媛らに抱えられて一直線に落ちていた。

 が、地面に寝るように着陸したため、高い所から自ら降りるのは勇気がいる。


「? どうした」


「た、高くて――」


 怖くて降りられないと伝えようとすると、イゼルの隣にズシンと着陸した緋色の龍――緋媛だ。

 はっと息を飲みながら緋媛に声をかけようとすると、背中から慣れたように「よいしょお!」と降りるドワーフの長ザクマ・アロンドが地面を唸らせた。


「はっはぁ! 久しぶりのナン大陸ダス!」


「まったく、体力は有り余っておるのう、ザクマの小童が」


 ふわりと宙に浮き、ふよふよとドワーフの長老モリー・モギーも地面に足をつけた。

 そして緋媛の背中に残るは人間の国王二人とその側近だが――


「おいエンドルイン殿、足が震えているぞ」とにやりとトロネが笑う。


「そそそそ、そんんなことなななないいいいいぞおおおおおお! ここっ、この麗しのスリーナ・エンドルインが、たたた、高い所がここここ怖いなどどどどどど!」


 立ち上がってはいるが足が高速でがくがくがたがたと震え、誰の目にも明らかである。

 スリーナの顔も青ざめ、汗が滝のように流れながらも背筋だけは曲がってはいない。曲がっているのは表情だけなのだ。

 すると、足が滑って地面へ落ちそうになったところで、トロネの裾を引っ張る。


「貴様っ、よくも!」ガクンと体勢を崩して地面へ真っ逆さまになるトロネ。


「落ちるときは道ずれだああああ!」


 スリーナの悲鳴が木霊すると、「しょうがないのう」とモリー・モギーが指をついっと上へ向けた。

 地面に衝突する直前でふわりと宙に浮いたスリーナとトロネは体勢を整え、足から着地したのだが――


「スリーナ・エンドルイン、華麗に到★着」と両の掌を天に向けてを挙げている。先ほどの青ざめた崩れた表情はどこにもない。


「カトレアの王よ、エンドルイン殿は愉快であるな」


「むぅ……」


 カトレア国王デルト・タタ・カトレアが眉をひそめるほど身代わりの早さにあきれ顔の一同だが、モリーは「ついでだ」と両国の国王も術を使って地面に降ろしていた。


「ふぇっふぇっふぇっ、人間の娘も降りられないようじゃな。ほれ」


 モリーがマナに向けて指を振ると、ふわりと宙に体が浮かんだ。

 不思議と自らが軽く感じ、ゆっくりと地面近づいていく。両足が地面に着いたとき、体の軽さが消えた。


「あ、ありがとうございます、モリー様」


「なんの、気の利かん小童一匹の背中で不憫でな……」


「申し訳ないですな、気の利かない()()で」と人型になったイゼルはモリーとザクマに大笑いされていた。


 そして国王たちを乗せていた緋媛も人型に戻り、すぐにマナの側へ駆けつけた。


「姫、離れている間、何もなかったか?」


「はい、イゼル様の背中でしたし、安全で快適な空の旅でした」


 緋媛がほっと安心したその時、「さて」とイゼルが揃った全員の方を向き、ある方向を指さした。

 それはマナが上空から見ていた小さな家のある方角であった。


「ここから少し歩いたところに新たな里がある。行こう」


 マナの心は少しずつ踊っている。

 歴史的瞬間に立ち会える喜びと、各国の王に自分の提案をすることを――。


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