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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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16話 二国+龍族との会談~警戒~

「さて、五年前より計画をし、三年かけてようやく小さい里が出来た。当初は我ら異種族のみで作ろうとしていたが、アマツギ殿とデルト殿のご助力のお陰で、ダリス帝国に気付かれずに順調に進める事が出来た事、感謝しよう。ありがとう」


 ドワーフの洞窟でザクマより三年掛かったと聞いていたマナとフォルトアだったが、この時初めて計画自体は五年前からと知った。

 緋倉やゼネリアが生まれる前から始まっていたのだ。


「よい、我らは異種族が平穏に暮らせる協力をしたまで。そうであろう、デルト殿」


「うむ。で、国の名はどうするつもりだ? 移住はいつ頃になる」


 国の名、移住――。

 いよいよ建国に関する事を、時代の歴史の瞬間を目の当たりに出来ると喜びを隠せないマナ。顔から笑みが零れ、イゼルから出るであろう『江月』の名を聞く事を待ち望んでいる。


「人として住むんだ。国の名は決めている」


 イゼルは紅茶を一口飲み、カップを置くと一息ついて答えた。


「ミッテ大陸の象徴である江の川。満月になると金色に照らされるその川を忘れぬよう、『江月』と名付ける」


 この時、マナは異種族の宴の際に見た美しい江の川を思い出す。月明かりと共に川の光が増し、輝くその川の様子を――。

 これにはアマツギもデルトも却下する事はなかった。


「江月か。なかなか良い名だ。我が国の地名に欲しいぐらいだな。芸術性が広まるだろうに」


 デルトが言うと、アマツギも二度頷く。


「うむ。ミッテ大陸の江の川、満月の日は素晴らしいものであった。緑豊かで異種族達が植物と共存している証でもある。後世で語るには良い名だろう」


 ナン大陸に出来る里の名は、両国の国王の同意でもって承認される。

 新たな人間の国という名目でも、龍族の里という点でも問題はない。両国の軍の責任者であるスリーナとトロネも合意した。

 だが、曇った表情でマナはぽつりと「後世」と口にする。


「新たな国の名に何か問題でも?」と尋ねるのはデルト。


「その前にイゼル殿、その娘と青年は?」


 アマツギが問うと、一斉にマナとフォルトアに視線がいく。

 フォルトアは至って冷静だが、マナはきゅっと唇と締めて緊張する。


「ああ、そういえば紹介がまだだったな。この話を信じられるかどうかだが……」


「龍族の長であるイゼル殿の話を信じぬとでも? 私もデルト王もそんな事はない。お前たちもそうだろう、トロネ、エンドルイン殿」


 と、大きな口を開けて笑うアマツギ。

 トロネもスリーナも頷きはするが、スリーナはどこか怪しんでいるようだ。それもそのはず。紹介もなく見ず知らずの何者かも分らぬ者が国王の近くにいるのだから。

 イゼルが「彼らは」と紹介を始める。


「これより二百年先の未来から来た我が同族と……、レイトーマ王国の王女だ」


 これに一同はざわついた。

 未来からという点もそうだが、レイトーマ王国の王女がいる。アマツギにとってはその後の子孫である為に、マナは興味深い。

 イゼルが名乗りをするよう促すと、マナから口を開いた。


「マナ・フール・レイトーマです。アマツギ様のお名前はレイトーマ王家の書物で存じておりました。お会い出来て光栄です」


「ほう、この可愛らしい娘が我が子孫か。……いやはや信じがたい。だがイゼル殿が未来から来た我が国の王女というからにはそうなのだろうが……、ううむ」


 興味深いが突然の子孫に動揺を隠せないアマツギは、頭を抱えてしまう。

 果たして信じていいものかと……。


「僕はフォルトア・ルフェンネンスです。この度は姫様の護衛として同行させていただきました」


 にっこり微笑むフォルトアに、スリーナは「ふん」と鼻を鳴らした。


「なかなかの優男じゃないか。陛下、この麗しのスリーナはこの龍族の雄が怪しく思います。こういう張り付いた笑みを浮かべる奴は、腹の底に黒いものを持っているものです」


 じろりとフォルトアを睨むスリーナに、デルトはぴしゃりと言う。


「お前は正直者で裏表がないが、初対面の相手にもそれだ。気遣いが足りぬぞ」


 だが、スリーナは悪びれもせず良い所だけを捕らえるのだ。


「半分お褒めの御言葉、感謝致します。が、正直者ですからこの際はっきりと申し上げましょう。龍族の雄が、ではなく、その二人が本当に未来人なのかも怪しいと思うのです。この麗しのスリーナ、証拠も根拠もなく信用する程甘くはない!!」


 体を横切るように腕を伸ばし、指をマナに突きつけるスリーナ。

 ビクリと体を震わせるマナは一瞬目を見開く。


「エンドルインよ、我が子孫と名乗るにはそれなりの覚悟がある。信用せぬと言うのか」


「言う!」


 例え他国の王だろうと、スリーナは正直に答える。その表情には正義の言葉しかない。

 これに同調するのは「確かに」とゆっくり口を開くトロネであった。


「名乗るだけならば誰でも出来る。イゼル殿は何をもって二人が未来人だと信用したのです。我が陛下、デルト国王陛下、イゼル殿に対する信用を未来人二人の信用に繋げてはいけません。もしかすると、イゼル殿も騙されているやもしれませぬ」


「疑うのは単にその二人が怪しいからではありません。この麗しのスリーナとトロネ・アルバール殿は、各々の主を護るが為に警戒しているのです。さーあイゼル殿。その二人を未来人だと言い切る理由は何か? お話くだされ!」


 各国の軍の頭であるが為、国を、国王を護る。ほんの少しの怪しい可能性が残っている限り、マナ達を信用する訳にはいかない。

 軍の頭の言葉には何も返さず、アマツギとデルトは視線を合わせるとイゼルの方へと目をやった。

 イゼルはマナが未来人だと信用する理由を単純に語る。


「未来の俺が書いた書面にそう書かれていた。理由はそれだけで十分だ。それにこの場にはいないが、司によく似た未来の息子も来ているからな。未来人だと信用するに値すると判断した」


「ほう、あの最古の純血と名高い片桐司殿の息子とな。ならば信憑性は高かろう。まずは信用してみてはどうか」


 デルトは頷いたが、スリーナとトロネは首を捻る。

 捻って捻って捻った結果、「陛下がそうおっしゃるのなら」と渋々マナ達を信用することにした。


 ほっと安堵するマナとフォルトア。

 しかし彼女の中にはある疑念が生まれた。最古の純血が何を指すのか、この会談が終わってからでもいい、聞いてみようと――。





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