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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
1章 江月とレイトーマ(旧:世界の人々)
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10話 クーデター②~一つの時代の終わりと始まり~

 この日の夜、寝ていたマナは途中で目を覚ました。幼少期に弟のマトと遊び、彼が兄の手に掛かって斬られそうになった夢を見、驚いて。

 部屋から廊下に出て座り、中庭の上空から見える月を眺めて思う。


(マト、貴方はお父様に似ているのかしら)


 彼女自身、弟は生きていると信じ、安否を気にしている。

 幼い弟しか知らないが、周りから良く父である先代国王マクトルと似ていると言われていた為、成長した姿を想像していた。


 ***


 そのマトは、マナの予想通りマクトルに似ていた。顔だけでなく、立ち振る舞いや言動も。国王の名に相応しい程に堂々としている。

 マライアとは真逆に国王になるべく成長していたのだった。


 まるで父親を見ているかのように眼を疑うマライアは、シドロの胸倉に掴みかかる。


「シドロ! 確かに遺体があったと言っていたな! この私をだましていたのか!」


「いえ、確かに確認しました。この目で」


「生きているではないか! どうしてくれるんだ!」


 焦るシドロの胸倉から投げる様に手を離したマライアは、醜くも興奮している。

 その姿が異常だと思いつつ、マトは淡々と兄に過去の真相を告げた。


「……私が生きていると不都合でしょうね。あなたの命令でそのシドロが父上と母上を手にかけたのですから。姉上に、国民に知られては国王という立場すら危うい。ですから目撃者である私を始末しようとしたのでしょう」


「シドロ! お主が先代国王陛下のマクトル様を殺したのか!」


 怒るツヅガはマクトルに忠実であった。

 国民を愛し、自身の事より国民の声を聞いて政治に生かす。彼の口癖は、国民は宝、でだったのだ。

 そのマクトルと王妃を殺害した犯人を知ったツヅガに、シドロがフンと鼻を鳴らす。


「今頃気づいたか、老いぼれめ。」


 シドロはマライアが命じるがままに、ツヅガが師団長にした人物。

 国王の推薦の師団長は身辺調査を行われない場合がある。シドロも同様で、素性も知れないままであった。

 代々レイトーマ師団に仕えているアルバール家を護るためとはいえ、ツヅガは隠密部隊の師団長にした事を恥じた。


 気が立っているマライアは、化けの皮を剥がしたかのようにシドロに命じる。


「やれ! この場にいる奴らを皆殺しにしろ!」


 短刀を抜くシドロ。ギラリと光るそれをマトに向け、構える。

 瞬間、マトと共にいる黒服の男が前に飛び出した。刀と刀がぶつかり合う金属音が鳴り響く。


「……何者だ」


「だたの侵入者ですよ」


 金属が擦れる音がギリギリとし、王の私室の中では緊迫した空気が流れる。

 シドロは()()()()()()決して弱くはない。

 が、彼は黒服の男に背後を取られ、あっさり床に叩きつけられて動けなくなってしまった。


「何をしている! そんな奴に捕まるとは!」


 増々頭に血が上るマライア。

 マトは彼の前に立ち、冷静に交渉しようと呼びかける。


「兄上、話し合いに応じていたけませんか」


「賊の戯言など聞かんわ!」


 即座に一蹴され、やはり無駄だったかと落胆するマト。

 彼はふっと笑い、哀れな目で兄を見つめる。


「賊か……。そうだな。侵入してきたもんな。仮に正面から行ったとしても、兄上は私と話すことはなかったでしょう。それどころか片付けようとしたはずです。こうするしかなかったんですよ」


「ツヅガ! なぜこんな賊をここへ連れてきた!」


「私は貴方の弟であり、第二王子です。ツヅガを責めるのは違います、私が命じたからです。この国の王子として」


「亡霊がよく言うわ!」


「賊の次は亡霊ですか。どうあっても私の存在を否定したいらしい。あなたが国民を蔑ろにしている間、私は多くの国民を味方につけました。その国民が今なぜデモを行っているか、知りたくもないでしょうね」


「貴様、まさか!」


「そうですよ。ここへ来る前、国民一人一人に私の素性を明かし、父上が亡くなった真実を明かしてきました。元々あなたへの不満は溜まっていましたしね、きっかけは作りやすかった。問題はタイミングでしたよ。姉上を巻き込みたくなかったので」


