17話 二国+龍族との会談~承認~
「話が逸れてしまったな。本題に戻そう。移住はいつ頃だ」
アマツギの問いに、イゼルは「そうだな……」と少し考えてから発言をした。
「全員が一気に移住するとダリス人の目にも付くだろう。ごく少数の同族をまずは移住させようと考えている。だが、一つ問題があってな」
「問題とな」とデルトが言う。
「俺達龍族の髪の色は、鬣の色だ。つまり、レイトーマ人の茶色、カトレア人の金色ダリス人の黒髪のどれでもない同族が多い。俺もそのフォルトアもそうだ。移住先でダリス人に見つかってしまっては、元も子もない。これをどう打開しようかと……」
各国の人間にはそれそれ瞳と髪の色に特徴がある。
レイトーマ人は青色の瞳に茶色の髪。
カトレア人は金髪に緑の瞳。
ダリス人は黒髪に茶色い瞳。
これは古くから世界共通の認識である為、マナもフォルトアも理解はしていた。
ところが異種族達は容姿も違えば、人間とは違う特異性を持っている。例え上手く人間のように化けたとしても、能力を使っていたり特徴が判明してしまえば異種族だと勘づかれてしまう。
これに気付いたマナであるが、彼女は物心つく頃から江月は閉鎖された人間の国と学んでおり、更には歴史調査禁止令により昔の事は判らぬままなのだ。
(そうよ、このまま異種族だけの移住ではきっとダリス人に見つかってしまう。そうなるとあの恐ろしい狩りが……!)
ぞく、と身を小さく震わせるマナ。
これに提案をしたのはトロネであった。
「ならば我が軍の小隊を派遣しては如何です。まだ小さいという新たな龍の里の拡充の手伝いをし、表向きは我が軍の住まいとして見せれば問題ないでしょう」
「良い考えだがしかし――」と難色を示すイゼル。
これに競り合うように、スリーナがバンとテーブルを叩いて立ち上がった。
「何と抜け駆けを! ならば我が軍の小隊をお使いください! カトレア王国は芸術の国。時折の休息の為、異種族の皆様に観客となっていただく事も可能! このスリーナ・エンドルイン率いる麗しの部隊は、華麗な演武を披露できましょうぞ」
「何を言うか! お前はいつも麗し麗しとほざきくさって! ワキガ臭い上に女のような名前の男のどこが麗しい!」
「ワ、ワキガ臭い……だと!? 馬鹿な!! この日の会合の為に一日五回は入浴したというのに、まだ足りなかったというのか、アルバール殿!」
「私に聞くな!」
くんくんと自らの脇の匂いを嗅ぎながら青ざめているスリーナと言い争いを始めたトロネ。
「また始まった」と呆れる両国の国王は、トロネとスリーナを無視して悩むイゼルを気にした。
両腕を組んで眉を寄せるイゼルに声を掛けたのはアマツギであった。
「……トロネの案、悪くないと考える。だが、片方の軍がナン大陸にいては、ダリスからすると領土を取られたように見えるだろう」
「おお、そうかアマツギ殿。両国の小隊が手を貸せば良いというのだな」
アマツギの思考を読み取ったデルトは、膝をポンと叩いて閃いたように目をぱっちりと開いた。
これに「しかし」とイゼルが重々しく口を開く。
「同族含め、異種族全体が人間に対し警戒をしている。ナン大陸へ行くことに同意してくれたものの、そこに暫く人間もいるというのは……。姫一人でも相当な警戒……、いや、威嚇をしている。争いはしないだろうが、貴国らの民に不快な思いをさせてしまうだろう。それは不本意だ」
「ううむ、それは確かに……」とデルトが難色を示すと、
「一理ある」とアマツギが目を細める。するとマナが「それでは」とある提案をした。
「エルフやドワーフ、妖精にご協力を依頼して、その上で両国の小隊と共に里の整備を続けつつ、龍族の移住を少しずつ進めてはいかがでしょう。ご理解を得た方々からの移住していただいて、異種族と人間の関係をより良好にしていく事で、警戒をしている龍族の心も解けていくのではないでしょうか」
アマツギもデルトも、この意見に関心と興味を示す。
この先は人間と龍族でと考えていたが、他の異種族に協力を要請する事で異種族全体を守ることが出来る。ダリス人に滅ぼされる前に保護出来るのだ。
「なるほど、それは良い考えだ。我が同族は他種族には理解がある。彼らと共にいる人間であれば警戒心は薄れるだろう。幸いにも、エルフとドワーフの中にも移住を希望する者もいるし、人間に対しても我々ほどではない。聡明なエルフがいるならばその案に見込みはある。早速モリー殿とザクマ殿に要請しよう」
「ふむ。見通しも立ったところで、建前ではあるが新たな国として『江月』を承認しよう。デルト殿もよいか」
こくりと頷くデルト。
二人の人間の王は建国の承認として書面に署名をした。未だ美しさや男らしさ、騎士としての誇りやらなにやらと口論を続けるトロネとスリーナを放置して。
こうして二国の王の承認のもと、新たな国として『江月』が建国された。
その後マナ達はエルフとドワーフへナン大陸への移住を要請し、希望者のみという条件付きで承諾される。
しかし龍族の多くは違ったのだった――。