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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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14話 US2051年のレイトーマ王国~活気ある街~

 エルフの里、ドワーフの洞窟へ立ち寄ったマナ達一行は、ドワーフの洞窟より南であり、セイ大陸の中心に位置するレイトーマ王国へと向かった。


 現代より約二百年前であるUS2051年のレイトーマ王国であるため、現代の王女であるマナにとっては実際にその目で見るという、これとない機会である。


(US2051年は確か、アマツギ・イーア・レイトーマ王だったはず。どのようなお方なのかしら)


 そんな事を考えながら心躍っている様をが表情に出しながら先を行くマナを見て、イゼルとフォルトアは微笑ましく思う。二人はマナに聞こえぬよう、こそっと話をした。


「モリー・モギー様とザクマ・アロンド様の仰っていた事は、もう気になっていないようですね」


「ああ、それほどレイトーマが気になっているんだろう。ん、お前達にとっては過去のレイトーマか。紛らわしいな」


 と、ぽりぽりと首を掻くイゼル。

 イゼルにとっては現在進行形の現代であるが、マナとフォルトアは未来人であるが為に言い方を変えなくてはならない時がある。この場合、イゼルにとってマナがレイトーマの姫であるという事は緋媛達から聞いただけであり、実際の王子は他にいる為に実感がない。その為、マナはレイトーマに初めて来るのではないかとも思ってしまうのだ。


 すると、ようやく街の入口に辿り着き、マナが足を止める。


「どうした姫。街へ入らないのか」


 イゼルの声にはっとした彼女は、街を見て少々絶句していたようだった。それもそのはず、現代と過去のレイトーマでは街の入口から違っていたのだから。

 マナはそれをこのように語る。


「いえ、少し驚いただけです。これより未来のレイトーマは、街の入口から大勢の人が賑わうような街ではありませんでした。それはとても恥ずかしい話でありますが……、こうして見ると、進歩し続ける未来ではなく、退化した未来にしてしまったのですね。この責任は、私のような何もしない王族にあるのでしょう」


 街の入口から見える人の多さ、市場のように羅列し出店で賑わう人々。

 この活気を見るだけで誰もが心躍らせるレイトーマの街並みだが、マナは過去と未来の国の差に心を痛めたのだった。


 これにフォルトアは「姫様のせいではありません」と口を出す。


「父君であるマクトル様の代までは、これ以上に栄えておりました。カトレア王国との交流を図り、国民に他国の娯楽という楽しみを与え、レイトーマ産の飲食物を輸出する。その規模は代が変わる度に拡大していたのです。現代のあの様子は全てマライア様がなした事ですから、姫様の責任ではありません」


「……フォルトア、貴方は本当にお優しい方ですね。その言葉に感謝は致しますが、事実国民は私の事を税金泥棒とも仰ってました。お兄様を止める事すら出来なかった、愚か者王女です。緋媛でしたらきっと、これに否定しないでしょう」


 否定せずに冷たく「そうだな」と言う様子が浮かぶマナとフォルトアは、互いにクスクスと笑い合う。

 が、現代――未来での王女の姿を知らぬイゼルは、この会話から先の暗い国になるという事は察したのだが、マナが何もしない王族だという事は信じられなかった。この時代を変えようとしている人間が、何も出来ない訳がない――と。


「お前達、カトレアとレイトーマの国王を待たせてしまっては申し訳ない。それに姫には、相応の恰好に着替えてもらわなければ」


 と、イゼルが手に持っている風呂敷をマナの視界に入れた。


「それは確か、エルフの里を出る時から持っていらしたものですね」


「ああ、紙音と薬華に任せては王女に似つかわしくない服装ばかりだからな、エルフに頼んで作って貰ったんだ。サイズが合うかは分らんが……」


 肩眉を上げて怪訝そうな表情を浮かべるイゼル。

 ある程度のサイズは紙音を薬華に聞いていたのだが、実際に着てみないと分からない。

 レイトーマの王女は代々肌を見せる事が少ないワンピースを着ているので、丈が短すぎたり長すぎたりしなければよいのだ。


 マナはこの心遣いに感謝し、一行はレイトーマ城へと向かった。


 街の中は入口よりも活気に溢れ、至る所から「採れたての野菜があるよー!」「寄って見てってー!」などという掛け声が飛び交っている。中には「そこの奥様」と言って客足を向かせる人もいた。

 これはマナも例外ではない。


「そこのお嬢さん! 目がぱっちりしたお嬢さん」


 ふとその声の方へ視線をやると、果物売り場の商人がマナに手招きをしている。

 マナは行っていいかイゼルとフォルトアを見やると、「少しならば」という事で売り場に近寄る事を許可した。

 三人でその売り場へ行くと――


「あややっ、男連れかい。まあいい、可愛い子にはサービスの日で……って、ん? その赤髪にその着物……もしや噂の龍族の族長さんですかい!?」


 マナよりイゼルが視界に入り、若干引き気味で驚く店主。

 そしてその声で周りが一斉にイゼルの方を振り向いた。

 全く気に留めない彼は、「そうだ」とさらっと答える。

 すると周りから騒めきの声が。


「龍族って確か今、ダリス人の異種族狩りにあってるんじゃなかったかしら」


「大丈夫なのか? 族長が里を離れて」


 このような声が上がるのも無理はない。異種族狩りの事は、この時代では世界的に有名な事件として知れ渡っているのだから。

 だがそれは、王室より展開されている情報でしから国民は知り得ない。マナは自分自身が経験し、捕らわれた異種族がどのような扱いをされているのか、その目で見た為、よく知っている。それ故に、国民が心配するのも無理はない、と思ったのだった。


 これにイゼルはこう答えた。


「そうだな。確かに俺は里を離れるべきではない。遣いに頼むべきだった。だが、人間の国王との会談で、遣いを出すのは失礼だろう。それに俺には信頼できる右腕がいる。里の事は何も問題ない」


 信頼できる右腕とは、緋媛の父である片桐司の事を指している。緋媛の父、といっても未来の話ではあるが。

 これにフォルトアは疑問に思う。


(これほど司様へ信頼を寄せているというのに、何故あの方はダリス六華天の長なんだ。イゼル様も緋倉様も、司様は里の事を考えていると、信用して欲しいとは言っていたけど……)


 里の為にダリスへ行く理由が分からぬフォルトア。

 これを知るのは現代のイゼルと緋倉だけだが、聞いたところで決して話す事はないだろう。恐らく知ってしまったら、未来を見る事が出来る破王ケリンに覗かれてしまうのだから。


 そのような事をフォルトアが考えていると、イゼルは周りのレイトーマ人に「では、我々は城に急ぐので失礼」と微笑み返していた。




 この後、マナ達はレイトーマ城へ足を運び、カトレア、レイトーマの国王の会談に参加することになる。







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