 マナが緋媛と城から抜け出した所を見ていたマト。

 どうしても姉だけにはこんな自分とこの後起こるマライアの姿を見られたくないと、この機を逃す訳にはいかなかったのだ。


 室内の剣を手に取ったマライアは、その手でマトを刺し殺そうと向かって行く。

 と思われたが、その矛先はまずツヅガに向けられたのだ。戦力を削ごうとして――


「まったく、俺に向かって来ればいいものを……」


 老いたツヅガでは一瞬の遅れで怪我をしただろう。

 ツヅガの前にするりと入り込み、剣を剣で受け止めたマトは、怒りを露わにした。


「ツヅガも大切な国民の一人だ! それさえも忘れたか! 兄上!」


「国民など、ただの道具だろう!」


「……もう何を言っても無駄ですね。残念です」


 王族としてではなく、個人の利権に捉われた兄に向けた表情は悲しい。

 ここで引導を渡さなくては国民の為にならない。

 マトは受け止めていた剣を跳ね除け、そのままマライアの胸を深々と斬りつけた。

 悲鳴を上げながらのたうち回るマライアを見下しながらマトは言う。


「まだ死なれては困ります。あなたには最後に国王としてやって頂きたい事がある」


 と、そこへユウがやってきた。


「マト様ぁ~、第一師団の筋肉バカ共引っ込めましたよ~」


 血を流すマライアを見てヒュゥと口を鳴らすユウは、縄で拘束されているシドロを確認し、思う。

 ――やはり俺の感は正しかったらしい。


 黒服の男はその時既に姿を消していた。


「ご苦労。被害は?」


「国民の死者は六名ってとこでしょうかね、けが人は多数ですよ。今アックスら第一師団が国民に土下座しながら怪我人の手当してます」


「そうか……。アックスの土下座程度で許されることではない。兄上、民衆の前でその首頂戴する。ユウといったな、お前はそこのシドロを牢に入れておけ」


 マトは抵抗するマライアを無理矢理立たせると、民衆を見渡せるバルコニーへ向かう。

 マトの後ろを追うツヅガに、シドロが何をしたか問うユウ。ツヅガはため息を付けながら答えた。


「先代国王と王妃の殺害じゃよ……」


「……マジかよ」


 目玉が飛び出す程に驚いたユウは、じろりとシドロを見るなり服の襟を掴んでずるずると引き摺って行った。


 ***


 バルコニーに着いたマト、マライア、ツヅガ。

 見下ろすと、城前の広場には既に国民とレイトーマ師団が立っていた。

 固唾を飲んで現国王の最後を見届けに来たのであろう。

 ところが国民からは次々とマライアへ恨みの声が上がる。


「お前は歴史史上最低最悪の国王だー!」


「レイトーマ王国の恥!」


「やっちまえトーマ! じゃねえや、マト様!!」


 その声を受け入れぬよう耳を逸らすマライアの首元に、マトはゆっくりと剣を突き立てる。


「言い残す事はありませんか」


「こんな事を聞かせるために、私をここに連れてきたのか。私の死を見せつける為に連れてきたのか」


「こうしなければ、国民は納得しません」


「……それが、弟のする事か」


「貴方は父上と母上を殺した。私のすること等、貴方のした事に比べれば可愛いものでしょう」


「マナが悲しむ。私を殺した事で、お前が手を汚したと心を痛めるだろう」


「……でしょうね。姉上は心優しいお方ですから。ではそろそろ……」


 登って来る朝日を目にし、瞳を閉じたマライア。

 両手で剣を握り直したマトは、彼の首を目掛けて横に剣を振った。


「……さようなら、兄上」


 鮮やかに散った鮮血がマトの頬に跳ね返る。

 彼は国民の方へ体を向け、兄だったものの首を目の前にかざす。


「皆の者! 取り戻したぞ! この国を!!」


 マトが勝利宣言をすると、国民から勝利の雄叫びが鳴り響き、マトを称える声が木魂する。

 その様子を後ろから眺めていたツヅガは空を見上げ、こう報告をした。


「マクトル様。また、この国の一つの時代が終わり、始まりを迎えました……」




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